5 / 97
第5話:マネージャーからの圧と祝勝会
しおりを挟む
甲子園出場を決めたことを学校に報告し、簡単な祝勝会が開かれた。普段は食べないお菓子や炭酸飲料などで乾杯して今日の勝利を皆で喜んだ。
「おい晴斗! スタンドで応援していたあの美人さんは誰だよ!? お前は上京組だし、姉はいないはずだよな!? まさか彼女か!? 彼女なのか!? ちゃんと説明してもらうぞ!」
コーラを片手に絡んできたのは女房役の日下部先輩。アルコールは入っていないはずなのにまるで酔っ払いのそれで、まるで翌日が休みの日の夜に酒を呷った叔母さんと似ているから厄介極まりない。
「あの人は隣に住んでいる女子大生の飯島さんですよ。なんか気に入られているみたいで……野球にもやけに詳しくて、今日が決勝だって知ってわざわざ応援に来てくれたんですよ」
「な、なん……だ、と? 野球に詳しい上に美人さんが隣に住んでいる、だと? お前、羨ましすぎるだろう!」
「く、苦しいですよ、日下部先輩。締まってます! 締まってます!」
「黙れこの色男! 顔もよくて野球も上手いまでは許すが美人な年上彼女だけは許さん! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはない! 」
首のロックはそのままに拳骨を頭にぐりぐりと押し付けられる。地味に痛いからそろそろ離してほしいところだが、止める気配はない。成すがままにされていると、不意に救いの手が差し伸べられた。
「こら、日下部君。いい加減離してあげなよ。今宮君も困っているでしょ?」
俺を救ってくれたのは相馬美咲さん。高校生の割には幼い容姿。肩口で切りそろえられた髪。猫のようにクリっとした丸い瞳は庇護欲をそそるが本人は庇護されるより庇護したいとタイプと公言している。そんな彼女は二年生のマネージャーで我が明秀高校の二大美女の一人である。
「それに我が明秀高校の次期エース候補に万が一のことがあったらどうするの? これから本番の甲子園なんだからね? わかってる?」
「あ、あぁ……悪かった。俺が悪かったからそんな詰め寄らないでくれ。晴斗も解放するからさ!」
高校二大美女の一人に詰め寄られて驚き照れた日下部先輩は俺をぱっと解放してくれた。数分ぶりに落ち着いて深呼吸出来てほっとしていると、救世主が笑顔で声をかけてきた。
「大丈夫、今宮君?どこか痛いところはない? 初めて二戦連続で登板したから身体に違和感はない?」
「え、えぇ。今のところはなんとも。それよりも、助かりました。ありがとうございました、相馬先輩」
「いいんだよ、気にしないで。うちの野球部の大切なスーパールーキーにもしものことがあったら一大事だからね」
相馬先輩の笑顔はこちらに癒しを与えてくれる。また童顔だが女性特有の部分は発育が進んでいるので、これと合わさって破壊的な威力を有している。この笑みを向けられてころっと落ちる男子生徒―――主に野球部―――が現在進行形で続出している。
「大丈夫ですよ、相馬先輩。なんだかんだ言って日下部先輩は優しいから本気じゃなかったですし、身体のケアは先生に教えてもらって入念にしてますから」
「そう……ならいいんだけどね。でも何かあったらすぐに私に言うんだよ? いいね? すぐに言ってね? じゃなきゃ怒るからね?」
「わ、わかりました。すぐに相馬先輩に連絡します」
よろしい、と笑顔で頷いた相馬先輩はやっぱり可愛かった。
*****
間もなくして祝勝会は解散となった。後日後援会も含めて祝勝会兼壮行会を開くことが決まった。明秀高校としては三年ぶりの夏の甲子園大会出場だから大々的に行うそうだ。
さらにすでにメディアから取材の申し込みが何件か入っていると工藤監督が話していた。プロ注目の本格左腕、松葉先輩だけでなく一年生ルーキーとして自分にもカメラが付くという。本音を言えば恥ずかしいからやめてほしい。若干憂鬱な気持ちを抱えながら帰路についているとスマホが鳴った。
『晴斗君、何時に帰ってこれそう? 腕によりをかけて夕飯作ったから早く帰ってきてほしいなぁーなんてね』
早紀さんからメッセージだった。最近人気のカワウソのスタンプのおまけつき。なんだか微笑ましくて鬱憤とした気持ちが晴れた気がした。
