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第1章 シン=サザンクロス 5歳

森での生活

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死にかけたアノ日から数日が経過し、体調もすこぶる良い状態である。

シンは依然として迷いの森の中にいた。


「スノー。おはよう。」

白く大きい狼はそう呼びかけられ、主人に頭を撫でられ尻尾を激しく振っていた。


シンは命の恩人に対し、感謝した。2日間は名前を呼ぶことなく、[お前]や[キミ]などで表していたが、不便であった。呼び名を考えた時に、雪のような白き身体と眼光の鋭さからスノーという名前を付けた。不思議としっくりし、スノーも喜んでくれたのである。


スノーは凄く賢い。

お腹が空いていたら果物や魚を取ってきてくれる。

そして小枝とかに火をつけることができ、魚を焼く事が出来る。

この森は魔物が出ない。その為、果物は元気に育ち、豊作である。

川から流れてくるので魚は唯一入手できるのである。

いかんせん、肉が食べたくはなるのだが手に入らないので仕方ない。

夜は近くに洞窟があり、そこでスノーに包まりながら寝ているので身の安全も大丈夫である。


そんな、安全でまったりしている生活も約一月が経過する。

時間が経過すると共に避けていた事に目を向ける。

[何故、傭兵に連れて来られたのか。]

傭兵が向かってきたのは自分のいた街の方角からである事。
お金を持っている事を知っている事。
命を奪おうとした事。

タイミングが良すぎる事。

これらから考えられることはサザンクロス家より来られた刺客と考えるのが正しい。

つまり、サザンクロス家から勘当されたというより亡き者にしようとしている事である。

「ふぅ。」

思わずため息が漏れてしまう。武術など家族の中では最弱であったが、勉学に関しては家の中では圧倒的に負けてないのである。

家族を失って独りになったと自覚してしまい、寂しさのあまり涙がこみ上げきてしまった。

それを察してか、スノーは近づいてきて、[俺もいるよ]と顔をすり寄せてきたのである。

それを嬉しく感じ、更に涙がこみ上げてきたのである。


そして、翌日。
魚に飽きてきたのもあり、心を新たに森を抜ける事を決意する。

1人と1匹の家族は前を向き、旅に出るのであった。
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