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第27話〜桜舞うこの場所で誓う〜本編最終話。アフターストーリー(AS)数話予定。
しおりを挟む湊尹は私を強く抱きしめた。
「いいえ……!あなたを待つことで私は必死に自分を支えていました……」
湊尹の腕は小刻みに震えている。心底安堵したように私に体重をかけて抱きすくめる。
「―ー……逢いたかった……」
湊尹が呟く。
私は湊尹が一人で待ち続けた時間の長さと不安を感じて胸が潰れてしまいそうだった。
どれだけ待っていてくれたんだろう。
「本当にごめんね……」
私の瞳からは新たな涙が溢れた。
きっと不安でたまらない日もあったに違いない。もう二度と逢えなかったらと絶望した日もあったはずだ。
こんな風に強く湊尹に抱きしめられたのは初めてで、それだけ彼の抱えてきたものが重かったのだと実感させられる。
桜の花びらが穏やかに舞い、私たちを包み込んでいく。
それはまるで千年前の私たちが夢見た光景のようだった。
顔を上げて桜を見上げた彼の涙が私の頬に落ちた。
私は
彼の涙を止められる……?
今はもう私たちを隔てるものはない。
ーーもう二度と離れたくないよ。
私は彼の涙をそっと指先で拭った。
その手で彼の頬を包むと戸惑う瞳で奏尹が私を見下ろした。
姿は変わっても眼差しは変わらないんだね。私は彼が愛しくてたまらなかった。
「湊尹。あのとき言いたかったことを言ってもいい?」
私の言葉に奏尹の目は大きく見開かれた。
桜の下で別れたあの日のことだと湊尹には分かるはずだ。
千年前、伝えたくても伝えられなかった言葉を今なら伝えられる。
「私、湊尹を愛してる。……あなたのそばに……ずっといたいよ」
やっと口にできた言葉は嗚咽が混ざり、聞き取りずらかっただろうけど。
湊尹はギュッと強く私を抱きしめた。
「私も……本当はあなたに伝えたかったことがあります」
耳元で湊尹が囁く。体を離して私を愛おしげに見つめ頰に優しく触れた。
「あの日、あなたを連れてどこか遠くへ逃げてしまいたかった。あなたと居られるなら何を失っても構わない。ーーそう思っていました」
「湊尹……!」
私は心から驚いた。まさかそんな風に思っていたなんて!
「でも」と湊尹は寂しそうに微笑すると首を横に振った。
「それは夢です。叶わぬ夢で、選べぬ道でしたーー」
「湊尹……」
「桜姫。今ならあなたにお伝えしても良いでしょうか」
湊尹は私の手を取った。あれだけ頑なに触ってくれなかった私の手を、彼が握ってくれた。私は嬉しくてまた泣いてしまう。
「桜姫。私はずっとあなたを愛していました。もう他の誰にもあなたを譲ることはできません。どうかこれからの人生を、私と共に歩んでいただけませんかーー?」
桜が舞うあの夜、永遠の別れを覚悟した私たちに今、あの日と違う運命が廻り始めた。
『そばに居たい……』
『そばに居てほしい……』
あの頃は絶対に口に出してはいけなかった本心を、今やっとお互い言葉にすることができた。
湊尹と私は見つめ合う。胸が締め付けられる想い。愛しい想い――。
あなたが……。
あなただから……。
こんなにも愛しい――……。
桜が美しく舞い散るこの場所で、誰の目も気にせず私たちは一緒に居られる。
どれだけの沈黙だっただろう。
やがて近づく彼の顔に、私は目を閉じた。
湊尹――
今、私たち幸せだね。
遥かな時を越えて、再びこの桜を二人で見上げる事ができたんだよ。
奇跡のような再会。
遠いあの日に出逢ったあなたとの「偶然」はきっと「運命」という名の歯車。
私たちの魂は何度でもきっと惹かれ合うよ。
何度生まれ変わっても――私はあなたが好き。
今はただ感謝を伝えたい。
隣に居るかけがえのないあなたに。
そして
あなたと見上げるこの満開の桜にーーーー。
完
✳︎アフターストーリーを数話予定しています。
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