―――返事できなくてごめんなさい。今帰っているところです。ご飯……本当に作ってくれたんですね。ありがとうございます。叔母に話していないので連絡入れますね―――
『それなら大丈夫。叔母さんには私から連絡して許可ももらっておいたから。晴斗君に連絡入れるって言ってたけど、まだ着てないかな?』
このメッセージを見て、初めて俺は叔母さんからメッセージが来ていることに気が付いた。叔母さん―――フリーのコンサルタントとして仕事をしている今宮里美―――からはこのような連絡が来ていた。
『早紀ちゃんから聞いたよぉー。まずは優勝おめでとう! そして喜べ若者よ! 今日私は仕事がいい具合に煮詰まっていて帰れそうにない。そこで! お隣の早紀ちゃんのところでご飯を食べてきたまえ! 明日はオフだろう? なんならお泊りしてきていいからね! 大人の階段を登ってきたまえ!』
そっと戻るボタンを押して早紀さんとのやりとりに戻った。もう三十歳になるというのにこの悪乗りである。頭が痛い。
―――叔母からの連絡見ました。なんかノリノリで許可もらったので、シャワー浴びてから伺いますね―――
『おおっ? シャワー浴びてくるっていうことは、晴斗君もしかして獣になるのかな? ご飯にする? お風呂にする? それとも……?』
――――早紀さん、からかわないでください! 試合した汗を流したいからですよ! それ以外に何もありませんて!―――
『冗談だよ、冗談。じゃぁ、来るとき連絡してね。ご飯温めておくから。早く来てね?』
懇願するカワウソのスタンプにまたしてもほっこりしながら俺は家路へと急いだ。なんにしても早紀さんの手調理が楽しみだ。美人に限って壊滅的に料理が出来ないという落ちではないことを祈るばかりだ。
「おい晴斗! スタンドで応援していたあの美人さんは誰だよ!? お前は上京組だし、姉はいないはずだよな!? まさか彼女か!? 彼女なのか!? ちゃんと説明してもらうぞ!」
コーラを片手に絡んできたのは女房役の日下部先輩。アルコールは入っていないはずなのにまるで酔っ払いのそれで、まるで翌日が休みの日の夜に酒を呷った叔母さんと似ているから厄介極まりない。
「あの人は隣に住んでいる女子大生の飯島さんですよ。なんか気に入られているみたいで……野球にもやけに詳しくて、今日が決勝だって知ってわざわざ応援に来てくれたんですよ」
「な、なん……だ、と? 野球に詳しい上に美人さんが隣に住んでいる、だと? お前、羨ましすぎるだろう!」
「く、苦しいですよ、日下部先輩。締まってます! 締まってます!」
「黙れこの色男! 顔もよくて野球も上手いまでは許すが美人な年上彼女だけは許さん! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはない! 」
首のロックはそのままに拳骨を頭にぐりぐりと押し付けられる。地味に痛いからそろそろ離してほしいところだが、止める気配はない。成すがままにされていると、不意に救いの手が差し伸べられた。
「こら、日下部君。いい加減離してあげなよ。今宮君も困っているでしょ?」
俺を救ってくれたのは相馬美咲さん。高校生の割には幼い容姿。肩口で切りそろえられた髪。猫のようにクリっとした丸い瞳は庇護欲をそそるが本人は庇護されるより庇護したいとタイプと公言している。そんな彼女は二年生のマネージャーで我が明秀高校の二大美女の一人である。
「それに我が明秀高校の次期エース候補に万が一のことがあったらどうするの? これから本番の甲子園なんだからね? わかってる?」
「あ、あぁ……悪かった。俺が悪かったからそんな詰め寄らないでくれ。晴斗も解放するからさ!」
高校二大美女の一人に詰め寄られて驚き照れた日下部先輩は俺をぱっと解放してくれた。数分ぶりに落ち着いて深呼吸出来てほっとしていると、救世主が笑顔で声をかけてきた。
「大丈夫、今宮君?どこか痛いところはない? 初めて二戦連続で登板したから身体に違和感はない?」
「え、えぇ。今のところはなんとも。それよりも、助かりました。ありがとうございました、相馬先輩」
