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第30話 要請
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「お~い、ティオ~?」
「………………はっ!」
スライム討伐後、なぜか呆然とした表情を浮かべるティオに対して何度か呼びかけると、彼女はようやく意識を取り戻した。
そして、ぷるぷると震える手で俺を指さしてくる。
「あ、あんた、今の……何をどうやったの!?」
「どうって……普通に剣を振って、スライムの核を切り刻んだだけだけど」
その場でゆっくりとモーションを再現しながら説明する。
しかし、ティオは納得できない様子だった。
「け、剣を振って……? たったそれだけで、あの(Sランク)魔物を倒したっていうの?」
「ああ。ティオも知っての通り俺には魔力がないから、その分だけ剣の修行は頑張ってきたんだ。おかげであの程度の(低級)モンスターなら問題なく倒せるようになったんだよ」
「……………」
俺の返答を聞き、ティオは再び呆然とした表情を浮かべる。
彼女の中でのブームだったりするのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えた、その直後。
「……っ! そ、そうよ! あんた、魔力を持ってなかったわよね!?」
「ん? ああ」
一緒に特訓をしたんだからティオもよく知っているだろうに、わざわざそれを確認する必要があるのだろうか?
そう疑問に思ったが、どうやら彼女にとっては重要なようで、ティオは下を向いて何かを考え込み始めた。
「高位個体のケイオススライムを一瞬で倒せる実力にもかかわらず、魔力を持っていない剣士……この特徴、間違いないわ。けれどどうして、あの時あたしの『真偽看破』に引っかからなかったのかしら?」
ティオは何かをブツブツと呟いた後、首を左右に振る。
「いいえ、その辺りについては後よ。今はそんなことより――」
『クゥゥゥ~ン!』
「――っ、また敵襲!?」
バッと、ティオが緊張の面持ちで鳴き声の方向に体を向ける。
俺はそんな彼女の前に手をかざした。
「いや、こいつは大丈夫だ」
「……え?」
『クゥゥゥ~ン』
木々の間から抜け出してきたのは、艶のある白毛が特徴的なイヌだった。
俺を追ってここまで来てくれたのだろう。
「よく追って来たな」
『バウッ!』
頭を撫でながらここまで来てくれたことを褒めると、イヌは嬉しそうな鳴き声で応えてくれた。
「ユ、ユーリ? それって……」
そんな俺たちのやり取りを見て羨ましくなったのだろうか、ティオが震えた声でそう尋ねてくる。
俺はそんな彼女に対し、力強く答えた。
「ああ、紹介がまだだったな。コイツは俺の友達のイヌだ」
「イ、イヌ!? 今あんた、そいつを犬って言った!?」
「そうだけど、何かおかしかったか?」
「当たり前でしょ!? どう考えてもそいつは犬なんかじゃないわ!」
「……イッヌ?」
「言い方の問題じゃないわよ! ソイツは明らかに、伝説の魔獣フェン――っ!」
傷だらけの体で騒ぎすぎたのがいけなかったのか。
ティオは口をつぐみ、痛みに堪えるような表情で自分のお腹を押さえる。
どうやら、想像以上にダメージは深刻みたいだ。
「おいおい、大丈夫か? やっぱり今すぐ町に戻って専門のヒーラーに頼んだ方がいいんじゃないか?」
「っ、お気遣いはありがたいけれど、そんな余裕は――」
ティオが言い切ろうとする、その刹那。
それは起きた。
ドゴォォォォォオオオオオオオオオンンン!
「――――」
「くっ!」
『バウッ!』
一般人では立っていられないほど激しい地面の揺れに、耳をつんざくような馬鹿げた轟音が周囲に響き渡った。
揺れと音だけも尋常じゃないことが起きていると分かるが、問題はその発信源。
その2つは先ほどまで黒い靄の巨人がいた場所――つまり、今はティオ以外の【晴天の四象】がいるであろう場所から生じていた。
俺は揺れ動く地面の上で直立不動の姿勢を取ったまま、疑問を口にする。
「おいティオ、いったい何が起きてるんだ? あの黒い靄の巨人はお前たちが倒したんじゃなかったのか?」
その質問に対し、ティオは両手両膝を地面に置き、プルプルと震えたまま答える。
「さっきは言いそびれたけど、戦いはまだ終わってないの。だから、一刻も早くあたしが戻らなくちゃいけなくて……」
「……ふむ」
事情は分かった。
だが、今のティオは低級モンスターにすら勝てないくらいに弱ってる。
その状態で戦線に復帰するのはさすがに無茶なんじゃないだろうか?
そう伝えると、ティオは困ったように笑った。
「痛いところを突くわね。たしかにあなたの言う通り、今のあたしが戻ったところであの敵には勝てないわ」
普段は強気な彼女からは想像もできないほど、弱弱しい姿。
俺はそんなティオに対し、ひとまず撤退を提案しようとしたのだが――
「――そう。だからもう、手段を選んではいられないの」
「…ティオ?」
しかし、ティオがその姿を見せたのはほんの一瞬だけ。
ここに来て、彼女の瞳に熱が灯った。
そして、ティオはその目でまっすぐ俺を見つめる。
「正直に言うと、まだ何が何だか理解できていないけど……この状況で頼れるのはもうあんたしかいないわ」
「ん? それはどういう……」
「お願い、ユーリ」
そのまま彼女は驚くべきようなことを告げた。
「あなたの力を貸してほしい……どうか、あたしの仲間を助けて」
「…………うん?」
それ、足手まといが増えるだけじゃないかな……?
