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第二章 王都編

第34話 日の出をくれた貴方【ソフィア視点】

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 透き通るような純白の長髪が特徴的な少女ソフィア・フォン・ソルスティア。

 恋愛アクションRPG『アルテナ・ファンタジア』のメインヒロイン的な立ち位置にいる存在でもある彼女は、夜遅くにもかかわらず今日も一人で城の修練場にて剣を振っていた。


「せいっ! はあっ! ……ッ!」


 カランカランッ


 根を詰めすぎたせいだろうか、握力がなくなり剣を床に落としてしまう。
 ソフィアはタオルで汗を拭いながら、ゆっくりとその場にしゃがみこんだ。

「……本当に、こんなことを続けていてよいのでしょうか」

 そう呟くソフィアの表情には、不安の色が現れていた。


 ソフィアはソルスティア王国の第一王女として生まれ、様々な才能に恵まれた。
 さらにその才能だけに頼ることなく努力を積み重ねることで、これまで確かな成長を遂げてきた。

 だが、それでもソフィアの胸中では常に不安が渦巻いていた。

「剣と魔術の腕は日々磨かれています。ですがこれだけで、いずれ復活するであろう魔王を倒せるようになるとはとても……」

 ソフィアの脳裏を過るのは、周囲からかけられた期待の言葉の数々。


『ソフィア様なら必ずや魔王を倒せます!』
『ご自身の才能を信じてあげてください!』
『ご安心ください! 王女様が魔王を倒すのは、建国神話から決まっていることなのですから!』


 ――そんな言葉を、幼い頃から言われ続けてきた。

 その期待に応えられるように、ソフィアは今日も修練を続ける。
 本当は不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら――

 そこまでを考え、ソフィアはブンブンと首を左右に振った。

「いいえ、何を弱気になっているのですか! 私は第一王女ソフィア・フォン・ソルスティア! 魔王ごとき、簡単に倒してみせましょう!」

 改めて気丈な態度を取ってみせたソフィアは、剣を拾い上げ修練を続ける。
 修練が終わったのは、それから1時間後のことだった。


 ――そして修練場からの帰り道、ソフィアはに出会った。


「ちょっと、そこの貴方! いったいここで何をしているのです!」


 王家の者しか立ち入れない場所に一人の少年が立っているのを見て、ソフィアは力強くそう告げた。
 少年はソフィアを見て一瞬だけ目を見開いた後、堂々と名乗ってくる。

「俺はクラウス。レンフォード家当主、クラウス・レンフォードだ」

 その名前には聞き覚えがあった。
 いや、今王都にいる貴族で知らない者は一人もいないだろう。

 辺境の中小領地を治める年若い領主でありながら、魔王軍幹部の一人を単独で確保したという天才。
 父親である国王の口からも、度々その名が出るほどだ。
 それを聞くたび、ソフィアの内側では燃え滾るような感情が生まれていた。


(その成果は本来、私が成し遂げるべきだったもの! それをこの人が……!)


 それは大きな嫉妬と、わずかな羨望が含まれた想いだった。
 だからこそソフィアは負けじと、クラウスに対して強気で話しかけてやった。


 


「【空間凍結フリーズ】――【運搬包風キャリー・ウィンド】――よし、それじゃ行くぞ!」

「きゃ、きゃぁあああああ!」


 ソフィアの言葉によってクラウスを怒らせてしまったのか、彼女はあっという間に城から誘拐されてしまうのだった。


 ◇◇◇


 その後、クラウスによって連れてこられたのはソフィアも知らない隠しダンジョン。
 クラウスに煽られたソフィアは、売り言葉に買い言葉でそのダンジョンへ挑むこととなった。

 しかし、


「も、もう無理ですぅぅぅ! クラウスさん、なんとかしてくださいぃぃぃ!」


 魔物たちのあまりもの強さに、ソフィアは一切なす術がなかった。
 何度か助けを求めると、ようやくクラウスが魔術で魔物を追い払ってくれる。
 その練度と威力は、ソフィアがこれまで見てきた中でも飛びぬけたものだった。

(すごい……これが、本物の天才)

 その光景に圧倒され、ようやくソフィアは自分が凡人であったと悟る。

 そして同時にこうも思った。
 きっと私が強くならなくとも、この人なら復活した魔王を倒してくれるだろうと。

 なのに。
 それが正しいはずなのに。

 なぜかクラウスは、引き返そうとするソフィアを連れてダンジョンの奥に進もうと言ってきた。
 その後、クラウスのサポートもあってソフィアは何体もの魔物討伐に成功する。

 道中でソフィアは、クラウスに問いかけた。

「……どうして、ここまでしてくださるのですか(貴方ほどの実力者なら、私に構う必要なんてないでしょうに)」

 その問いに対し、クラウスは真剣な表情で答えた。

「俺には、(最凶のラスボスとして君臨するために)お前が必要だからだ」

「……は、はあ!?」

 突然の口説き文句に、困惑するソフィア。
 慌てて深呼吸を行い、なんとか心臓の鼓動を落ち着かせる。


(お、落ち着きなさいソフィア。今までの言動からこの人が少し、いいえかなりおかしいことは分かっているでしょう? きっと今のは別の意図で発した言葉なのです、そうに違いありません!)


