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第3話〜青年僧〜
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翌日。
「大変申し訳ございませんでした」
昨日と同じ時刻に現れた青年僧は私の姿を見るなりその場に座り深く頭を下げた。私は扇で顔を半分隠し、コホンと小さく咳払いした。
「…………もう少し近くに来て」
誰かに聞かれたらマズイと思って私は僧侶を呼んだ。彼は戸惑いがちに2歩ほど腰をずらし近寄った。
「……。近くというのは、こんなに声を張り上げなくても済む距離のことよ。これでは誰かに気づかれてしまうわ」
「……は。失礼致します」
そう言うと僧侶はスラリと立ち上がり、私のすぐ近くまで寄ってきた。
あまりにスタスタと近づくので、今度は私が驚いてしまって少し身を引いた。
「あ……、まぁそのくらいで……」
青年僧はその場に座り直して再び頭を下げた。
「もう頭なんか下げなくていいのよ。今私たちは二人だけじゃない」
「……ですが」
「いいったら。私そんなにエライ人間じゃないんだから」
そう言った私の言葉に戸惑って言葉に詰まる青年僧を私はなんだか微笑ましく思った。
なんだか憎めない僧侶だなぁ。
私は昨日猫にひっかかれた右手の人差し指を見せた。
「言われた通りちゃんと薬を塗ったわ」
私の言葉に青年僧は急に汗をかき始めた。
「尊い方のお手に触れてしまい、大変失礼をいたしました」
床に着くほど深々と頭を下げてしまった青年僧を見て私は驚いた。
いやいや、そんなつもりで言ったわけじゃないし。
「なにも怒ってないわ。まさか身を隠している姫が警護もいないこんな場所にいるとは普通思わないわよね」
「……やはり貴女様が桜姫様でいらっしゃるのですね」
「うん、そうよ」
昨日の伊織との会話は聞かれてしまったわけだし、今更ごまかしても仕方ない。
それになんだか彼には正直に話しても大丈夫だという気がしていた。
「…………」
その後私は口ごもった。
昨日は咄嗟に今日ここへ来てと言ってしまったものの、改めて考えると大胆なことをしてしまったものだ。
「――……?姫……?」
黙り込んだ私に青年僧は不思議そうな顔をした。
なにか言わなくては。
「……りがとう」
え?という顔をする僧侶に、私は少し声を張り上げた。
「昨日は手当てをありがとうございます!」
恥ずかしくて死にそうだ。
呼び出しておいて私の方が緊張しているではないか。
彼は目を見開いて数秒間黙っていた……が。
「き、昨日も言っていただきました」
え。と私は驚いた。
そういえば言ったような言わないような……
「う、うるさいわね!お礼なんて何度言っても減るもんじゃないわ」
恥ずかしくなって私は真っ赤になり膨れた。
「―ーふ、はは」
「!!」
私は驚いて顔を上げた。
青年僧が我慢しきれず笑い声をあげたのだ。彼の端正な顔は笑みを浮かべると印象より幼く見えた。
「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
なんとなく聞いてみたかった。
毎日が退屈で友達もいなかった私は、年の近そうなこの青年僧に興味を持ったのだ。
彼は私の質問に少し戸惑ったがやがて口を開いた。
「湊尹、と申します」
「そういん…いい名ね。私は桜。15歳。あなたは?」
「17です」
17歳。やっぱり歳が近い。私は奏尹に親しみを感じた。
迷ったけれど、口にしてみた。
「明日も会えないかしら?もう少し話してみたいわ」
私の誘いに湊尹は明らかに動揺した。
「……姫。有難いお誘いですが、それはお受けすることが出来ません」
奏尹は頭を下げた。
「私は僧侶です。本来ならば姫様とこのように言葉を交わすことも叶わぬ身なのです」
「……そんな事」
ない、と言いたかった。
しかし彼が言う事は事実だ。
私は平凡な人間だけれど、貴族の家に生まれ育ったというだけで周りには尊い存在に映ってしまうのだ。
本当は自由に友達を作ることも出来ない。誰一人本音で話してくれる人などいない。そんな孤独な生活なのに。
「―ー……」