「いいんだよ、気にしないで。うちの野球部の大切なスーパールーキーにもしものことがあったら一大事だからね」
相馬先輩の笑顔はこちらに癒しを与えてくれる。また童顔だが女性特有の部分は発育が進んでいるので、これと合わさって破壊的な威力を有している。この笑みを向けられてころっと落ちる男子生徒―――主に野球部―――が現在進行形で続出している。
「大丈夫ですよ、相馬先輩。なんだかんだ言って日下部先輩は優しいから本気じゃなかったですし、身体のケアは先生に教えてもらって入念にしてますから」
「そう……ならいいんだけどね。でも何かあったらすぐに私に言うんだよ? いいね? すぐに言ってね? じゃなきゃ怒るからね?」
「わ、わかりました。すぐに相馬先輩に連絡します」
よろしい、と笑顔で頷いた相馬先輩はやっぱり可愛かった。
*****
間もなくして祝勝会は解散となった。後日後援会も含めて祝勝会兼壮行会を開くことが決まった。明秀高校としては三年ぶりの夏の甲子園大会出場だから大々的に行うそうだ。
さらにすでにメディアから取材の申し込みが何件か入っていると工藤監督が話していた。プロ注目の本格左腕、松葉先輩だけでなく一年生ルーキーとして自分にもカメラが付くという。本音を言えば恥ずかしいからやめてほしい。若干憂鬱な気持ちを抱えながら帰路についているとスマホが鳴った。
『晴斗君、何時に帰ってこれそう? 腕によりをかけて夕飯作ったから早く帰ってきてほしいなぁーなんてね』
早紀さんからメッセージだった。最近人気のカワウソのスタンプのおまけつき。なんだか微笑ましくて鬱憤とした気持ちが晴れた気がした。
―――返事できなくてごめんなさい。今帰っているところです。ご飯……本当に作ってくれたんですね。ありがとうございます。叔母に話していないので連絡入れますね―――
『それなら大丈夫。叔母さんには私から連絡して許可ももらっておいたから。晴斗君に連絡入れるって言ってたけど、まだ着てないかな?』
このメッセージを見て、初めて俺は叔母さんからメッセージが来ていることに気が付いた。叔母さん―――フリーのコンサルタントとして仕事をしている今宮里美―――からはこのような連絡が来ていた。
『早紀ちゃんから聞いたよぉー。まずは優勝おめでとう! そして喜べ若者よ! 今日私は仕事がいい具合に煮詰まっていて帰れそうにない。そこで! お隣の早紀ちゃんのところでご飯を食べてきたまえ! 明日はオフだろう? なんならお泊りしてきていいからね! 大人の階段を登ってきたまえ!』
そっと戻るボタンを押して早紀さんとのやりとりに戻った。もう三十歳になるというのにこの悪乗りである。頭が痛い。
―――叔母からの連絡見ました。なんかノリノリで許可もらったので、シャワー浴びてから伺いますね―――
『おおっ? シャワー浴びてくるっていうことは、晴斗君もしかして獣になるのかな? ご飯にする? お風呂にする? それとも……?』
――――早紀さん、からかわないでください! 試合した汗を流したいからですよ! それ以外に何もありませんて!―――
『冗談だよ、冗談。じゃぁ、来るとき連絡してね。ご飯温めておくから。早く来てね?』
懇願するカワウソのスタンプにまたしてもほっこりしながら俺は家路へと急いだ。なんにしても早紀さんの手調理が楽しみだ。美人に限って壊滅的に料理が出来ないという落ちではないことを祈るばかりだ。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
妹に騙され性奴隷にされた〜だからって何でお前が俺を買うんだ!〜
りまり
BL
俺はこれでも公爵家の次男だ。
それなのに、家に金が無く後は没落寸前と聞くと俺を奴隷商に売りやがった!!!!
売られた俺を買ったのは、散々俺に言い寄っていた奴に買われたのだ。
買われてからは、散々だった。
これから俺はどうなっちまうんだ!!!!
二人とも好きじゃあダメなのか?
あさきりゆうた
BL
元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。
正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!?