 そう結論を出したのち、二人はさらに下に潜っていく。
 そしてとうとうソフィアが限界を迎えると同時に、地下10Fにたどり着いた。
 そこに待ち受けていたのは道中の魔物と比べても群を抜いた強さを誇るミノタウロス。

 クラウスはミノタウロスと単独で戦い、苦労することなく圧倒してみせた。
 その際に彼が使用した剣術と魔術に自分が見惚れていることを、ソフィアは遅れて理解する。


(……本当に。どうしてクラウスさんは、これだけの実力があって私を気にかけるのでしょうか。出会ったのだって、今日が初めてのはずなのに――)



 と、その時だった。

「ソフィア、手を出せ」

 深い思考の海に沈んでいたソフィアに、クラウスが声をかけてくる。
 彼の手には、フロアボス攻略の報酬らしきアイテムが握られていた。

「手、ですか?」

「ああ。ほら、受け取れ――」

 ソフィアは言われた通りにしようとするが、残念ながら疲労のあまり腕を上げることができなかった。
 それを見てクラウスは、ゆっくりとソフィアの手を持ち上げる。

(お、同じ年ごろの男性と触れ――)

 突然の接触に混乱するソフィアだったが、それ以上に衝撃的なことがあった。
 この距離まで近づき、ようやくクラウスが持つアイテムが何かわかったからだ。

 それは指輪だった。
 ただし、ただの指輪ではない。
 ソルスティア王家の紋章が施された、伝説級の指輪。

(あれはまさか!)

 その指輪をソフィアは知っていた。
 幼い頃、母から建国神話を読み聞かせてもらっている時に教えてもらったのだ。

 かつて、この地には魔王が出現した。
 その魔王を打ち破ったのは、当時の勇者と小国の王女だった。
 討伐後、勇者は王女に誓いを立てて一つの贈り物をした。

 その贈り物こそ、この【王家一族の指輪ロイヤル・リング】。
 二人はそのまま結婚し、ソルスティア王国を建国した。

 つまりこの指輪には

 数百年前の騒乱の際に紛失したと聞いていたが、それがまさかこんなところで手に入るとは……

(……って、今はそんなことよりも! なんとかクラウスさんに事情を説明して、王家にお返しいただかなければ――)

 一瞬のうちに思考を巡らせるソフィア。
 しかし直後、彼女の頭は真っ白になった。

 なぜならソフィアがお願いするまでも無く、クラウスはその指輪を嵌《は》めてきたから。

 ――そう、ソフィアの左手の薬指・・・・・に。


「これがあれば、お前はもっと強くなれるはずだ」

「っ!?!?っっっへぁっっ!?!?!?!?!?!?!?!?」


 あまりの衝撃に脳がパンクし、もはやクラウスの言葉は耳に入っていなかった。
 全細胞が、この出来事の理解に力を尽くす。

(ゆ、指輪を薬指に……!? こ、これはいったいどういう!? ああいけません、頭に熱が上って思考がまとまりません……!)

 もはや自分では答えにたどり着けないと理解したソフィアは、最後になんとか言葉を絞り出した。


「く、クラウスさん……いいえ、クラウス様。これはそういう意味と受け取っても……?(王家一族の指輪ロイヤル・リングを渡すということは、プロポーズなのですよね!?)」

「? ああ、もちろん」


 その返答を聞き、さらに困惑するソフィア。


「……お、お時間を! お時間を頂戴したく!(そんな! とてもこの場でお答えできる内容ではありません!)」

「ああ、分かっている」

「………………」


 そう言って、クラウスは真剣な表情で見つめてくる。
 その表情から彼が本気であることをソフィアは理解するのだった。


 その後ソフィアは呆然としたまま、クラウスに連れられてダンジョンの外に出た。
 外の光景を見たクラウスはポツリと呟く。

「ああ、もう日が昇る時間か」

 ダンジョンに何時間も滞在していたからだろう。
 ちょうど日が昇り始めていた。

 その鮮やかな光景にソフィアは目を奪われた。
 そしてようやく冷静さを取り戻す。

「思えば……こうして外で日の出を見るのは初めてです」

「そうか」

 ソフィアは王女として、普段は城の中で模範的な生活を送ってきた。
 夜に無断で誰かと外を散策するのも、こうして日の出を迎えることも初めての体験だった。

 今日の一日だけで、ソフィアは様々なことを知ることができた。
 正直、冷静に数えたら不満の方が多かった気もするが……この経験をくれたクラウスには感謝を伝えたいと思った。


「クラウス様。今日は私に様々なことを教えてくださり、あり――」


 ――だけど。

 朝日を浴びるクラウスの横顔を見た瞬間、ソフィアは思わず言葉を失った。
 同時に、心臓が早鐘を打つ。

「ソフィア? 何か言ったか?」

「い、いいえ! 何でもありません!」

 必死に誤魔化し、ソフィアは自分の胸元に手を当てる。
 その時にはもう、彼女はに気付いていた。

 ソフィアは右手で指輪に触れながら、最後に心の中だけで小さく告げる。


(本当に、ありがとうございます――クラウス様)


 ――――――――――

 初めてのトキメキを知ったソフィア。
 恋焦がれる視線。

 その先でクラウスは(また近いうちに一人で隠しダンジョンを攻略しに来よう!)と考えていたみたいです。
 ……がんばれ、ソフィア!

【大切なお知らせ】

 先日より、小説家になろうの方でも本作の投稿を開始いたしました。
 そこで皆様に一つお願いがございまして、もしよろしければ、小説家になろうの方でも本作を応援していただけないでしょうか?

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