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学院からの帰りの馬車で、ルナは興奮していた。

「まさか、求める人物がこんな身近にいたなんて。ホント、学院に来たかいがあるってこのことよね」

ウキウキしてノーヴァに言う。

「でも、今日の感じだとお前、相当嫌われてるぞ」

冷静にノーヴァがつっこむ。

「まぁ、それはすごい伝わってきたけど。やっぱり難しいかなぁ…でも、次いつ彼女みたいな人に会えるかわからないじゃない。このチャンスを逃したくないのよ」

「相手は逃げたがってると思うけどな」

「もー!うるさいわね。わかってるわよ!マイナスなことばっかり言ってないで、彼女が来てくれる何かいい方法はないか、一緒に考えてよ!」


ルナはさきほどのサチュルヌとのやりとりを思い出す。

たまたま通りかかったところにいたサチュルヌは、どう見ても具合が悪そうだった。

顔色は青白く、目をつむり、浅い呼吸を繰り返しているようだ。

できることなら見て見ぬフリをして通り過ぎてしまいたかった。

(でもこの辺って、あんまり人が通らないのよねー…)

だからルナたちもよく来たりしているのだが。

このまま放置してもいずれ誰かが見つけてくれるならいいが、この後誰も通らなかったら、彼女はどうなるのだろう。

(近づいてみて、追い払われたらさっさと逃げるかぁ)

そう決断し、ゼスチャーでサチュルヌの様子を見に行くことをノーヴァに伝える。

ノーヴァは放っておけ、という顔をしたが、結局諦めてしぶしぶついて来る。

目の前に立ってみたが、サチュルヌは気づかない。

(これは、思ったよりも面倒な感じかしら?)

サチュルヌから、なんともいえない気配がする。

サチュルヌのまわりの空気だけが妙に緊張しており、彼女のまわりには時折、パリパリと電流らしきものが流れている。

(この人まさか、呪われてたりしないわよね?)

声をかけるかどうか、また迷ったが、結局ルナは声をかけてしまった。

(またノーヴァにお人好しってバカにされるわね)

そう思いながらしたことは、思いがけない結果につながったのだけれど。



⭐︎



ノーヴァとの話し合い(?)の結果、ここはダメ元の正攻法でいこうということになった。

つまり、普通にお誘いするのだ。

学院で私に声をかけられるのは嫌だろうから、手紙を送ることにした。

ぬかりなくノーヴァが魔石をサチュルヌに渡していたので、こっそり手紙を彼女に送ることは難しくなかった。

ノーヴァの渡した魔石は彼のお手製で、ちょっときれいなだけのただの石ではない。魔石には、ついになる石がいて、魔力を流すと、その石を持ったもの同士が通話したり、物を送りあったりできるのだ。

「まぁ、私は魔力がないから、魔法関係は完全にノーヴァ頼みだけど」

そう。私には魔力がない。

全くない。

ノーヴァにすっからかんだと笑われるくらいに魔力がない。

その事実を知ったときは、地味に凹んだ。

「まぁ、今どき魔力を持ってる方が珍しいくらいだから、いいんだけどねー」

そう。この世界に魔法はあるが、魔力を持ち魔法を使える人物はめったにいない。

魔法士はとても希少なのだ。

「だから、逃げられたくないんだけどなー」

あぁだこうだとルナにしては考えたが、考えすぎた結果、手紙はやけにシンプルになってしまった。

エトワール子爵領にある研究施設の場所。

そして、

"無理強いはしない。でも、待っています"

ノーヴァに魔力を込めてもらった魔石で手紙をサチュルヌに送ったあと、思わずつぶやいてしまった。

「果たし状かよ」

のちに、無二の親友となる2人が出会った夜のことである。
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