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第4章

30.満開となったサクラの木の下で待ってあげる(side:エクレア)

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「7年後……何が?」

 ローインの問いかけにエクレアはにやりと笑う。それこそよい悪戯を思いついたような子供のような笑顔で続きを話す。

「師匠の故郷ではね、お互いが18歳になった次の春にサクラの木の下で告白する伝統があるの」

「それはつまり……」

「待ったげる。7年後の春、師匠の命日となる日に満開となったサクラの木の下で待ってあげる。全てに決着を付けて、なんのしがらみのない身となってから待ってあげるから……もしその気があるなら………………」

 本来ならここは『結婚したげる』と言うところだろう。
 でもエクレアはその言葉を使う気はない。

 それは結婚に憧れがないからっというわけではない。

 エクレアも結婚にあこがれはあるが、エクレアの求める『真実の愛』とはそぐわない。

 だから……あえて別の言葉を選んだ。


「家族……偽りじゃない、義理じゃない、本当の家族として私を迎えにきて頂戴」



 家族愛……

 それこそがエクレアのみつけた『真実の愛』。
 恋愛ではなく家族愛。物語にあるような情熱的で身を焦がすような激しく燃え盛る愛ではなく、極々身近で優しく包み込んでくれる暖炉のように温かみのある愛だ。

(全く、やろうと思えば美男子ばかりを集めた逆ハーレムを築く事さえ出来るのに、私が望むのは家族としての平凡な日常を求める愛だなんて浪漫も何もないじゃん。こんなのを『真実の愛』呼ばわりしたら世のヒロイン達に喧嘩吹っ掛けてるも同然になるんじゃないの?)

 それでも、エクレアはこの愛を貫くつもりでいた。
 “キャロット”が突っ込んだ通り、『真実の愛』は人それぞれだ。

 他者にとっては偽物であろうとも、エクレアにとっては真実。
 他者にとってはなんでもないありふれたような愛であろうとも、エクレアにとっては何よりも得難い愛。

 だからこその『真実の愛』


 エクレアは『結婚』ではなく『家族』の言葉を選んだ。


 ローインは予想外の言葉に少々戸惑ってるようだが……


「そっか……でも、それはそれでエクレアちゃんらしいかもしれない」

 ふっと笑う。
 エクレアらしいっという言葉にやはり引っかかる部分あるも、元々歪んでる乙女心だ。
 成長してもまともな恋愛感情は持てそうにない。ならいい得て妙と思ってあえて黙る。
 黙って返事を待つ。


「わかった。7年後……必ず迎えに行くよ。家族としてね」

「一応言っておくけど夢の中のようなヘタレたことしたらもう次のチャンスあげないよ。それどころか首をねじ切るようなビンタかましてサクラの木の肥料にしてあげるから、そのつもりで迎えに来てね。後……」

 エクレアはくるりと玄関に振り向き……

「外のデバガメ2人!!仏の顔も3度までだから2度目までは許す。ただし3度目……7年後に同じ真似したら即刻サクラの肥料にするから覚えておくように!!!」


「「いえすまむ!!わかりました!!!」」

 顔を見せず扉越しのまま返答するランプとトンビ。
 その態度はあれだが、今はそれほど問題ではない。むしろ問題なのは……


「二人ともまたやったの!!?」

 昨夜に続いて朝も二人に気付かなかったローインにエクレアは少し頭を抱える。

「ねぇローイン君、少し気配を探るとかそういった能力身に着けた方がいいんじゃないの?少なくとも私を家族に迎えてくれるっていうなら……ね」

 エクレアは薬師なので薬草採取も仕事の一つ。危険の多い森の中をうろつく必要があるから気配探知は割と必須だ。危険を避ける事ができなければ『おぉっと』からの不意打ちを食らいまくって採取どころではない。
 扉越しで二人の気配を察するぐらいは出来て当たり前なのだ。

 対してローインは今まで一人で森を歩く事はしなかった。危険の察知も大体ランプ任せでそういった能力を磨く必要がなかった。だが、エクレアと夫婦になるということは森の中への薬草採取の機会は増える。その際に危険を察する力がなければ不便が起きる。

 ただまぁエクレアは別にそこまで強く求める気はない。人には向き不向きがあるし無理なら無理で仕方ないっと諦めるつもりだ。

「うんわかった。次からの訓練メニューに追加しておく」

 どうやらローインは習得を目指すつもりだろう。
 そこには男の沽券とか意地とかそういったものはありそうだが、やる気あるならそれはそれでいい。

「じゃぁこれで話は終わりでいい?私は別の用事を済ますために出かけるから後はよろしく」

「用事ってなんだい?」

「野イチゴ摘み。モモちゃんの誕生日にイチゴのタルトを作ってほしいっと懇願されてたけど昨日までのバタバタで今だ果たしてないからね。一応モモちゃんも事情察してくれてはいたけどさすがに限界はあるはず。その期限は恐らく今日の昼。アトリエにモモちゃんが踏み込んで来るその時にまで用意できなかったら」

 エクレアは行う。何かを持って何かをチタタプチタタプと殴打するしぐさを……

「よくわかった。急いだほうがいいよ」

 なら善は急げっと送り出そうとするも、エクレアはそんなローインに胡乱な目を向ける。

「なんか他人事みたいなこと言ってるけど……大丈夫なの?」

「他人事って……あっ!!?」

「わかったならよろしい。ちなみに私は一切手助けしないからね。私自身すでに首皮一枚で繋がってる程度の命で余裕ないんだから……その朝食が最後の晩餐にならないように願っておくから!!」

 そう言うや否や籠をもって外へ駆け出していくエクレア。
 玄関前にいたランプとトンビには気にかけず森へ入っていこうと思ったが……そういればっと思ってピタッと止まる。

「あーそういえば忘れてたっけ。昨夜の出来事は私忘れてたから……二人のデバガメって今日初めてになるんだっけ。だから7年後にデバガメしたとしてもそれって2度目になっちゃうんだよね~」

 端的にいうと7年後の告白シーンを見たければどうぞ。そういったメッセージだ。
 ローインはどうかしらないが、エクレアとしては別に見世物となっても構わない。むしろ最高のショーとして盛り上げてくれっという意図も込めていた。


(うん、やっぱり私の乙女心ってねじ曲がってるよねぇ)


 まぁエクレアの求めている『真実の愛』が他の一般的なヒロインとかけ離れた代物なのだし、何より『正気のまま狂っている』のがデフォだ。
 無意識レベルで周囲に“狂気”を付与してしまう特性上、いっそのこと告白の場をカオスなお祭り会場にしてしまう方がらしいだろう。

 そう思っての提案であるが……
 今は二人の返事とか返答を聞いてる暇はない。

 ローインとの予定外の長話で時間圧してるし、早く野イチゴ集めなければっと思って森の中へかけていくのであった。
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