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第15話:先輩と飲み会
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優佳さんから連絡をもらい、私は急いで近くにある個室居酒屋に駆け込んだ。大衆居酒屋では有名人となりつつある優佳先輩が入るのは騒ぎになるかもしれないからだ。なんとか一室確保することが出来たことを安堵していると、件の先輩が到着した。
「ごめんねぇ―早紀! 何も今日でなくてもよかったのに……ありがとね」
「いえ、時間もあまりないと思いますから。それに……軽い気持ちで踏み込んでほしくないですから、私も本気で行きますから覚悟してくださいね?」
あらかじめ注文しておいたレモンサワー二つのうち一つを優佳先輩に渡してまずは乾杯した。それから適当につまみを頼んでから、改めて事情を聴くことにした。
「それで。なんでまたこんな近々でキャスターが変更になったんですか? そんなこと、今までありませんでしたよね?」
「そうなのよ! 本当なら先輩アナで決まっていたんだけど……週刊誌に不倫をすっぱ抜かれたのよ。そんな人が純粋無垢な高校球児のリポートするのはまずいってことになって私に白羽の矢が当たったの。こんなチャンス滅多にないから思わず引き受けたんだけど……」
「―――野球素人だから困ったと。その辺の勢いは相変わらずですね、先輩」
「うぅ……早紀のいじわるぅ。昔は可愛かったのにぃ。でもなんで早紀は急に野球に目覚めたの? 一年前までは全然そんなことなかったよね? 何かあったの? もしかして男の影響とか?」
「まぁそんなところです。ようやくいい子を見つけましたから。その子のために一生懸命勉強しました」
ぐびっと開き直ってレモンサワーを呷る。ほぉーとどこか感心した様子の優佳先輩。
葉月優佳。私の通う慶政大学のOGで二年前のミス慶政に選ばれた美女。その看板を引っ提げてテレビ局に入社。新人美人アナウンサーとして活躍している。
髪はわずかに赤茶がかった黒色でウェーブがかかったセミロング。上がり目の楚々とした婉容な容姿はヤングからミドル層まで幅広い年齢性の男性たちを虜にしている。そして、私に例のバイトを勧めた張本人である。
閑話休題
「私の話はいいんです。そんなことより先輩の話です。今年の甲子園はかなり話題になっていますから、それだけでも頭に入れておいたほうがいいですよ」
「へ、へぇ……そうなんだ? それで、どの辺が話題なの?」
はぁ、と私はため息をついた。この先輩はことスポーツに関してはサッカー大好き少女だったことに頭を痛めた。これは今飲んでいるお酒が悪い方向に作用しているせいだと思い込み、私は今年の高校野球事情を話した。
「一番の注目は大阪の桐陽高校。夏の大会三連覇がかかってる、名実ともに優勝候補筆頭です。エースと4番の二人はプロ入り確実と言われています。そして対抗馬は宮城の仙台専修高校。こちらは絶対な選手はいませんが選手の平均値が高いです。あと石川の星蘭高校ですね。ここは完成度が抜群に高い絶対的右腕がいます」
「う、うわぁ……早紀、あんた一体どうしたの? 二年になったこの数か月の間に人が変わったみたい……」
「ですが、 ですが私の個人的注目は東東京代表の明秀高校です。左の本格派、プロ注目の松葉君。最速145キロで彼もまたプロ入り間違いなしと言われています。それに―――」
「っあ、その高校なら私も知ってる! 降板した先輩が話した! 確か名前は……今宮晴斗、だったけ?」
「―――ッチ。なんでこういうことは知っているんですかね、この人は。これだからミーハーは」
「っえ? 早紀、どうしたの? 急に機嫌悪くならないでよ! なんでそっぽむくの!? というか帰ろうとしないでよ! まだ話聞かせてよ!」
泣きつきながら袖を掴んでくる優佳先輩に続けて舌打ちをかまして仕方ないと思いながら席に戻った。
「そうです! 明秀高校野球がこの大会のダークホースになりうるのはこの晴斗君ともう一人の一年生の存在です」
明秀高校野球の中心は三人。一人目は松葉君。名実ともに高校ナンバーワン左腕と称される投手。二人目は晴斗君。一年生にしてすでに最速148キロのストレート、精度の高い多彩な変化球。そして三人目。彼もまた一年生だ。
「名前は坂本悠岐君。右投げ左打ちの三塁手。晴斗君と同じU15日本代表に選ばれた天才打者。予選は怪我で出れなかったけど完治したみたいで、甲子園大会には登録されるみたいです。この二人のスーパー一年生の存在が、明秀高校がダークホースになりうる理由です」
「な、なるほど……ってちょっと待って! 早紀、あんた明秀高校について詳しすぎない!? むしろ、何度か晴斗君って呼んでなかった? っえ、なに、もしかして知り合いなの!? どういう関係!?」