私は浮かれてしまった自分が恥ずかしくなり、俯いた。
でも……。
それが現実なんだ…
「大変申し訳ございませんでした」
昨日と同じ時刻に現れた青年僧は私の姿を見るなりその場に座り深く頭を下げた。私は扇で顔を半分隠し、コホンと小さく咳払いした。
「…………もう少し近くに来て」
誰かに聞かれたらマズイと思って私は僧侶を呼んだ。彼は戸惑いがちに2歩ほど腰をずらし近寄った。
「……。近くというのは、こんなに声を張り上げなくても済む距離のことよ。これでは誰かに気づかれてしまうわ」
「……は。失礼致します」
そう言うと僧侶はスラリと立ち上がり、私のすぐ近くまで寄ってきた。
あまりにスタスタと近づくので、今度は私が驚いてしまって少し身を引いた。
「あ……、まぁそのくらいで……」
青年僧はその場に座り直して再び頭を下げた。
「もう頭なんか下げなくていいのよ。今私たちは二人だけじゃない」
「……ですが」
「いいったら。私そんなにエライ人間じゃないんだから」
そう言った私の言葉に戸惑って言葉に詰まる青年僧を私はなんだか微笑ましく思った。
なんだか憎めない僧侶だなぁ。
私は昨日猫にひっかかれた右手の人差し指を見せた。
「言われた通りちゃんと薬を塗ったわ」
私の言葉に青年僧は急に汗をかき始めた。
「尊い方のお手に触れてしまい、大変失礼をいたしました」
床に着くほど深々と頭を下げてしまった青年僧を見て私は驚いた。
いやいや、そんなつもりで言ったわけじゃないし。
「なにも怒ってないわ。まさか身を隠している姫が警護もいないこんな場所にいるとは普通思わないわよね」
「……やはり貴女様が桜姫様でいらっしゃるのですね」
「うん、そうよ」
昨日の伊織との会話は聞かれてしまったわけだし、今更ごまかしても仕方ない。
それになんだか彼には正直に話しても大丈夫だという気がしていた。
「…………」
その後私は口ごもった。
昨日は咄嗟に今日ここへ来てと言ってしまったものの、改めて考えると大胆なことをしてしまったものだ。
「――……?姫……?」
黙り込んだ私に青年僧は不思議そうな顔をした。
なにか言わなくては。
「……りがとう」
え?という顔をする僧侶に、私は少し声を張り上げた。
「昨日は手当てをありがとうございます!」
恥ずかしくて死にそうだ。
呼び出しておいて私の方が緊張しているではないか。
彼は目を見開いて数秒間黙っていた……が。
「き、昨日も言っていただきました」
え。と私は驚いた。
そういえば言ったような言わないような……
「う、うるさいわね!お礼なんて何度言っても減るもんじゃないわ」
恥ずかしくなって私は真っ赤になり膨れた。
「―ーふ、はは」
「!!」
私は驚いて顔を上げた。
青年僧が我慢しきれず笑い声をあげたのだ。彼の端正な顔は笑みを浮かべると印象より幼く見えた。
「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
なんとなく聞いてみたかった。
毎日が退屈で友達もいなかった私は、年の近そうなこの青年僧に興味を持ったのだ。
彼は私の質問に少し戸惑ったがやがて口を開いた。
「湊尹、と申します」
「そういん…いい名ね。私は桜。15歳。あなたは?」
「17です」
17歳。やっぱり歳が近い。私は奏尹に親しみを感じた。
迷ったけれど、口にしてみた。
「明日も会えないかしら?もう少し話してみたいわ」
私の誘いに湊尹は明らかに動揺した。
「……姫。有難いお誘いですが、それはお受けすることが出来ません」
奏尹は頭を下げた。
「私は僧侶です。本来ならば姫様とこのように言葉を交わすことも叶わぬ身なのです」
「……そんな事」
ない、と言いたかった。
しかし彼が言う事は事実だ。
私は平凡な人間だけれど、貴族の家に生まれ育ったというだけで周りには尊い存在に映ってしまうのだ。
本当は自由に友達を作ることも出来ない。誰一人本音で話してくれる人などいない。そんな孤独な生活なのに。
「―ー……」
私は浮かれてしまった自分が恥ずかしくなり、俯いた。
でも……。
それが現実なんだ…
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