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第3章

15.悩まず進め(side:俯瞰)

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 エクレアを連れ去ったと思われるゴブリンの足跡を辿って森へと入ったランプ達3人。
 足跡は森でも途切れることなく、わかりやすく続いていた。
 これなら簡単にゴブリンを追跡できるっと思われた一行だが、足跡を見ながら先導していたランプはふと止まる。

「匂うな」

「匂うって何が?血の匂い?それとも…」

「……臭いってことだ」

「ゴブリン臭いけど?」

「そっちじゃない。いや、臭いのは同意するけどな」

 ランプは何が言いたいのかよくわからないため、首を傾げるローインとトンビ。
 だが、こういったものはランプの得意分野。
 彼は食いしん坊な妹の食欲を満たすため幼少の頃からよく森の中で木の実やキノコを採取したり、兎等の獣を狩ったりしてきたのだ。それらの経験から獲物の痕跡を見つけたり追跡するといった狩人の腕前は随一。少し前からローインを見習って知識も深めるようにしてきた。

 そんな彼がゴブリンの残した痕跡を胡散臭く見つめて何かを考えこんでいた。

「ローイン。ゴブリンは馬鹿じゃないんだよな?」

「馬鹿ではあるけど間抜けじゃない……有名な小鬼殺しゴブリンスレイヤーの格言だけどそれが何か?」

「わざとらしすぎるんだ……あいつらは俺達のような素人どころか、グランさん達みたいな玄人ですら前触れに気付く事なく群れで近づいて、そのままエクレアをさらったんだ。そこまで頭が回るなら即座に救出隊や討伐隊が差し向けられるのはわかってるはず。だったら普通バレないよう痕跡は隠さないか?」

「そういえば……隠すのが普通」

「ゴブリンもピンキリなところあるし、判断は難しいね」

 トンビは肯定、ローインはどちらともいえないっといった意見だ。その答えを聞いたランプは思考を巡らし始める。

「フェイクとみるか、それとも足跡は本当。ただし撃退用に途中なんらかの罠をおいてる可能性もある……選択肢としては、進む、引く、迂回する。この3択だがどうする?」

 その問いかけにローインはふと笑う。

「…………まっすぐ行こう」

「理由は?」

「馬鹿で間抜けなら言う事なし。罠があってもそれは正解ルートの証拠なんだから踏みつぶして進めばいい。ここでぐだぐだ悩むぐらいならすぱっと確率の高い方を取るべきじゃないのかな」

 ローインの論理的ではあっても少々脳筋気味の発言にランプはつい『ぷっ』と笑う。

「悩まず進めか、いいねその考え。だが、罠は踏みつぶせってそれ『俺に死ね』と言ってるようなものだが、それについてはどうなんだ?」

「君の屍を乗り越えて僕とトンビ君でちゃんっとエクレアちゃんを助けてくるから尊い犠牲になってね、ランプ君」

「ん、骨は帰り際に拾う。そこは安心していい」

 にっこり笑うローインとぐっとサムズアップするトンビ。
 その笑みと態度はどことなくエクレアを思わせるせいか、ランプは再度『ぷっ』と笑う。

「ははは……お前等すっかりエクレアに毒されたな」

「毒されたなんて言わないでよ。大体それ言ったらランプ君も同類でしょ」

「それは……あるかもな」

 ローインの突っ込みに否定しなかったランプ。

 3人にとってエクレアはある種の憧れで目標だった。
 どんな困難な道であろうと一度決めたらひたすら進むその背中に……
 絶望という名前の障害物を笑顔で踏みつぶし、蹴散らし、時には他者の手を引っ掴んで巻き込みながら共に乗り越えていく。その姿はまさに彼等の目標だったのだ。

 だから彼等は真似た。
 エクレアも周囲を顧みず超突猛進に進むせいで、それなりの失敗を重ねてる。早死にしないよう慎重が信条な冒険者として考えるなら真似るのは愚行かもしれないが、それでも彼等は真似たのである。
 エクレアと同じく、罠は踏みつぶす意気込みで前進を続けた。

 そういった気迫は本来ならありえなかった運命を切り開いたようだ。

 ゴブリンの足跡を辿って草藪をかき分けていくと、唐突に現れた穴倉……
 巧妙に隠された、地下へと続く階段を備えた穴倉をみつけたのだ。

「ビンゴだ」

 ランプはにやりと笑う。

「罠は?ゴブリンは?」

「ゴブリンは多分いない。罠は……入り口には見当たらない。ただちょっと奇妙な感覚に襲われているけどな」

「それって目の前の穴が得体のしれない化け物の口にみえて帰りたいとか思い始めた感覚?」

「まさにそれだ。ただエクレアの顔を思い浮かべたらなぜか消えるんだよなぁ」

「うん、思い浮かべたら消える」

「本当だ。浮かべたら消えた」

「「「………」」」

 原理はわからない。
 一体なぜそうなるのか……

 が、考えても仕方ないだろう。エクレアはこういう時でも大体迷わない。
 一度決めたら迷う事なく行動するだろうっと彼等はすぐに気持ちを切り替える。

「突入するが反対意見はあるか?」

「あるわけない」

「ここまで来て帰れって?冗談やめようよ。この先にエクレアちゃんが助けを待ってるかもしれないんだしね」

 改めて決意を強めるが、ここであまり会話をしてこないトンビがぼそりと一言


「なんとなくゴブリン達の屍の山の上でふんぞり返りながら『随分遅かったね。もう制圧終わっちゃった』とか言ってきそうな気するけど」

「「………」」

「あーもう、トンビ君の言う通りエクレアちゃんならありえるっと思っちゃうから困るよ本当に」

「なんて助けがいのない女だあいつは……冷静に考えると俺たちって完全余計なお世話な気がしてきたぜ」

 余裕綽々な態度で出迎えて来るエクレアを想像したせいで、せっかくの決意が霧散しかけるローインとランプ。
 それでも……

「それでもいこう。万が一ある」

 トンビのこの一言で霧散しかけた決意を持ちなおさせた。

「まぁな。万が一はある。あれは案外抜けてるとこあるわけだし」

「だよね」

 決意は戻持ちなおしても緊張感はない。もはやコントのようなやり取りを行う3人であっても、下手に緊張して臆するよりかはマシという考えもある。
 適度に力を抜きつつも、油断せず3人は穴倉へと侵入するのであった。

 





 そんなこんなと囚われの身ではあってもいまいち心配されてない、ぞんざいに扱われてるヒロインだが実際はそう甘くない。

 入り口からエクレアの囚われている牢屋から遠く離れてるせいで届かなかったが……

 牢屋からエクレアの声にならない悲鳴が上がっていた。

 つまり、3人の想定とは違って大マジな危機に陥っているのである。
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