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「ルナ、ルナ。おい、ルナさん。そのくらいにしとけよ」

自分でも制御できない怒りに突き動かされたルナを止めたのは、のんきなノーヴァの声だった。

その声に、ルナは振り返る。

腕のケガはひどいが、わりとピンピンしながらノーヴァが手招きしている。

「ルナ、ルナ。俺のために怒ってくれてるなら、もういいから。そんな大したことをされたわけでもないし」

な?と言いながらちょっと困ったように手招きしている。

「ハァ⁉︎」

ノーヴァの言葉に、一瞬冷めかけた怒りが再燃する。

ノーヴァのもとへ小走りで向かいながら、今度はノーヴァの胸ぐらをつかんで言う。一応というか、ものすごくケガ人なので、あまりひどくはできないが。

「大したことない⁉︎大したことないわけないじゃない!こんなっ、こんなケガさせられて!ってか、そもそもなんで私になにも言わないのよっ!そこも許せないのよ!」

怒りの矛先が今度はノーヴァへ向いていく。

「なんでっ!ノーヴァは!私になんにも言わないの⁉︎なんにも、言って、…くれないのよぅ。…私、そんなに頼りない?ノーヴァが困っているときに相談もできないほど、頼りたくない、…ダメなやつ…?」

八つ当たりだと分かっていたが止まらなかった。

私の顔は涙と鼻水でグチャグチャになっているだろう。

「…私、…私は!ノーヴァに感謝してる!一緒に学院に来てくれて。いつも、うっとうしいって言っちゃうけど、でも!ホントはすごく感謝してる!ノーヴァのおかげで、学院で好きな勉強が思いっきりできる。ノーヴァのおかげで、安全で快適な生活ができてる。ノーヴァのおかげで、学院生活が楽しい。…でも、ノーヴァは学院生活で嫌な思いをしてた!私のせいで!」

悔しさと、申し訳なさ、情けなさでグチャグチャだった。

「ルナ、ルナ。…大丈夫だから」

胸ぐらをつかむルナをすっぽり包みこむように、ノーヴァはルナを抱きしめていた。

「なにが大丈夫なのよ!なんにも大丈夫じゃないじゃない。私のために一緒に来てくれたノーヴァが、私のせいで嫌な目にあってるのに、そんなことも知らず、私はのうのうと過ごしてた!私は、そんな自分が許せない。ノーヴァをいじめたヤツも絶対許せないけど、私は、私を、許せない!」

腕が痛むのか、私の背をポンポンとでるノーヴァの手がぎこちない。

「ルナ、ルナ。本当にいいんだ。俺は大丈夫だから」

こんな時にも優しいノーヴァの声に、悔しさと情けなさが倍増する。

「もっと頼ってよ…ノーヴァも。ノーヴァが、私にしてくれるみたいに。私だって、ノーヴァを守りたいと思ってる。ノーヴァに、楽しい毎日を送って欲しいと思ってる。ノーヴァが私を大事にしてくれるように、私だってノーヴァのこと大切に思ってるんだから!…結局、厄病神やくびょうがみにしかなれないんだけど…」

「ルナ、それはちがう」

今まで優しかったのが、嘘のような強い口調でノーヴァが言った。

驚いて、ついノーヴァを見上げてしまう。

美しい藍色の瞳が、私を見ている。

「今回のこと、ルナは自分のせいだって言うけど、それで申し訳ないって思ってるんだろうけど、俺にとっては、本当に大丈夫なんだ。…大丈夫って言葉がよくないな。本当に、俺自身が気にしてないんだ」

「だって、でも、嫌な目に…あったでしょ?」

「モノ隠されたり、ぶつかって来られたりしたやつか?そんなのでまいったりするほど、金に困ったりバカだったりしないつもりだけど?ルナはそう思わない?」

「それは…そうかもしれないけど…」

「そうだろ?ルナも知ってのとおり、俺は金持ちだからな。日常の学用品や制服なんて、新品を毎日3年間買い続けたってなんてことないし、そもそも教科書なんていらないし、俺がそんな簡単に貴族のお坊ちゃんなんかにぶつかられてやるわけがないだろ?」

「そうかもしれないけど、そういう…問題なの?」

「問題ですらないだろ。そもそも、さっきのだってルナが出てこなければこんなことになってなかったと思うけど」

そう言ってノーヴァは私の頬の傷を親指でなぞる。けっこう力がこもっており、痛い。

「…けっこう痛いんだけど…ノーヴァ、怒ってる?」

「まぁね。誰かさんがバカみたいに飛び出して、バカみたいに傷つくってるからな」

言いながら、傷をグリグリしてくる。

「痛いってば!もう!」

「いつも言ってるけどルナ、お前は危機感が足りない。今回は間に合ったからよかったけど、間に合わなかったらかなりヤバかったんだぞ」

真剣な顔で言われ、さすがに反省する。

「それは…ごめん…」

「ただ、まぁ俺にも反省点はある。そこは考えなおしたところだ。…あぁ、いい具合にそろってるな」

ノーヴァはまわりを見渡し、うなずいている。

この場には私とノーヴァとメルキュールとマルス、サチュルヌとルミエールがいた。

「アンタ方に言いたいことは1つだ。。以上だ。忠告はした。これからは、自分を出し惜しみしたりしない。全力で行く。それでもルナに手を出そうとするなら、アンタ方を叩きつぶす」

メルキュールとマルス、ルミエールを見据え、よく通る声でノーヴァが言った。

「そっ、そんなことができるとっ!」

「できるのよ。彼なら。引きなさいメルキュール。彼が手を出さないでいてくれる間に」

メルキュールをサチュルヌがさえぎった。

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