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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい
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目を開けると、部屋の中は日の光が入っていて明るかった。
ちゃんと見ていなかったが、置いてある家具はベッドとサイドテーブルだけ。よくある安宿の一人用の部屋だ。
(あー……いつの間に寝たんだ? 熱……下がってる。吐き気、治まったな。体は痛いけど……これは寝すぎたせいっぽいな……はぁ……酷い目にあった……)
よいしょ、と起き上がり、サイドテーブルの上に水差しを発見して飲んでいると、扉が開き治療師が入って来た。
「うわっ! 起きたか! 良かった~」
「あ、お世話かけました。えーと、今は……」
「あれから三日目の昼だな」
「三日! ですか? うわ……」
「起きていられそうなら、食事をもってくるが? といっても、消化がいい粥だがな」
「はい、ありがとうございます」
食事を待つ間にトイレに行き、動ける事を確認した。ウィリアムの言う通り、一時の辛ささえ過ぎてしまえば、その後の後遺症は無いらしい。
(と言っても、もう二度と飲まんけど)
穀物をミルクで柔らかく煮た粥を食べ、次の食事は普通のヤツがいいな、などと思いながら風呂に入りサッパリしたところで、ウィリアムが様子を見に来てくれた。
「どうだい? 調子は」
「もう大丈夫です。こんなに寝てたっていうのは驚きましたけど」
「ポーションのせいもだけど、君の場合、ユージーンの治療の為に力を使い果たした、っていう事もずっと意識が無かった原因だと思うよ。さて、と。どうする? ユージーンに会いに行ってみる?」
その言葉に、ノアはすぐさま反応した。
「ユージーン様、どうですか? 意識は戻ったんでしょうか? 目は? 見えてますか?」
「うん、ちゃんと見えているよ。体の方も問題ない。でも……精神的に参っているようでね」
「そう、ですか……」
救えなかった、という思いに、胸が痛くなる。
「ユージーンは、翌日には目を覚ましてね。コカトリスの毒の影響もなく、視力にも問題はなかった。けど、絶望した顔をして、食事もまともにとらない、というか、とれないんだ。食べても、戻してしまってね。もちろん、毒で胃がやられたとか、そういうことではないよ。自分はここにいる資格がないって言うんだよ。団長には、第三騎士団を辞めたいと申し出たそうだよ」
「そんな……」
何もできなかった、と悔しくなる。
いや、何も、という事は無いだろう。
(ユージーンは隻眼にならなかった。傷は……どうだろう、漫画の時よりは残っていないんじゃないだろうか。それだけでも良かったと……いや、違う。俺は、ユージーンに傷ついて欲しくなかったんだ!)
最初は、ユージーンと恋人同士になるのは無理、と思ったから、それを免れる為はどうしたらいいかと考え、彼が闇落ちしなければいいと思った。その為には、ユージーンがジョシュアを助けなければならない状況を潰せばいいと思った。そして、ユージーンが怪我をしなければいいと思った。
(けど実際は、特訓で一緒にいる機会が増えたら、ユージーンが辛い思いをしなければいいと願うようになった。ユージーンはいい人だから、幸せになって欲しいと願っていたんだ。だから今の状況は、本当に、なんの役にも立たなかったとしか言いようがない……)
「あの……会いに、行っていいんですか?」
「もちろん。だってノアは彼を救ったのだから、その権利があるでしょう?」
「え、いや……そういう理由で、会ってみるかなんて聞いたんですか?」
権利という言葉を聞いて思わずしかめっ面になったノアに、ウィリアムは『すまない』と小さく笑った。
「正直、君ならどうにかできるんじゃないかって期待を込めて聞いたんだよ。困った事に、私も団長も、どうする事もできなくてね。君には感謝しているだろうから、少しは話を聞くんじゃないか、とね」
「レイモンド様はどうなんですか? お二人は仲がいいですからきっと」
「もちろん会わせたよ。でも全然……誰の声も、今の彼の心には届かないようで……」
「そんなの、私が会ってもどうにも……」
「私は、ノアなら、と思っているんだよ。だって、死の淵からユージーンを救ったのは君だからね」