※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。
21.03.11
つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。
21.05.18
第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。
23.09.09
表紙をヒロインのおっさんにしました。
じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~
木ノ花
青春
弱メンタル陰キャ少年と学内トップ美少女が織りなす、青春サッカーラブコメ。
幼い頃よりサッカー漬けの生活を送ってきた少年、白石兎和。
彼はとある事情から、ジュニアユースチーム(中学年代)卒業を前にしてサッカーへの情熱を曇らせる。
そして高校では心機一転、友情と恋に彩られた青春スクールライフを満喫すると決意するのだった。
ところが進学先には同じ白石の苗字を持つイケメンがいて、比較された挙句コミュ力や顔面偏差値で劣るからと、『じゃない方』なんていう不名誉なあだ名を授かってしまう。おまけに『陰キャ』のレッテルを貼られ、周囲から蔑まれる羽目になる。
先が思いやられる高校生活のスタート。
そのうえ学内トップの美少女である神園美月との出会いを機に、心が離れかけていたサッカーとも再び向き合うことに……こうして白石兎和のスクールライフは、本人の希望とまったく違う方向へ転がっていく。
パラレル to LOVEる〜多元世界でハーレム生活を堪能していたら彼女たちがひとつの世界線に集まってきました〜
遊馬友仁
SF
高校生の玄田雄司は、とある事故をきっかけに、並行する『セカイ』を俯瞰し、自由に行き来することができる能力を手に入れた!
それ以来、「さあ、青春を謳歌しようぜ!」と誰もが憧れる高校生活を堪能するべく、自由自在に多元世界を渡り歩く生活を送っている。
現役高校生シンガーである幼なじみとの交際、優等生な委員長との甘酸っぱい委員会活動、部活の後輩にして同居人であるツンデレ気味な下級生との日常生活などなど……
興味をひかれるセカイを見つけて、思春期男子が憧れる、とびっきりの青春を送れるなんて、控えめに言っても最ッ高じゃないか!
……などと思っていたのだがーーーーーー。
突然、『全ての多元世界が、たった一つの世界線に統合される』現象が発生して、各世界の《彼女》達全員が同じセカイに現れてしまった!
さらに、部活の先輩からは、唐突に「セカイ統合の動きを阻止しない限り、並行世界は消滅してしまう」と告げられて……。
パラレルワールド(平行世界)を舞台に繰り広げられるSF&学園ラブコメディーが幕を開ける。
※本作品は、自作『初恋リベンジャーズ』をお読みいただくと、さらに楽しめる内容となっています。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
ファーストカット!!!異世界に旅立って動画を回します。
蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
BL
トップ高校生we tuberのまっつんこと軒下 祭(のきした まつり)、17歳。いつものように学校をサボってどんなネタを撮ろうかと考えてみれば、水面に浮かぶ奇妙な扉が現れた。スマホのカメラを回そうと慌てる祭に突然、扉は言葉を発して彼に問い掛ける。
『迷える子羊よ。我の如何なる問いに答えられるか。』
扉に話しかけられ呆然とする祭は何も答えられずにいる。そんな彼に追い打ちをかけるように扉はさらに言葉を発して言い放った。
『答えられぬか…。そのようなお前に試練を授けよう。…自分が如何にここに存在しているのかを。』
すると祭の身体は勝手に動き、扉を超えて進んでいけば…なんとそこは大自然が広がっていた。
カメラを回して祭ははしゃぐ。何故ならば、見たことのない生物が多く賑わっていたのだから。
しかしここで祭のスマホが故障してしまった。修理をしようにもスキルが無い祭ではあるが…そんな彼に今度は青髪の少女に話しかけられた。月のピアスをした少女にときめいて恋に堕ちてしまう祭ではあるが、彼女はスマホを見てから祭とスマホに興味を持ち彼を家に誘ったのである。
もちろん承諾をする祭ではあるがそんな彼は知らなかった…。
ドキドキしながら家で待っていると今度は青髪のチャイナ服の青年が茶を持ってきた。少女かと思って残念がる祭ではあったが彼に礼を言って茶を飲めば…今度は眠くなり気が付けばベットにいて!?
祭の異世界放浪奮闘記がここに始まる。
妖怪の親方様に捧げられた生贄姫は生き生きと館を闊歩する
かのん
キャラ文芸
生贄として育てられた光葉は籠の中の鳥。
そんな生贄姫の捧げられる相手は妖怪の親方様。
これは生贄姫が親方様の優しさに触れながら、他の妖怪達と織りなす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる