上 下
10 / 16

9

しおりを挟む
衝撃の「フィアと呼べ」発言から5年。

ボクたちは相変わらず4人で暮らしていた。

フィアはずいぶん大きくなった。
プクプクとしていた手足はスラリと伸び、髪も長くなった。ボンヤリとしていた瞳は、しっかりとした意志を映すようになり、紺碧に輝いている。赤子の頃はパッと見ただけでは、男か女か分からなかったが、今ではひと目見ただけで女の子だと分かる。

それも、とてつもなく可愛い女の子である。

竜である自分にも、美醜の感覚は備わっていて、だから、フィアがものすごい美貌の持ち主なのは分かっていた。

竜族も人型になることができる。あまり上手くはないが、リザも人型をとることができた。

竜族が人型をとる場合、強さが美しさに比例する事が多い。ときおり、美しさよりたくましさを優先したり、可愛らしさを優先したりする者もいるが、それはあくまで少数派で、基本的に竜の人型は、強い者ほど美しい姿をしている。

人族にはそのようなルールがないことを知っていたが、あまりに美しいフィアを見ると、リザは時々、ほろ苦く少し懐かしい気持ちが胸の内から湧いてくるような気がするのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



その日はよく晴れて、気持ちの良い日だった。

あまりにもいい天気だったので、湖のそばで日光浴と水遊びを4人でしていた。

平和な4人の日常は、突如響き渡った轟音にかき消された。

「ーーっーーザーーー!!!」

叫び声とともに、

ズドーーーン!!!

という爆音と爆風、そしてものすごい水柱が湖に立ち昇った。

かと思うと、水柱はあっという間に大きな津波となり、リザたちに襲いかかってきた。

ッザーー!

という音とともに、水の塊が降ってくる。

リザたち4人は見事にずぶ濡れになった。

あまりのことに、訳がわからず困惑していると、諸悪の根源が湖の中心に浮かんで叫んでいた。

「おぉい!リザルドラ!出迎えろよー!」

パラパラと降り続く、水滴越しにも鮮やかな赤い髪をした男がこちらを見て叫んでいる。

ルビーのような男だった。
腰までとどく燃えるような紅の髪に、少しつり気味の深い森の翠の瞳。鼻は高く唇はスッキリとしている。体は細身だが、筋肉がしっかりついていることがわかる。全身から闘気と覇気があふれ出している迫力の美男子だ。

「おい!グズ!聞こえてるんだろ!さっさとこっちに…っ…うおっ!」

男は最後まで言い切ることができなかった。

フィアが男に襲いかかったからだ。

どこから持ってきたのか両手に彼女の腕ほどの長さのある棒を1本ずつ握っており、その棒で紅い男に殴りかかっている。

「…っおっ、…っぶねぇっ…なんだオマエっ!」

といいながらも、男はフィアの襲撃を躱したりいなしたりしている。最初の数撃を除いて、フィアの攻撃はほとんど当たらなかった。

「リザを馬鹿にするな」

低いドスの効いた声で、フィアは男にいどみ続ける。

「なんだ、オマエ、あのグズのことで怒ってんのか?」

フィアの猛攻をヒラヒラと躱しながら、驚いたように男が問う。

「リザを、馬鹿に、するな!」

接近戦をしていたフィアはそう言うと、ザッと後ろに跳び、男と距離をとった。かと思うと、ガッと高く跳び上がり、勢いをつけて男に跳びかかる。
男はこれも軽く受け流す。ここで、これまで防戦一方だった男はフィアを捕まえ、攻撃を加えようとする。

「兄さん!やめて!フィアは女の子じゃないか!」

リザが叫んだ。

男の蹴りをなんとか腕で受け止め、吹っ飛ばされながらもかろうじて立ち上がったフィアの方へリザは駆けよる。

「フィア、大丈夫?」

その言葉を無視して、フィアが呟く。

「兄さん?」

フィアを背に庇い、男と対峙したため、フィアの表情は分からなかったが、どこか困惑しているようだった。

「お前のような出来損ないに、兄と呼ばれるのも腹立たしいが、事実ではあるな」

フィアの呟きを聞きとった男がそう言えば、

「フィア、待って!今の君では兄さんには敵わないよ!ボクのことなら気にしなくていいから、抑えて!」

リザは、またも男に襲いかかろうとしたフィアを捕まえ、必死に止める。

「止めるな、リザ、兄ならなおさらアイツは許さん」

リザに止められながらも、フィアは諦めない。

「いいんだ。フィア、ボクが出来損ないなのは事実だし、ボクは気にしてないから」

体格的にはどう考えてもリザの方が有利なのに、フィアのあまりの勢いに、リザは必死でフィアを抱えこみ、止める。

「リザがつけたリザの評価はそれで構わない。だが、私のリザへの気持ちは違う。そこは譲らない」

普段はあまり感情を映すことのない紺碧の瞳が、怒りで輝いていた。こんなときなのにリザは、

(綺麗な目だなぁ…)

なんてのんきなことを思った。

「…怒っていても、フィアは綺麗なんだね」

今にも飛び出していきそうなフィアの目を見つめ、つい呟いてしまった。

「…っ、なにを!」

あまりに場違いなセリフだったが、褒められたフィアは虚をつかれ、怒りが和らいだ。

「リザに褒められるのは、嫌いじゃない」

フィアの勢いがおさまったのを見て、リザはフィアを放した。

その一連の出来事を見ていた男が、

「おっ。なんだ、チビ。もう終わりか?やっぱり出来損ないの周りには、出来損ないしかいないんだな~」

なんて言い出すものだから、両者の間でまたひと暴れふた暴れあったのは、言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優等生と劣等生

和希
恋愛
片桐冬夜と遠坂愛莉のラブストーリー

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...