「…………」
その言葉を聞き、ノアは覚悟を決めた。
「そうですか……あの、ぜひ会わせて下さい」
ちゃんと見ていなかったが、置いてある家具はベッドとサイドテーブルだけ。よくある安宿の一人用の部屋だ。
(あー……いつの間に寝たんだ? 熱……下がってる。吐き気、治まったな。体は痛いけど……これは寝すぎたせいっぽいな……はぁ……酷い目にあった……)
よいしょ、と起き上がり、サイドテーブルの上に水差しを発見して飲んでいると、扉が開き治療師が入って来た。
「うわっ! 起きたか! 良かった~」
「あ、お世話かけました。えーと、今は……」
「あれから三日目の昼だな」
「三日! ですか? うわ……」
「起きていられそうなら、食事をもってくるが? といっても、消化がいい粥だがな」
「はい、ありがとうございます」
食事を待つ間にトイレに行き、動ける事を確認した。ウィリアムの言う通り、一時の辛ささえ過ぎてしまえば、その後の後遺症は無いらしい。
(と言っても、もう二度と飲まんけど)
穀物をミルクで柔らかく煮た粥を食べ、次の食事は普通のヤツがいいな、などと思いながら風呂に入りサッパリしたところで、ウィリアムが様子を見に来てくれた。
「どうだい? 調子は」
「もう大丈夫です。こんなに寝てたっていうのは驚きましたけど」
「ポーションのせいもだけど、君の場合、ユージーンの治療の為に力を使い果たした、っていう事もずっと意識が無かった原因だと思うよ。さて、と。どうする? ユージーンに会いに行ってみる?」
その言葉に、ノアはすぐさま反応した。
「ユージーン様、どうですか? 意識は戻ったんでしょうか? 目は? 見えてますか?」
「うん、ちゃんと見えているよ。体の方も問題ない。でも……精神的に参っているようでね」
「そう、ですか……」
救えなかった、という思いに、胸が痛くなる。
「ユージーンは、翌日には目を覚ましてね。コカトリスの毒の影響もなく、視力にも問題はなかった。けど、絶望した顔をして、食事もまともにとらない、というか、とれないんだ。食べても、戻してしまってね。もちろん、毒で胃がやられたとか、そういうことではないよ。自分はここにいる資格がないって言うんだよ。団長には、第三騎士団を辞めたいと申し出たそうだよ」
「そんな……」
何もできなかった、と悔しくなる。
いや、何も、という事は無いだろう。
(ユージーンは隻眼にならなかった。傷は……どうだろう、漫画の時よりは残っていないんじゃないだろうか。それだけでも良かったと……いや、違う。俺は、ユージーンに傷ついて欲しくなかったんだ!)
最初は、ユージーンと恋人同士になるのは無理、と思ったから、それを免れる為はどうしたらいいかと考え、彼が闇落ちしなければいいと思った。その為には、ユージーンがジョシュアを助けなければならない状況を潰せばいいと思った。そして、ユージーンが怪我をしなければいいと思った。
(けど実際は、特訓で一緒にいる機会が増えたら、ユージーンが辛い思いをしなければいいと願うようになった。ユージーンはいい人だから、幸せになって欲しいと願っていたんだ。だから今の状況は、本当に、なんの役にも立たなかったとしか言いようがない……)
「あの……会いに、行っていいんですか?」
「もちろん。だってノアは彼を救ったのだから、その権利があるでしょう?」
「え、いや……そういう理由で、会ってみるかなんて聞いたんですか?」
権利という言葉を聞いて思わずしかめっ面になったノアに、ウィリアムは『すまない』と小さく笑った。
「正直、君ならどうにかできるんじゃないかって期待を込めて聞いたんだよ。困った事に、私も団長も、どうする事もできなくてね。君には感謝しているだろうから、少しは話を聞くんじゃないか、とね」
「レイモンド様はどうなんですか? お二人は仲がいいですからきっと」
「もちろん会わせたよ。でも全然……誰の声も、今の彼の心には届かないようで……」
「そんなの、私が会ってもどうにも……」
「私は、ノアなら、と思っているんだよ。だって、死の淵からユージーンを救ったのは君だからね」
「…………」
その言葉を聞き、ノアは覚悟を決めた。
「そうですか……あの、ぜひ会わせて下さい」
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