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第69話:お説教タイム
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文化祭だというのになぜか俺は清澄先輩に連行されて生徒会室にいた。しかも早紀さん、美咲さん、ナオちゃんの三人も一緒だ。五人で歩いている時に向けられた奇異の視線は最悪だった。わかりたくなかったが犯罪者の気持ちがわかった気がする。
「まったく。晴斗、君は自分の立場というものを少しは理解しているのか?」
清澄先輩は開口一番こう言った。そして言葉を続ける。
「いいか、晴斗。君は先月の夏の甲子園で令和初のノーヒットノーランを達成した注目選手なんだぞ? しかも骨折しながら痛みに耐えたというドラマ付きでな。そんな君が美女と可愛い子を連れているだけならまだしも、相馬さんも加わって騒いでいたらどうなるか……少し考えればわかることじゃないか?」
テーブルの上に肘を置き、ギロリと目を光らせてにらみを利かせてくる清澄先輩はどこぞの司令官さながらの威圧感を放っている。
「飯島さん。あなたもあなただ。晴斗の隣に住んでいて親しいようですし。そんなあなたなら彼の事情は知っているはずでしょう? それなのに一緒になって騒いで……」
ハァとこめかみを押さえながらため息をつく清澄先輩。俺の隣に座っている早紀さんは返す言葉がないとばかりに肩を落としている。年下の女の子に怒られてしおらしくなっている早紀さんは珍しい。可愛い。
「相馬さん。笑っているがあんたも同じだ。野球部マネージャーなら晴斗の立場はここにいる誰よりも知っているだろう? それがなんだ。一緒になって教室の前でやいのやいと騒ぐとは……」
「ご……ごめんなさい」
粗相を犯して叱られて尻尾を下げてしゅんとする子犬のような美咲さん。聞いた話では、美咲さんは自分の持ち場を放棄して勝手に外に出てきたとのこと。これは清澄先輩のお説教が終わった後はクラスメイトからのお説教が待っている。自業自得でかばいようがないのだけれど。
「さて。荒川奈緒美さん、と言ったかな。本来なら君をここに連れてくる必要はないのだが、一人で残しておくのは忍びないと思ってね。どうだい、文化祭は楽しんでいるかな?」
「は、はい! 中学校とは違って人もたくさんいて、なにより活気があってすごく楽しいです!」
「そうか。それはよかった。君は中学二年生だったかな? もし君が明秀高校に入学したとしても、同じ時間を過ごすことはできないのは非常に残念だが……これも何かの縁だ。仲良くしてくれたら嬉しいな」
「そんな! 私なんかと仲良くなんて……」
「フフフ。なにせ君は晴斗を兄のように慕う幼馴染なんだろう? いや、厳密にはその妹さんか。ぜひ、君から見た晴斗の幼少期を私にも教えてほしくてね。連絡先を教えてくれないだろうか?」
美咲さんはぽかんと、俺を含めた残りの三人は驚きの表情を浮かべる。どうして清澄先輩はナオちゃんが幼馴染の妹だということを知っているのか。俺はそんなことは一言も口にしていない。
「フフフ。晴斗、君は私のことを少し甘く見ていないだろうか? 惚れた男のことを知りたいと思うのは女として当然のことだろう? 特に、君を泣かすような女と君を癒した女性のことはね」
不敵な笑みを浮かべつつ不穏な空気を醸し出す清澄先輩。その二人が誰を指しているのかは敢えて言わなくても明白だ。
「安心したまえ。知ったところで、どうこうしようなどとも思っていない。君のお姉さんがどうであれ、君は晴斗に随分と慕われているようだし、なにより我々と同じようだからね。仲良くしたいと思ったんだ」
ナオちゃんを見つめる清澄先輩の目に優しさが帯びる。この人もまた早紀さんと同じようにナオちゃんをあいつの妹というフィルターを通さすことなく、ちゃんとナオちゃん個人として見ようとしてくれている。俺はそれが嬉しかった。美咲さんは一人話に取り残されており、オロオロとしている。後で説明するか。
「わ、私は……その……そんなんじゃ……ないです。晴斗さんのことは……その……」
「フフフ。いいんだよ、ここで無理に言葉にすることはない。それに晴斗本人を前にして言うのは辛いだろう? そうだ! 今度四人で食事でもどうだろうか? 女だけの食事会、いわゆる女子会というやつだな! あぁ、安心したまえ。奈緒美さんの送り迎えは私の家の者を寄こそう。心置きなく恋バナをしようではないか!」
清澄先輩の突拍子のない提案に一同固まる。この話に俺は割って入ることはできないので静観していると、隣に座る女子大生さんがクックックと時折見せる悪の親玉のように喉を鳴らした。
「その提案……受けて立ちましょう! 美咲ちゃんもナオちゃんも参加ね! あの余裕綽々な笑顔に一泡吹かせてやるのよ!」
「……はい! 何が何だかわかりませんが、私だって負けませんよ! 勝負はこれからです!」
「私は別に……でも皆さんがいいというなら……」
「何を言っているのナオちゃん! あなたには色々聞きたいことがあるんだから参加してもらわないと困るわ! むしろあなたが主役みたいなものよ!?」
「そうだぞ。奈緒美さんからはたくさん、たくさん、話が聞きたいからな。ぜひ参加してほしい」
「はる君の小さい時のこと知っているんだよね!? 私もその話聞きたいから絶対来てね! むしろ来ないと怒るからね!」
美咲さん、あなたが怒っても怖くないどころかむしろ可愛いだけなんですけどね。と心の中で思いながら、果たして俺がこの場にいる意味はあるのだろうか。
最初は清澄先輩からのお叱りだったはずが何故か女子会の話に変わっている。女三人寄れば姦しいとはこのことか。
このままここに居続けるのもいい加減居た堪れなくなってきた時。ポケットにしまっていたスマホが振動した。電話だ。相手は―――
「もしもし? どうした、悠岐?」
『どうした? じゃない! 晴斗、お前今どこにいるんだ!? 副会長に連行されたって聞いたから心配していたんだぞ!?』
「あぁ……別に大したことないから大丈夫だよ。心配かけて悪かったな」
『ならいいんだけど…………って、そうじゃなくて! いい加減戻ってきてくれよぉ! 僕だけじゃ辛いというか、この格好は晴斗とセットじゃないと意味ないだろう! 遊んでばかりいないで仕事してくれ!』
「はいはい。わかったから泣きそうな声を出すな。今から行くから、少し待っていてくれ」
電話を切る。このタイミングでの悠岐からの電話はまさに天啓だ。
「すいません。こういうわけなんで、俺はクラスの方に戻ります。ナオちゃんは……」
「安心したまえ。ナオちゃんのことは私達が責任をもって案内するよ。君は早くクラスに戻りなさい」
「行ってらっしゃい、晴斗。少しの時間だったけど、文化祭一緒に回れて楽しかったわ」
「晴斗さん……今日はありがとうございました」
「わ、私だけ蚊帳の外な気が……はっ! あとで喫茶店行くからね! その時ははる君を指名するからね!」
「美咲さん、うちの喫茶店は指名制度とかありませんよ?」
委員長に話をしたら明日から導入しそうで怖い。新たな集金システムの導入だぁ! とか何とか言い出しかねない。
「それじゃ、俺はこの辺で。ナオちゃん、最後まで楽しんでね。それと―――」
生徒会室を後にする前。俺は昔のようにナオちゃんの頭に手を置いた。
「今日は会えてよかったよ。またね」
ポンポンと撫でてから。俺は自分のクラスへと向かった。生徒会室からは黄色い悲鳴が聞こえたような気がした。
「まったく。晴斗、君は自分の立場というものを少しは理解しているのか?」
清澄先輩は開口一番こう言った。そして言葉を続ける。
「いいか、晴斗。君は先月の夏の甲子園で令和初のノーヒットノーランを達成した注目選手なんだぞ? しかも骨折しながら痛みに耐えたというドラマ付きでな。そんな君が美女と可愛い子を連れているだけならまだしも、相馬さんも加わって騒いでいたらどうなるか……少し考えればわかることじゃないか?」
テーブルの上に肘を置き、ギロリと目を光らせてにらみを利かせてくる清澄先輩はどこぞの司令官さながらの威圧感を放っている。
「飯島さん。あなたもあなただ。晴斗の隣に住んでいて親しいようですし。そんなあなたなら彼の事情は知っているはずでしょう? それなのに一緒になって騒いで……」
ハァとこめかみを押さえながらため息をつく清澄先輩。俺の隣に座っている早紀さんは返す言葉がないとばかりに肩を落としている。年下の女の子に怒られてしおらしくなっている早紀さんは珍しい。可愛い。
「相馬さん。笑っているがあんたも同じだ。野球部マネージャーなら晴斗の立場はここにいる誰よりも知っているだろう? それがなんだ。一緒になって教室の前でやいのやいと騒ぐとは……」
「ご……ごめんなさい」
粗相を犯して叱られて尻尾を下げてしゅんとする子犬のような美咲さん。聞いた話では、美咲さんは自分の持ち場を放棄して勝手に外に出てきたとのこと。これは清澄先輩のお説教が終わった後はクラスメイトからのお説教が待っている。自業自得でかばいようがないのだけれど。
「さて。荒川奈緒美さん、と言ったかな。本来なら君をここに連れてくる必要はないのだが、一人で残しておくのは忍びないと思ってね。どうだい、文化祭は楽しんでいるかな?」
「は、はい! 中学校とは違って人もたくさんいて、なにより活気があってすごく楽しいです!」
「そうか。それはよかった。君は中学二年生だったかな? もし君が明秀高校に入学したとしても、同じ時間を過ごすことはできないのは非常に残念だが……これも何かの縁だ。仲良くしてくれたら嬉しいな」
「そんな! 私なんかと仲良くなんて……」
「フフフ。なにせ君は晴斗を兄のように慕う幼馴染なんだろう? いや、厳密にはその妹さんか。ぜひ、君から見た晴斗の幼少期を私にも教えてほしくてね。連絡先を教えてくれないだろうか?」
美咲さんはぽかんと、俺を含めた残りの三人は驚きの表情を浮かべる。どうして清澄先輩はナオちゃんが幼馴染の妹だということを知っているのか。俺はそんなことは一言も口にしていない。
「フフフ。晴斗、君は私のことを少し甘く見ていないだろうか? 惚れた男のことを知りたいと思うのは女として当然のことだろう? 特に、君を泣かすような女と君を癒した女性のことはね」
不敵な笑みを浮かべつつ不穏な空気を醸し出す清澄先輩。その二人が誰を指しているのかは敢えて言わなくても明白だ。
「安心したまえ。知ったところで、どうこうしようなどとも思っていない。君のお姉さんがどうであれ、君は晴斗に随分と慕われているようだし、なにより我々と同じようだからね。仲良くしたいと思ったんだ」
ナオちゃんを見つめる清澄先輩の目に優しさが帯びる。この人もまた早紀さんと同じようにナオちゃんをあいつの妹というフィルターを通さすことなく、ちゃんとナオちゃん個人として見ようとしてくれている。俺はそれが嬉しかった。美咲さんは一人話に取り残されており、オロオロとしている。後で説明するか。
「わ、私は……その……そんなんじゃ……ないです。晴斗さんのことは……その……」
「フフフ。いいんだよ、ここで無理に言葉にすることはない。それに晴斗本人を前にして言うのは辛いだろう? そうだ! 今度四人で食事でもどうだろうか? 女だけの食事会、いわゆる女子会というやつだな! あぁ、安心したまえ。奈緒美さんの送り迎えは私の家の者を寄こそう。心置きなく恋バナをしようではないか!」
清澄先輩の突拍子のない提案に一同固まる。この話に俺は割って入ることはできないので静観していると、隣に座る女子大生さんがクックックと時折見せる悪の親玉のように喉を鳴らした。
「その提案……受けて立ちましょう! 美咲ちゃんもナオちゃんも参加ね! あの余裕綽々な笑顔に一泡吹かせてやるのよ!」
「……はい! 何が何だかわかりませんが、私だって負けませんよ! 勝負はこれからです!」
「私は別に……でも皆さんがいいというなら……」
「何を言っているのナオちゃん! あなたには色々聞きたいことがあるんだから参加してもらわないと困るわ! むしろあなたが主役みたいなものよ!?」
「そうだぞ。奈緒美さんからはたくさん、たくさん、話が聞きたいからな。ぜひ参加してほしい」
「はる君の小さい時のこと知っているんだよね!? 私もその話聞きたいから絶対来てね! むしろ来ないと怒るからね!」
美咲さん、あなたが怒っても怖くないどころかむしろ可愛いだけなんですけどね。と心の中で思いながら、果たして俺がこの場にいる意味はあるのだろうか。
最初は清澄先輩からのお叱りだったはずが何故か女子会の話に変わっている。女三人寄れば姦しいとはこのことか。
このままここに居続けるのもいい加減居た堪れなくなってきた時。ポケットにしまっていたスマホが振動した。電話だ。相手は―――
「もしもし? どうした、悠岐?」
『どうした? じゃない! 晴斗、お前今どこにいるんだ!? 副会長に連行されたって聞いたから心配していたんだぞ!?』
「あぁ……別に大したことないから大丈夫だよ。心配かけて悪かったな」
『ならいいんだけど…………って、そうじゃなくて! いい加減戻ってきてくれよぉ! 僕だけじゃ辛いというか、この格好は晴斗とセットじゃないと意味ないだろう! 遊んでばかりいないで仕事してくれ!』
「はいはい。わかったから泣きそうな声を出すな。今から行くから、少し待っていてくれ」
電話を切る。このタイミングでの悠岐からの電話はまさに天啓だ。
「すいません。こういうわけなんで、俺はクラスの方に戻ります。ナオちゃんは……」
「安心したまえ。ナオちゃんのことは私達が責任をもって案内するよ。君は早くクラスに戻りなさい」
「行ってらっしゃい、晴斗。少しの時間だったけど、文化祭一緒に回れて楽しかったわ」
「晴斗さん……今日はありがとうございました」
「わ、私だけ蚊帳の外な気が……はっ! あとで喫茶店行くからね! その時ははる君を指名するからね!」
「美咲さん、うちの喫茶店は指名制度とかありませんよ?」
委員長に話をしたら明日から導入しそうで怖い。新たな集金システムの導入だぁ! とか何とか言い出しかねない。
「それじゃ、俺はこの辺で。ナオちゃん、最後まで楽しんでね。それと―――」
生徒会室を後にする前。俺は昔のようにナオちゃんの頭に手を置いた。
「今日は会えてよかったよ。またね」
ポンポンと撫でてから。俺は自分のクラスへと向かった。生徒会室からは黄色い悲鳴が聞こえたような気がした。
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