上 下
52 / 58
第三章 冥府の大樹林編

第52話 怒涛のお礼がやってきた!(絶望) ver2

しおりを挟む



「「「領主様! ありがとうございます!!!」」」



 意気揚々と町に出てきた俺に待ち構えていたのは、非情にも領民たちからの感謝の言葉だった。
 誰もが曇りのない満面の笑みを浮かべている。

 なぜ……なぜこんなことになったんだ!?

 困惑する俺の前に、一人の男性がやってくる。
 先日、畑が魔物に荒らされているとやらで助けを求めてきたフィガナ村の村長だ。
 彼は俺に対して深く頭を下げた。

「領主様、この度は本当にありがとうございました!」

 訳が分からない。
 訳が分からなさ過ぎて、ズキズキと頭痛が襲い掛かってくる。


「……何に対する礼だ? 【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】を用意したことに対してなら、既にもらった覚えがあるが」

「もちろん、それらについて再度お礼を申し上げたいと思ったからです! 領主様のおかげであの後、様々な恩恵がございまして!」

「様々な恩恵だと?」

「はい! まず【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】で倒した魔物ですが、どれも強力な魔物で良い素材になるということで、商人が高く買い取ってくれたのです! おかげで村が以前より栄えました!」

「…………」


 村のためになると思って【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】を提供したら、なぜか想定以上に村のためになってるんだけど!?!?!?
 なぜ!? 普通そこは逆に衰退したりするもんじゃないのか!?

 くそっ!
 事象逆転現象による評判低下という恩恵がないばかりか、そんな最悪な副作用が存在していたとは。
 いったいこの世界はどうなっているんだ!?

 絶望する俺に対し、村長は続ける。

「さらにお礼したいことがあるのです!」

「まだあるだと?」

「はい!」

 村長は力強く頷いた。


「【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】を使用する際、村の魔力ある者が順番に行っていたのですが……なんとそのうち一人の少年が魔力の才能に目覚めたのです! 何でも【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】から放たれる魔力の流れを見るだけ学習し、再現できるようになったとか。その後、冒険者ギルドに向かったところわずか一週間でAランクにまで上り、さらに任務中にたまたま盗賊に襲われていた貴族のご令嬢を助けた結果、なんと婚約することになりました! これでますますフィガナ村は発展するでしょう! 本当にありがとうございます!」


 なんか知らないエピソードが繰り広げられてるんだけど!?
 えっ、何、もしかしてソイツも転生者だったりしない?


 意味の分からない展開に頭を抱えていると、続けて一人の男性が前に出てくる。
 特産品発明を依頼してきた商業ギルドのマスターだ。


「領主様に改めてお礼を! まことにありがとうございます!」

「……ごふっ」

「領主様!? いかがなさいましたか!?」

「何でもない。早く続けろ」

「か、かしこまりました。それでは……」


 胃から沸き上がってきた血を必死に応えつつ、ギルドマスターに続きを促す。
 既に抜け出せない絶望の渦に巻き込まれているような気がするが、果たしてそれは気のせいなのだろうか。

「領主様が開発された黄金フィナンシェですが、予想通り観光客に大ウケです!」

「そうか。報告はそれで終わりだな?」

「いいえまさか! ここからが本番です!」

 縋るように尋ねた言葉は、一瞬で否定されてしまった。
 俺はキリキリと痛む胃を抑えながら、ギルドマスターの報告を聞く。


「実はですね、なんとタイミングを合わせたように、レンフォード領にやってくる観光客以外の者が増えたのです! その中でも特に多いのが冒険者や商人、そして隣領であるからの移住希望者です! 彼らに黄金フィナンシェが気に入られた結果、領内に収めておくのはとても惜しいとのこと。そこで貴重な王冠蜂のクラウン・ラス終焉蜜ト・ハニーの収穫は冒険者ギルドが、販路の開拓は商人たちが行うという取り決めが行われ、王都を始めとした各地に売り出すことが決定しました! さ ら に! 冒険者や商人たちはなぜか、レンフォード卿のためならばと破格の条件で引き受けてくれたのです! おかげで商業ギルドをはじめ、レンフォード領が大いに発展することでしょう! さすがは領主様でございます!」


 なんか知らないうちに大規模な政索になってるんだけど!?
 しかも俺のためなら身を粉にしてくれるだなんて、冒険者たちは何を考えているんだ!?
 こんな風に恩を仇で返されるなんて最悪の気分だ。
 せめて冒険者だけは、ちゃんと俺の悪評を広げる手助けをしてくれていると信じていたのに!!

 絶望のあまりクラクラと立ち眩みし、その場に倒れそうになる。
 が、そんな俺を許してくれるほど領民たちは優しくなかった。


「領主様! 次は私から感謝を伝えさせてください!」

「いいえ、先にこちらを! レンフォード様へお礼の品です!」

「「「領主様! 領主様! 領主様!
」」」


 フィガナ村や商業ギルドだけでない。
 この一週間で行ってきた善行の数々がなぜか、揃いも揃って何十倍の成果になり返ってくる。
 ただ1つだけ共通しているのが、彼らから俺に対する尊敬と信頼が膨れ上がっているという事実だった。

 その結果、実際に俺が手助けした相手だけでなく、通りすがりの領民たちさえ空気に飲み込まれてキラキラとした目を向けてくる。


「私たち平民のために力を尽くしてくださるなんて、なんて素敵な領主様なのでしょう」

「ああ! あの人のためなら、俺はどんな苦しい仕事だって頑張れるぜ!」

「さすがはレンフォード卿。領民たちの心を掴む術を熟知しているのですね」

「はい! それでこそ私の婚約――ごほんっ、クラウス様です。また一つ大切なことを学ばせていただきました」


 領民たちの声の中にはどこかで聞いたものも幾つか混じっていたような気がするが……
 もはやそれに意識を向ける余裕はなかった。

 俺はただ、心の中で恨み言を告げることしかできず――
 

 くそっ、くそっ、くそっ!
 ちょっと領民たちのためになることをするべく、不眠不休で一週間努力し続けただけなのに!
 なんで領民たちからの評判が爆上がりするんだ!?

 何で……



 何でこうなったぁぁぁぁぁあああああ!!!



 心の中でシクシクと涙を流しながら、俺はその場に崩れ落ちるのだった。


――――――――――――――――――――

はい。というわけで、またもやクラウスの評判が爆上がりしてしまったようです。(知ってた)
次回からは『冥府の大樹林編』本編に入ります。
ぜひお楽しみに!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...