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序章:勇者アスタの戦い②
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現存する魔王は四人。それらがどこに居城を構えているかはアスタの頭に入っていた。国を出るまではどこに向かうかも決めていた。そのはずなのに気が付けばほとんど陽の光が入らない死の森の中に足を踏み入れていて、なぜか今こうして最古の魔王に剣を向けていた。
―――あれ、どうして僕はこの人が最古の魔王だって知っているのだろう。
アスタの中でまた疑問が泡のように浮かび、消えていく。
「まさか直感? いえ、ありえないわね。それならこの子以外の勇者が今までたくさん来ているはず……フフフ、面白い。本当に久しぶりに……興味が湧いたわ」
魔王エーデルワイスは一歩、また一歩とゆっくりと前進してアスタとの距離を縮める。近づくにつれて彼女の身体から発せられる圧力が大きくなり、アスタの身体がその強大すぎる力を前にして小刻み震え出す。
本能が警告している。彼女には誰も勝てないと。
「フフフ。ねぇ、アスタ君。あなた……私のモノにならない? 大丈夫、痛いことはしないから。少しだけ……そう、少しだけ。あなたの身体を触らせて欲しいの。ダメかしら?」
舌なめずりをしながら。獲物を見つけた肉食獣のような目で。とても艶のある声で。魔王エーデルワイスはアスタに提案した。彼は思わず後ずさりした。
本能が警告している。彼女から逃げろと。
しかし。アスタは幼いと言っても仮にも勇者。人類にとって最大の敵である魔王を前にして逃げ出すわけにはいかない。緊張と恐怖で早鐘を打つ心臓を落ち着けるため、アスタは大きく深呼吸をする。その様子を余裕の笑みを浮かべて眺めている魔王様。そんな顔をしていられるのも今だけだ。
「行くぞ……魔王、エーデルワイス」
アスタは初めから全力を出すことにした。自身の身体の中にある魔力―――精気、生命力ともいい誰しもが有しているモノ―――を行使して切り札である魔法を発動する。
「フフッ。あなたの銀髪に似て、とても綺麗な輝きね…………それにどこか懐かしい。高位の身体強化の魔法ね?」
「僕だけの身体強化魔法。【聖光纏いて闇を断つ】。これが聖斂の勇者である僕が使えるとっておきの魔法です!」
銀色の闘気を全身に纏いながらアスタは答えた。
アスタが剣を一心不乱に振り続けたのは純粋に強くなりたいという思いもあったが、それ以上に魔法を使えなかったためだ。彼以外の勇者である子供たちは魔法で大きな爆発を起こしたり、周囲を一瞬で凍らせたり、雷を起こしてみたり、とにかくド派手で強力な魔法を使うことが出来た。
しかしアスタにそんな才能はなく。その代わり使えたのは身体を強化することだった。これは勇者でなくても騎士や他の人でも使用できる基本的な魔法であり、身体を強くしたところで通用するのは精々魔王の配下である魔物まで。絶大な魔王が相手では意味はない。だから他の攻撃的な魔法が使えないアスタは出来損ないとして蔑まれた。
だが実際は、アスタは十人いる勇者因子を持つ子供たちの中で最も強く、今回の魔王討伐に任命された。
その理由はこの魔法【聖光纏いて闇を断つ】があったからだ。これはアスタだけが使える身体強化魔法。その効力は全ての能力値の大幅な強化。この状態の彼にとって、相手が一人も十人も百人も一撃が十撃、十撃が百撃になるだけ。魔法で爆撃されても、凍らされても、雷に打たれても、蚊に刺された程度の痛みしかない。規格外の強化魔法。
だからアスタは誰よりも強かった。魔法が使えなくても勇者としていられる彼の心の拠り所。
「時間がありません。行きます―――!」
―――あれ、どうして僕はこの人が最古の魔王だって知っているのだろう。
アスタの中でまた疑問が泡のように浮かび、消えていく。
「まさか直感? いえ、ありえないわね。それならこの子以外の勇者が今までたくさん来ているはず……フフフ、面白い。本当に久しぶりに……興味が湧いたわ」
魔王エーデルワイスは一歩、また一歩とゆっくりと前進してアスタとの距離を縮める。近づくにつれて彼女の身体から発せられる圧力が大きくなり、アスタの身体がその強大すぎる力を前にして小刻み震え出す。
本能が警告している。彼女には誰も勝てないと。
「フフフ。ねぇ、アスタ君。あなた……私のモノにならない? 大丈夫、痛いことはしないから。少しだけ……そう、少しだけ。あなたの身体を触らせて欲しいの。ダメかしら?」
舌なめずりをしながら。獲物を見つけた肉食獣のような目で。とても艶のある声で。魔王エーデルワイスはアスタに提案した。彼は思わず後ずさりした。
本能が警告している。彼女から逃げろと。
しかし。アスタは幼いと言っても仮にも勇者。人類にとって最大の敵である魔王を前にして逃げ出すわけにはいかない。緊張と恐怖で早鐘を打つ心臓を落ち着けるため、アスタは大きく深呼吸をする。その様子を余裕の笑みを浮かべて眺めている魔王様。そんな顔をしていられるのも今だけだ。
「行くぞ……魔王、エーデルワイス」
アスタは初めから全力を出すことにした。自身の身体の中にある魔力―――精気、生命力ともいい誰しもが有しているモノ―――を行使して切り札である魔法を発動する。
「フフッ。あなたの銀髪に似て、とても綺麗な輝きね…………それにどこか懐かしい。高位の身体強化の魔法ね?」
「僕だけの身体強化魔法。【聖光纏いて闇を断つ】。これが聖斂の勇者である僕が使えるとっておきの魔法です!」
銀色の闘気を全身に纏いながらアスタは答えた。
アスタが剣を一心不乱に振り続けたのは純粋に強くなりたいという思いもあったが、それ以上に魔法を使えなかったためだ。彼以外の勇者である子供たちは魔法で大きな爆発を起こしたり、周囲を一瞬で凍らせたり、雷を起こしてみたり、とにかくド派手で強力な魔法を使うことが出来た。
しかしアスタにそんな才能はなく。その代わり使えたのは身体を強化することだった。これは勇者でなくても騎士や他の人でも使用できる基本的な魔法であり、身体を強くしたところで通用するのは精々魔王の配下である魔物まで。絶大な魔王が相手では意味はない。だから他の攻撃的な魔法が使えないアスタは出来損ないとして蔑まれた。
だが実際は、アスタは十人いる勇者因子を持つ子供たちの中で最も強く、今回の魔王討伐に任命された。
その理由はこの魔法【聖光纏いて闇を断つ】があったからだ。これはアスタだけが使える身体強化魔法。その効力は全ての能力値の大幅な強化。この状態の彼にとって、相手が一人も十人も百人も一撃が十撃、十撃が百撃になるだけ。魔法で爆撃されても、凍らされても、雷に打たれても、蚊に刺された程度の痛みしかない。規格外の強化魔法。
だからアスタは誰よりも強かった。魔法が使えなくても勇者としていられる彼の心の拠り所。
「時間がありません。行きます―――!」
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