「…………晴斗君は、お隣さんです。そして、私の……大好きな人……」
「は、はい? 早紀、今なんて言った? っえ? 注目の一年生投手がお隣さん? そ、それでいて……好きな人? ごめん、情報量が多すぎて処理できない。だ、大好きな人って今言った?」
「はい……言いました。晴斗君は私の大好きな人です。今日、神楽木さんに話して仕事もセーブしてもらうように話してきたところです。了承ももらいました」
「うわぁ……マジかぁ。あんた、それはかなり本気ってことね。神楽木さんも許したってことなら私が何か言うつもりはないけど。でも、好きな人がいたらあの仕事、続けるのは辛いんじゃない?」
「そうですね‥‥でも、これは夢のためには必要なことでもありますから。晴斗君のことを思うならやめたほうがいいのはわかっているんですが……」
私はうつむいた。もしこのアルバイトのことを晴斗君に知られたらと思うと、正直考えたくない。辞めればそれで済む話なのだが、そうすると今の生活を手放すことになる。
「まぁ誘っておいて私が言うのもあれだけど、もし夢中の晴斗君に知られたら、正直に話すことね。思春期男子には辛い事実だと思うけど、あなたにはそれをしてでも叶えたい夢がある。そうでしょう?」
「……はい」
「なら、それも踏まえて全部話しちゃいなさい! もしその夢を含めてあなたのことを拒絶するなら、その子はそれまでってことにして忘れちゃいなさい。まぁ身勝手な女と批判されるかもしれないけど、それはまぁ、夢の実現のためと思って諦めなさい」
辛辣な物言いだが優佳先輩の言っていることは正しい。晴斗君も好きだが、子供の頃からの夢は実現したい。どちらかと選ばなければならないとなったら私は―――
「まぁでもきっと、大丈夫だと思うよ? U15日本代表に選ばれて、一年生からレギュラーになって甲子園に出るってことは、その晴斗君? もきっと夢があると思うから。だからきっと、早紀の夢も笑わずに、仕事のことも理解して、応援してくれるよ。私の彼とは違ってね」
「優佳先輩……ありがとうございます。私、頑張ります」
「うん、うん。頑張りたまえ、可愛い後輩よ。それより、早紀! 励ましたお礼にもっと野球のこと教えてよね! 終電まで帰さないからね!」
「わかりました! 私が知っていることなら何でも教えますね!」
私は自分の知っている限りの情報を先輩に話したが、お酒も多分に入っていたからそのほとんどを覚えていないだろう。だが、久しぶりに優佳先輩と話すことが出来て、とても楽しい時間だった。
「ごめんねぇ―早紀! 何も今日でなくてもよかったのに……ありがとね」
「いえ、時間もあまりないと思いますから。それに……軽い気持ちで踏み込んでほしくないですから、私も本気で行きますから覚悟してくださいね?」
あらかじめ注文しておいたレモンサワー二つのうち一つを優佳先輩に渡してまずは乾杯した。それから適当につまみを頼んでから、改めて事情を聴くことにした。
「それで。なんでまたこんな近々でキャスターが変更になったんですか? そんなこと、今までありませんでしたよね?」
「そうなのよ! 本当なら先輩アナで決まっていたんだけど……週刊誌に不倫をすっぱ抜かれたのよ。そんな人が純粋無垢な高校球児のリポートするのはまずいってことになって私に白羽の矢が当たったの。こんなチャンス滅多にないから思わず引き受けたんだけど……」
「―――野球素人だから困ったと。その辺の勢いは相変わらずですね、先輩」
「うぅ……早紀のいじわるぅ。昔は可愛かったのにぃ。でもなんで早紀は急に野球に目覚めたの? 一年前までは全然そんなことなかったよね? 何かあったの? もしかして男の影響とか?」
「まぁそんなところです。ようやくいい子を見つけましたから。その子のために一生懸命勉強しました」
ぐびっと開き直ってレモンサワーを呷る。ほぉーとどこか感心した様子の優佳先輩。
葉月優佳。私の通う慶政大学のOGで二年前のミス慶政に選ばれた美女。その看板を引っ提げてテレビ局に入社。新人美人アナウンサーとして活躍している。
髪はわずかに赤茶がかった黒色でウェーブがかかったセミロング。上がり目の楚々とした婉容な容姿はヤングからミドル層まで幅広い年齢性の男性たちを虜にしている。そして、私に例のバイトを勧めた張本人である。
閑話休題
「私の話はいいんです。そんなことより先輩の話です。今年の甲子園はかなり話題になっていますから、それだけでも頭に入れておいたほうがいいですよ」
「へ、へぇ……そうなんだ? それで、どの辺が話題なの?」
はぁ、と私はため息をついた。この先輩はことスポーツに関してはサッカー大好き少女だったことに頭を痛めた。これは今飲んでいるお酒が悪い方向に作用しているせいだと思い込み、私は今年の高校野球事情を話した。
「一番の注目は大阪の桐陽高校。夏の大会三連覇がかかってる、名実ともに優勝候補筆頭です。エースと4番の二人はプロ入り確実と言われています。そして対抗馬は宮城の仙台専修高校。こちらは絶対な選手はいませんが選手の平均値が高いです。あと石川の星蘭高校ですね。ここは完成度が抜群に高い絶対的右腕がいます」
「う、うわぁ……早紀、あんた一体どうしたの? 二年になったこの数か月の間に人が変わったみたい……」
「ですが、 ですが私の個人的注目は東東京代表の明秀高校です。左の本格派、プロ注目の松葉君。最速145キロで彼もまたプロ入り間違いなしと言われています。それに―――」
「っあ、その高校なら私も知ってる! 降板した先輩が話した! 確か名前は……今宮晴斗、だったけ?」
「―――ッチ。なんでこういうことは知っているんですかね、この人は。これだからミーハーは」
「っえ? 早紀、どうしたの? 急に機嫌悪くならないでよ! なんでそっぽむくの!? というか帰ろうとしないでよ! まだ話聞かせてよ!」
泣きつきながら袖を掴んでくる優佳先輩に続けて舌打ちをかまして仕方ないと思いながら席に戻った。
「そうです! 明秀高校野球がこの大会のダークホースになりうるのはこの晴斗君ともう一人の一年生の存在です」
明秀高校野球の中心は三人。一人目は松葉君。名実ともに高校ナンバーワン左腕と称される投手。二人目は晴斗君。一年生にしてすでに最速148キロのストレート、精度の高い多彩な変化球。そして三人目。彼もまた一年生だ。
「名前は坂本悠岐君。右投げ左打ちの三塁手。晴斗君と同じU15日本代表に選ばれた天才打者。予選は怪我で出れなかったけど完治したみたいで、甲子園大会には登録されるみたいです。この二人のスーパー一年生の存在が、明秀高校がダークホースになりうる理由です」
「な、なるほど……ってちょっと待って! 早紀、あんた明秀高校について詳しすぎない!? むしろ、何度か晴斗君って呼んでなかった? っえ、なに、もしかして知り合いなの!? どういう関係!?」
「…………晴斗君は、お隣さんです。そして、私の……大好きな人……」
「は、はい? 早紀、今なんて言った? っえ? 注目の一年生投手がお隣さん? そ、それでいて……好きな人? ごめん、情報量が多すぎて処理できない。だ、大好きな人って今言った?」
「はい……言いました。晴斗君は私の大好きな人です。今日、神楽木さんに話して仕事もセーブしてもらうように話してきたところです。了承ももらいました」
「うわぁ……マジかぁ。あんた、それはかなり本気ってことね。神楽木さんも許したってことなら私が何か言うつもりはないけど。でも、好きな人がいたらあの仕事、続けるのは辛いんじゃない?」
「そうですね‥‥でも、これは夢のためには必要なことでもありますから。晴斗君のことを思うならやめたほうがいいのはわかっているんですが……」
私はうつむいた。もしこのアルバイトのことを晴斗君に知られたらと思うと、正直考えたくない。辞めればそれで済む話なのだが、そうすると今の生活を手放すことになる。
「まぁ誘っておいて私が言うのもあれだけど、もし夢中の晴斗君に知られたら、正直に話すことね。思春期男子には辛い事実だと思うけど、あなたにはそれをしてでも叶えたい夢がある。そうでしょう?」
「……はい」
「なら、それも踏まえて全部話しちゃいなさい! もしその夢を含めてあなたのことを拒絶するなら、その子はそれまでってことにして忘れちゃいなさい。まぁ身勝手な女と批判されるかもしれないけど、それはまぁ、夢の実現のためと思って諦めなさい」
辛辣な物言いだが優佳先輩の言っていることは正しい。晴斗君も好きだが、子供の頃からの夢は実現したい。どちらかと選ばなければならないとなったら私は―――
「まぁでもきっと、大丈夫だと思うよ? U15日本代表に選ばれて、一年生からレギュラーになって甲子園に出るってことは、その晴斗君? もきっと夢があると思うから。だからきっと、早紀の夢も笑わずに、仕事のことも理解して、応援してくれるよ。私の彼とは違ってね」
「優佳先輩……ありがとうございます。私、頑張ります」
「うん、うん。頑張りたまえ、可愛い後輩よ。それより、早紀! 励ましたお礼にもっと野球のこと教えてよね! 終電まで帰さないからね!」
「わかりました! 私が知っていることなら何でも教えますね!」
私は自分の知っている限りの情報を先輩に話したが、お酒も多分に入っていたからそのほとんどを覚えていないだろう。だが、久しぶりに優佳先輩と話すことが出来て、とても楽しい時間だった。
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