「………………はっ!」
スライム討伐後、なぜか呆然とした表情を浮かべるティオに対して何度か呼びかけると、彼女はようやく意識を取り戻した。
そして、ぷるぷると震える手で俺を指さしてくる。
「あ、あんた、今の……何をどうやったの!?」
「どうって……普通に剣を振って、スライムの核を切り刻んだだけだけど」
その場でゆっくりとモーションを再現しながら説明する。
しかし、ティオは納得できない様子だった。
「け、剣を振って……? たったそれだけで、あの(Sランク)魔物を倒したっていうの?」
「ああ。ティオも知っての通り俺には魔力がないから、その分だけ剣の修行は頑張ってきたんだ。おかげであの程度の(低級)モンスターなら問題なく倒せるようになったんだよ」
「……………」
俺の返答を聞き、ティオは再び呆然とした表情を浮かべる。
彼女の中でのブームだったりするのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えた、その直後。
「……っ! そ、そうよ! あんた、魔力を持ってなかったわよね!?」
「ん? ああ」
一緒に特訓をしたんだからティオもよく知っているだろうに、わざわざそれを確認する必要があるのだろうか?
そう疑問に思ったが、どうやら彼女にとっては重要なようで、ティオは下を向いて何かを考え込み始めた。
「高位個体のケイオススライムを一瞬で倒せる実力にもかかわらず、魔力を持っていない剣士……この特徴、間違いないわ。けれどどうして、あの時あたしの『真偽看破』に引っかからなかったのかしら?」
ティオは何かをブツブツと呟いた後、首を左右に振る。
「いいえ、その辺りについては後よ。今はそんなことより――」
『クゥゥゥ~ン!』
「――っ、また敵襲!?」
バッと、ティオが緊張の面持ちで鳴き声の方向に体を向ける。
俺はそんな彼女の前に手をかざした。
「いや、こいつは大丈夫だ」
「……え?」
『クゥゥゥ~ン』
木々の間から抜け出してきたのは、艶のある白毛が特徴的なイヌだった。
俺を追ってここまで来てくれたのだろう。
「よく追って来たな」
『バウッ!』
頭を撫でながらここまで来てくれたことを褒めると、イヌは嬉しそうな鳴き声で応えてくれた。
「ユ、ユーリ? それって……」
そんな俺たちのやり取りを見て羨ましくなったのだろうか、ティオが震えた声でそう尋ねてくる。
俺はそんな彼女に対し、力強く答えた。
「ああ、紹介がまだだったな。コイツは俺の友達のイヌだ」
「イ、イヌ!? 今あんた、そいつを犬って言った!?」
「そうだけど、何かおかしかったか?」
「当たり前でしょ!? どう考えてもそいつは犬なんかじゃないわ!」
「……イッヌ?」
「言い方の問題じゃないわよ! ソイツは明らかに、伝説の魔獣フェン――っ!」
傷だらけの体で騒ぎすぎたのがいけなかったのか。
ティオは口をつぐみ、痛みに堪えるような表情で自分のお腹を押さえる。
どうやら、想像以上にダメージは深刻みたいだ。
「おいおい、大丈夫か? やっぱり今すぐ町に戻って専門のヒーラーに頼んだ方がいいんじゃないか?」
「っ、お気遣いはありがたいけれど、そんな余裕は――」
ティオが言い切ろうとする、その刹那。
それは起きた。
ドゴォォォォォオオオオオオオオオンンン!
「――――」
「くっ!」
『バウッ!』
一般人では立っていられないほど激しい地面の揺れに、耳をつんざくような馬鹿げた轟音が周囲に響き渡った。
揺れと音だけも尋常じゃないことが起きていると分かるが、問題はその発信源。
その2つは先ほどまで黒い靄の巨人がいた場所――つまり、今はティオ以外の【晴天の四象】がいるであろう場所から生じていた。
俺は揺れ動く地面の上で直立不動の姿勢を取ったまま、疑問を口にする。
「おいティオ、いったい何が起きてるんだ? あの黒い靄の巨人はお前たちが倒したんじゃなかったのか?」
その質問に対し、ティオは両手両膝を地面に置き、プルプルと震えたまま答える。
「さっきは言いそびれたけど、戦いはまだ終わってないの。だから、一刻も早くあたしが戻らなくちゃいけなくて……」
「……ふむ」
事情は分かった。
だが、今のティオは低級モンスターにすら勝てないくらいに弱ってる。
その状態で戦線に復帰するのはさすがに無茶なんじゃないだろうか?
そう伝えると、ティオは困ったように笑った。
「痛いところを突くわね。たしかにあなたの言う通り、今のあたしが戻ったところであの敵には勝てないわ」
普段は強気な彼女からは想像もできないほど、弱弱しい姿。
俺はそんなティオに対し、ひとまず撤退を提案しようとしたのだが――
「――そう。だからもう、手段を選んではいられないの」
「…ティオ?」
しかし、ティオがその姿を見せたのはほんの一瞬だけ。
ここに来て、彼女の瞳に熱が灯った。
そして、ティオはその目でまっすぐ俺を見つめる。
「正直に言うと、まだ何が何だか理解できていないけど……この状況で頼れるのはもうあんたしかいないわ」
「ん? それはどういう……」
「お願い、ユーリ」
そのまま彼女は驚くべきようなことを告げた。
「あなたの力を貸してほしい……どうか、あたしの仲間を助けて」
「…………うん?」
それ、足手まといが増えるだけじゃないかな……?
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