上 下
30 / 44

第30話 要請

しおりを挟む
「お~い、ティオ~?」

「………………はっ!」

 スライム討伐後、なぜか呆然とした表情を浮かべるティオに対して何度か呼びかけると、彼女はようやく意識を取り戻した。
 そして、ぷるぷると震える手で俺を指さしてくる。

「あ、あんた、今の……何をどうやったの!?」

「どうって……普通に剣を振って、スライムの核を切り刻んだだけだけど」

 その場でゆっくりとモーションを再現しながら説明する。
 しかし、ティオは納得できない様子だった。

「け、剣を振って……? たったそれだけで、あの(Sランク)魔物を倒したっていうの?」

「ああ。ティオも知っての通り俺には魔力がないから、その分だけ剣の修行は頑張ってきたんだ。おかげであの程度の(低級)モンスターなら問題なく倒せるようになったんだよ」

「……………」

 俺の返答を聞き、ティオは再び呆然とした表情を浮かべる。
 彼女の中でのブームだったりするのだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えた、その直後。

「……っ! そ、そうよ! あんた、魔力を持ってなかったわよね!?」

「ん? ああ」

 一緒に特訓をしたんだからティオもよく知っているだろうに、わざわざそれを確認する必要があるのだろうか?
 そう疑問に思ったが、どうやら彼女にとっては重要なようで、ティオは下を向いて何かを考え込み始めた。

「高位個体のケイオススライムを一瞬で倒せる実力にもかかわらず、魔力を持っていない剣士……この特徴、間違いないわ。けれどどうして、あの時あたしの『真偽看破』に引っかからなかったのかしら?」

 ティオは何かをブツブツと呟いた後、首を左右に振る。

「いいえ、その辺りについては後よ。今はそんなことより――」

『クゥゥゥ~ン!』

「――っ、また敵襲!?」

 バッと、ティオが緊張の面持ちで鳴き声の方向に体を向ける。
 俺はそんな彼女の前に手をかざした。

「いや、こいつは大丈夫だ」

「……え?」

『クゥゥゥ~ン』

 木々の間から抜け出してきたのは、艶のある白毛が特徴的なイヌだった。
 俺を追ってここまで来てくれたのだろう。

「よく追って来たな」

『バウッ!』

 頭を撫でながらここまで来てくれたことを褒めると、イヌは嬉しそうな鳴き声で応えてくれた。

「ユ、ユーリ? それって……」

 そんな俺たちのやり取りを見て羨ましくなったのだろうか、ティオが震えた声でそう尋ねてくる。
 俺はそんな彼女に対し、力強く答えた。

「ああ、紹介がまだだったな。コイツは俺の友達のイヌだ」

「イ、イヌ!? 今あんた、そいつを犬って言った!?」

「そうだけど、何かおかしかったか?」

「当たり前でしょ!? どう考えてもそいつは犬なんかじゃないわ!」

「……イッヌ?」

「言い方の問題じゃないわよ! ソイツは明らかに、伝説の魔獣フェン――っ!」

 傷だらけの体で騒ぎすぎたのがいけなかったのか。
 ティオは口をつぐみ、痛みに堪えるような表情で自分のお腹を押さえる。

 どうやら、想像以上にダメージは深刻みたいだ。

「おいおい、大丈夫か? やっぱり今すぐ町に戻って専門のヒーラーに頼んだ方がいいんじゃないか?」

「っ、お気遣いはありがたいけれど、そんな余裕は――」

 ティオが言い切ろうとする、その刹那。
 は起きた。


 ドゴォォォォォオオオオオオオオオンンン!


「――――」

「くっ!」

『バウッ!』

 一般人では立っていられないほど激しい地面の揺れに、耳をつんざくような馬鹿げた轟音が周囲に響き渡った。

 揺れと音だけも尋常じゃないことが起きていると分かるが、問題はその発信源。
 その2つは先ほどまで黒い靄の巨人がいた場所――つまり、今はティオ以外の【晴天の四象】がいるであろう場所から生じていた。

 俺は揺れ動く地面の上で直立不動の姿勢を取ったまま、疑問を口にする。

「おいティオ、いったい何が起きてるんだ? あの黒い靄の巨人はお前たちが倒したんじゃなかったのか?」

 その質問に対し、ティオは両手両膝を地面に置き、プルプルと震えたまま答える。

「さっきは言いそびれたけど、戦いはまだ終わってないの。だから、一刻も早くあたしが戻らなくちゃいけなくて……」

「……ふむ」

 事情は分かった。
 だが、今のティオは低級モンスターにすら勝てないくらいに弱ってる。
 その状態で戦線に復帰するのはさすがに無茶なんじゃないだろうか?

 そう伝えると、ティオは困ったように笑った。

「痛いところを突くわね。たしかにあなたの言う通り、今のあたしが戻ったところでには勝てないわ」

 普段は強気な彼女からは想像もできないほど、弱弱しい姿。
 俺はそんなティオに対し、ひとまず撤退を提案しようとしたのだが――

「――そう。だからもう、手段を選んではいられないの」

「…ティオ?」

 しかし、ティオがその姿を見せたのはほんの一瞬だけ。
 ここに来て、彼女の瞳に熱が灯った。

 そして、ティオはその目でまっすぐ俺を見つめる。

「正直に言うと、まだ何が何だか理解できていないけど……この状況で頼れるのはもうあんたしかいないわ」

「ん? それはどういう……」

「お願い、ユーリ」

 そのまま彼女は驚くべきようなことを告げた。


「あなたの力を貸してほしい……どうか、あたしの仲間を助けて」

「…………うん?」


 それ、足手まといが増えるだけじゃないかな……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ベテラン整備士、罪を着せられギルドから追放される。ダンジョン最下層まで落とされたけど、整備士の知識で地上を目指します~

時雨
ファンタジー
ダンジョンの修理などをする『ダンジョン整備士』のアルフは、研究者気質でコミュ障なのが災いしたのか、ある日無実の罪を着せられ、40年近く働いたギルドを追放されてしまう。 せめて最後に自分が整備した痕跡だけ見ようとダンジョンを回っていると、信頼していた友人に巨大な穴へと落とされてしまった。穴はダンジョンの最下層まで続いていて、しかも馬鹿強いモンスターがうじゃうじゃ。 絶対絶命のピンチに、アルフはたまたま倒したモンスターのドロップアイテムを食べ、若返る。 若返り体力も戻ったアルフは、長年培った整備士の知識を駆使し、無自覚無双しながら生き延びていく。 一方ギルドでは、ベテラン整備士を失ったガタがきていて──?

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

処理中です...