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 オスカーが消息を絶ってから5年の月日が流れた。

 魔法使いになるべく、当初は山奥で食っちゃ寝生活をするも……

 それに飽きたオスカーは鍛錬を始めた。

 一日1万回のせいけんづきをノルマにして、鍛錬を続けた。

 最初の頃はノルマを達成するのに18時間もかけていたが、1年後には12時間、2年後には6時間で済むようになり……


 5年後には音を置き去りにする素早さでせいけんづきが放てるようになったおかげで、1時間もかからず終えるようになったのだ。


 時間に余裕できたオスカーは余暇の時間を料理にあてた。
 毎日1万回もせいけんづきを放てばカロリーもそれ相応に消費される。
 特に美味しい料理は生きる糧なこともあり、時間だけはたっぷりあったオスカーは山奥で家庭菜園や牧場を作って一人のんびりと……

 俗にいうスローライフを楽しんでいた。

 ……傍からみれば、残像を生み出すような速度で畑や家畜の世話をする有様のどこがスローライフなのか疑問符付きそうであるも、本人は周囲が『もう遅い!』といわんばかりなスローの世界にみえるからスローライフのつもりなのだろう。

 こうして魔法使いになるという目的をすっかり彼方へと追いやったかのようなスローライフの日々を過ごしていたところ……




 夜中に来客があった。

 魔王の配下であるゴーストが襲い掛かってきたのだ。

 物理一辺倒なオスカーでは物理無効のゴーストは相性最悪。
 5年前まではなすすべもなく、エロ同人みたいな乱暴される展開となってたのだろうが……



 この5年の鍛錬のせいでいろいろな常識をぶっ壊したオスカーの拳は物理無効の法則すらぶっ壊していた。





……………………

「ふふふ……ゴースト様。こんな真夜中に淑女の元を訪れるだなんて、よっぽど死にてーようだな」

「ごめんなさい。許してください。なんでもしますから」

「ん?今何でもするって言いましたよね」

「え、えぇ……っと…」

 にやりと笑うオスカーの前にして一瞬とんでもない事を口走ったのではと思うゴーストであるも……

「……ゴーストって食べたらどんな味するのかしら」

 とんでもない事を口走ったのはオスカーの方であった。

「た、食べないでくださーい!ぼくはたべてもおいしくありませんから」

「大丈夫、俺は好き嫌いしない性質だから。ぐふふふ……」

 右手でナイフ、左手でフォークを形どった指でぎちぎちならしながらにじり寄るオスカーにゴーストは焦りはじめる。
 どうにかして打開する術をっと思って周囲を探ると……

 ある本……初級の魔法使い入門書ともいうべき本の山が目に入った。

「ふふふ……オレサマオマエマルカジリ」

「ま、まて!!」

「モウガマンデキナーイ!!」

「お前……魔法使いになりたいんだな?」

 魔法使い……その言葉を聞いたオスカーはピタリと止まった。
 どうやら彼女はまだ魔法使いになるという目標を捨てたわけで放ったらしい。

 その様を突破口と判断したゴーストは叩きかける。

「魔法使いになりたいならいい方法がある……聖女……聖女を食べれば魔法使いになれる!!!」

「…………」

 しばらくの沈黙。
 通常であればなにとち狂った事を……と思われるも、あいにくオスカーは最初からとち狂ってるような存在だ。
 5年前での受付嬢の言葉を変な解釈に捕らえるほどの残念なおつむをしていたオスカーはこの5年、山奥で全く人と関わることなく過ごしていたこともあって……



「そうですか……聖女を美味しく食べれば、俺は魔法使いになれるのですね」

 信じてしまったのだ。


 でもって、信じてしまったからといってゴーストの危機は去ったわけでなく



「それはそれとして~いただきます」

「アッー!!」


 ぱっくんちょ



 ゴーストはオスカーに美味しく踊り食いされたのであった。





「うん、まずい。やっぱり食材は生より手間暇かけた料理しないとダメっぽいわね……よし決めた、明日になったら山を下りよう。そして聖女を美味しく食べるべく料理の腕を磨きながら聖女を探し出そう。そうして俺は……魔法使いになる!!」



 新たな目標を刻み込んだオスカーは翌日、山を下りた。

 聖女を探すために……

 魔法使いになるために……

 魔法使いとして、勇者と合流するために……


 そのために、彼女は旅立つのである。
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