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085 黒の死齎

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 シンの一撃によって、絶対の防御力を誇る一人の冒険者が首を失った。
 その光景に、場の緊張感が一気に高まる。
 誰もが信じられない思いでシンを見つめていた。

 だが、その中で一人だけ冷静さを取り戻した男がいる。
 もう一人のトップ冒険者だ。
 彼は大声で叫び、仲間たちに指示を出した。

「お前ら、今すぐ魔法で相手の視界を遮れ!」

 その命令を受け、取り巻きたちが次々と魔法を放つ。
 無数の魔法がシンめがけて放たれ、彼の視界を煙で覆い尽くした。
 魔法の煙幕に包まれたシンを見て、冒険者は考える。

(アイツの【自動障壁】を突破したことを見るに、奴は恐らく攻撃力特化のスキル持ちなはず! 反面、それ以外のステータスは大したことないはずだ!)

 そう確信した冒険者は、得意げに笑みを浮かべる。

(不意打ちが命中すれば、殺すのも難しくないはず! オレのエクストラスキル【神速】の効果を喰らいやがれ!)

 次の瞬間、冒険者の姿が煙の中で霞んだ。
 彼の放つ一振りの短剣が、音速を超える速度でシンの首筋を狙う。

 ――だが。
 その一撃はシンの皮一枚を裂くこともできず、あっけなく弾かれてしまった。

「なっ!」

 信じられない思いで、冒険者は息を呑んだ。

(攻撃力だけじゃなく、防御力まで常軌を逸しているだと!? クソッ、こんなもん割に合わねぇ! オレだけでもここから逃げてやる――)

 そう決意した冒険者は、再び神速を使って逃走を図る。
 しかし、次の瞬間には彼の体が地面に倒れ伏していた。

「がはっ! く、くそっ、いったい何が……」

 後ろを振り返った彼は、自分の両足が切断されていることに気づく。
 それがシンの反撃によるものだということは、考えるまでもなかった。

「うそ、だろ? 速度すら、このオレを超えて……」

 冒険者は戦慄しながら、シンの姿を見上げる。
 ゆっくりと、冷酷な表情で近づいてくるシンに、彼は必死に命乞いをする。

「ま、待ってくれ! まずは話を――」

 だがその言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
 シンの放った一振りから、数十もの斬撃が放たれ、冒険者の体を一瞬にして細切れにしたのだ。

 容赦のない攻撃を見届けたシンは、ゆっくりと視線を移す。
 残る取り巻きたちを、ジロリと見据えた。
 その眼光に怯えた取り巻きの一人が、フールに助けを求める。

「ふ、フールさん! このままだとまず――」

 だが、彼の言葉は最後まで紡がれない。
 シンの手から放たれた斬撃が、容赦なく取り巻きたちの命を奪っていく。
 断末魔の叫びが雨音に掻き消されていった。

 やがて、広場に残されたのはフールただ一人となった。
 シンは冷たい眼差しで、フールを見据える。

「あとはお前だけだ」

 そう宣言すると、シンは【骸の剣ネクロ・ディザイア】を構えた。
 だがその時、フールが叫び声を上げる。

「舐めんじゃねぇ!」

 彼の手には、手のひらほどの大きさの六角形の記章《バッジ》が握られていた。

 シンの斬撃がフールに命中したかに見えたが、フールは傷一つ負うことなく――代わりにダメージを受けたのは記章《バッジ》の方だけだった。
 記章《バッジ》は莫大な魔力を放出すると、大爆発を引き起こして消滅する。

 シンとフールの間に大きな距離が生まれた。

(あれは……攻撃を肩代わりしたのか?)

 シンは警戒しながら起きた現象を分析する。
 見たところ、確かにダメージは記章《バッジ》に吸収されたようだ。
 だが、受けたダメージを完全に無効化するというその性能は、通常のマジックアイテムの域をはるかに超えていた。

 ああいった類のアイテムについて、シンにも心当たりがあった。
 それはシンがアルトに復讐を果たした時のこと。あの時、アルトは突如として身に余る力を得ていた。
 今フールが見せた力は、あの時のアルトを彷彿とさせる。

 シンの警戒心を察したのか、フールが意地の悪い笑みを浮かべた。


「気になるか? これは【霊宝具《ソウル・アーティファクト》】――通常のマジックアイテムを大きく凌駕する性能を誇る逸品だ。今みたいにダメージを肩代わりすることだけじゃなく、種類によっちゃ死から復活することもできる。テメェみたいなゴミクズにゃ、これまで縁のなかった代物だろうがな」


 フールの言葉から、シンは彼が蘇った理由を悟る。
 だがシンは、怯む様子を見せない。

「得意げに語って満足したか? お前がそれをどれだけ有していようと、ことごとく蹂躙すれば済むだけの話だ」

 シンの宣言に、フールは高笑いを上げる。

「ハ、ハハッ! 何を言いだすかと思えば! 残念だったな、お前はもう詰んでるんだよ! この場所に来た時点で――いや、俺様に初めて逆らった時点でな!」

 そう言って、フールは黒い靄の塊を取り出した。
 その靄から放たれる気配は、これまでのものとは比べ物にならないほど禍々しい。

 その光景にシンは無意識のうちに真実を悟っていた。
 ユニークスキル【共鳴】を持ち、高い回避能力を誇るイネスが殺された理由。
 その真相は、間違いなくあの黒い靄にある。

 ぎょろりと。
 靄の中から現れた白い眼球がシンを捉える。


「今さら後悔しようがもう遅い。これは霊宝具――【黒の死齎デス・インフィニティ】。敵対者に絶対の死を齎す、史上最悪の兵器だ!」

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