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第三章 どうせなら楽しもうと思う

39 気にしません

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「私は全然気にしませんから、大丈夫ですよ、ユージーン様」
「……そう、か……」

 にこやかな笑顔のジョシュアに、ユージーンの表情は若干くもっている。

「謝罪を受け入れてくれて、本当に感謝する。しかし、無理する事はない。私と共に第三騎士団で活動するのが不安であれば、辞する心づもりはもうしてあって」
「いえ、とんでもありません! これからもよろしくお願いします!」

 ニコニコニコニコ。

「…………」

(ああ、もうすっかり辞めるつもりだったから、複雑な気持ちになっているな)

 ユージーンの心の内を正確に察し、ノアは苦笑した。

(いやまあ、俺もちょっと……ホッとしたけど、残念な部分もあるんだよな。第三辞めて一緒に冒険者になろうって、すっかり盛り上がっちゃってたから……)

 王都に戻って数日後。
 今回の魔獣討伐の功労に対し、第三騎士団は全員、賞与と三日間の休暇をもらった。一斉に休むわけにはいかないので順番にとる事になり、運よく休みが重なったので、レイモンド、ジョシュア、ユージーン、ノアの四人で話し合いの場を設けた。
 場所は街の高級めの料理屋で、個室を用意してもらった。
 ちなみに前日のうちにノアがジョシュアに尋ね、レイモンドと付き合い始めた事は確認済みだ。
 そしてユージーンは偽る事なく、嫉妬からジョシュアの死を願ってしまったと告白し謝罪をしたのだが、ジョシュアはあまりにも簡単に「全然気にしません!」と謝罪を受け入れた。

「本当にいいのか?」

 恋人を心配しレイモンドが尋ねたが、ジョシュアは「はい!」と即答した。

「そういう事もありますよ。誤解が解けたからもう大丈夫でしょうし。ノアもその方がいいよね?」
「お、おお」
「それじゃあお話はここまでという事で、食事にしましょう。今日はユージーン様がご馳走して下さるという事なので、最高のお肉、頂きますね!」
「……あと高い酒な」
「それは勿論いいが……本当に、こんなにあっさりと……」
「本人がいいって言ってるんだから、いいだろう。俺はジョシュアの決断を尊重する」
「……すまない。今後、このような事は二度と無いと約束する」
「ああ、そうしてくれ」
「大丈夫です、信用しています!」

 その後四人は高い料理と高い酒を沢山注文し、普通に会食を楽しんだ。



「俺、ジョシュアが『第三は怖くて来たくなかった』って言うから、無理矢理配属されたのかと思ってたんだけど、違ったんだ」
「ああ、ごめんね、紛らわしい言い方したかも。実際は、怖いけど給金が良いから希望して入った、って事なんだ」

 美味しい食事と酒に、最初のうちはお互いのパートナーに対し緊張していたノアとジョシュアもすっかりリラックスし、ワイワイと話している。まあ、この二人は、酒は一、二杯しか飲んでいないが。

「僕、伯爵家の七人兄姉きょうだいの末っ子なんだけど、うちは田舎で小さな領地しかなくて貧乏で。すぐ上の姉が結婚を控えていたんだけど、嫁入り道具とか揃えるお金がなくて困ってたんだ。相手の人は、何も持って来なくていいって言ってくれたんだけど、そういう訳にもいかないし……で、少しでもお金がつくれたらって思って第三を希望したんだ」
「なるほど……無理に入れられたんじゃなくて、良かったよ」
「うん。それに、第三に入ったからレイモンド様にも会えたし」
「……まあ、な」

 どんな反応をするかと期待して様子を覗ったが、レイモンドはその一言だけ言ってワインを口に運んだ。期待外れである。

(照れるレイモンドが見られると思ったのに……)

 ちょっとがっかりしながら、ノアはジョシュアに尋ねた。

「で、お姉さんは結婚したのか?」
「これからだよ。秋に結婚するから、その時は休みをもらって帰るつもりなんだ」
「そっか。楽しみだな」
「うん!」

 そして、最後にデザートを、という事になりそれぞれ好きな物を注文したところで、ノアが「そうだ」と声を上げた。

「レイモンド様とジョシュアに、ちょっとしたプレゼントがあるんですよね、ユージーン様」
「ああ」

 頷き、ユージーンは二人の前に房飾りの入った袋を出した。

「帰りに立ち寄った街で買った物だ」
「ありがとうございます。……あ! これ、短剣に付ける飾りだ! ありがとうございます」
「選んだのはノアだ」
「ありがとう」

 ニコニコしながらジョシュアは金と濃青の房飾りを袋から取り出し、レイモンドの前に並べた。

「レイモンド様、どちらがいいですか?」
「どっちでもいいが……そうだな、ジョシュアが金の方がいいんじゃないか? 金は、お前の髪色だから」

 レイモンドがそう言う。

(あー、やっぱり、相手の色を付けるって発想はないんだな)

 ノアがそう思っていると、

「レイモンドが金、そしてジョシュアが青だ」

 ユージーンがきっぱりと言う。

「ん? ジョシュアには金の方が似合うと思うが?」
「あー、そうかもしれませんが……是非レイモンド様が金を」

 とノアも勧める。

「レイモンド様がジョシュアの色を、そしてジョシュアがレイモンド様の色を持つように、と思って選んだんです。ちなみに私も、ユージーン様の瞳の色に近いものを選びました」
「これはノアに貰った、ノアの髪と瞳の色の結い紐だ」

 三つ編みの先を結わえている紐を見せながらユージーンが説明し、レイモンドとジョシュアはハッとしたようにお互いを、そして房飾りを見た。

「なるほど、そういう……」
「すごい、そんな事全然考えなかった」
「ノアの考えだ」
「えっ、そうなんですか? ノア、君にそんな甘い発想があるなんて……」
「はっ? 甘い? いや、そんな事ないだろ」
「そんな事あるよー。いやー、凄いね、愛って!」
「恥ずかしい事言うなよ! いや別に、どっちの色付けてもらっても構わないんで、あとは二人のお好きなように……」
「もちろん! 僕が青を付けるよ。レイモンド様、それでいいですよね?」
「ああ、そうしよう。良い物を、感謝する」
「保護魔法を施しておいたから長く使えるだろう」
「ありがとうございます」
「そうだ、付ける時は……」
「うん?」
「あ、いや、なんでもない」
「えっ? 何なに?」
「いや、ホント、なんでも」

 ここで扉がノックされ、デザートとお茶が運ばれてきて話はそこで終わったが、

(お互いに相手の剣に付けてやるといいよって言おうと思ったけど……絶対ジョシュアに『そんな事考えるなんて! 愛って凄い!』って言われるから黙っておこう)

 そう思いながら、プリンを黙々と食べるノアだった。



 
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