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079 スタンピード終結

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 エルダーリッチを討伐したことで、スタンピードは終結した。
 被害は冒険者から数人の死者が出たくらいで、民間人の被害は0。
 スタンピードの規模から考えれば、望外の結果と言っても過言ではないらしい。

 スタンピード終結後、エルダーリッチを倒した俺と、ルイン・ドレイクを倒したイネスにはかなりの注目が集まることとなった。
 特にイネスに関しては、彼女の正体がハーフエルフだと知って驚いた者も多かったようだ。

 ――とはいえ、それ以上に冒険者たちが衝撃を受けたのは、俺の戦いぶりだったらしい。

 レベル5000のエルダーリッチをほぼ一撃で倒すなど、常識的に考えて到底ありえない光景だ。
 それを成し遂げた俺に向けられる、畏怖の視線。
 彼らにとっては俺は、ある意味でエルダーリッチ以上の脅威に思われていたのだろう。

 そんな一大事のあと、特に冒険者たちから話しかけられるわけでもなく、その日は解散となった。
 報酬などの詳しい話は、また後日話し合うとのことだ。



 そんな経緯のもと、俺とイネスは今、宿屋に戻ってきていた。

「シモンさん、イネスさん!」

 自室でしばらく体を休ませた後。
 食堂に降りると、そこには笑顔の看板娘ミアがいた。
 俺たちを迎え入れながら、彼女は興奮気味に話し始める。

「イネスさん、本当にすごかったです! レベル2000のボスを一人で倒すなんて、とんでもない偉業ですよ!」

 宿に戻ってくるまでにも何度か同じことを言っていた気がするが、それほど彼女にとっては衝撃的な出来事だったらしい。

「そ、そんなことないよ。シモンのおかげで強くなれたからこそで……」

 そう言いながら、イネスは照れ隠しに頬をかく。
 その反応を見て、ミアはにっこりと微笑むと、今度は俺に視線を向けた。

「それにそれに、シモンさんも大活躍したって聞きましたよ! 化け物みたいな魔物を倒したって本当ですか?」

 エルダーリッチのことか。
 こっちの話題はこれが初。
 どうやら宿で休んでいる間に、他の冒険者にでも話を聞いたらしい。


「……まあ、そうだな」
「っ、やっぱり! イネスさんだけじゃなく、シモンさんもとてもすごい人だったんですね!」
「大げさだな」
「大げさなんかじゃありません! 本当に感謝してるんですから! だって、シモンさんたちがいなかったら……この町は間違いなく壊滅していました」


 ミアは一歩前に出ると、おもむろに頭を下げる。

「この町を救ってくれて、本当にありがとうございます!」
「……ああ」

 頷く俺を見て、ミアはニコリと楽し気な笑みを零した。

「あ、そうでした! すぐにご飯を持ってきますね! 今日は特別メニューを用意しているんです!」

 ミアはそう告げると、すぐに厨房へと駆けていった。
 数分後、現れた店主が大量の料理を運んでくる。

「ほらよ、今日の英雄さんたち!」

 テーブルの上に並べられた料理の数々。
 確かにどれも、かなり力が入っていることが分かる豪勢ぶりだ。

「さ、遠慮せずにたくさん食べてください!」

 そのミアの一言を機に、俺とイネスは食事を始めたのだった。



「ふぅ……美味しかったね、シモン」

 ご飯を食べ終え、ついに二人きりになった俺たちのテーブル。
 満足そうにそう告げるイネスだったが、その直後、彼女はどこか複雑そうな表情を浮かべた。

「……どうした?」
「ううん、何でもないよ」

 そう言ってイネスは微笑むが、どこか作り笑いのように見える。
 その理由について、俺は瞬時に察した。

(……そろそろ、話をつけないとな)

 覚悟を決めて、俺は切り出した。

「イネス。お前ももう、十分強くなったと思う」
「えっ……?」

 その言葉に、イネスが驚いたように目を見開く。
 だが、俺は構わずに続ける。

「ルイン・ドレイクを倒したお前なら、もう俺の助けはいらない。一人で生きていけるだろう」
「……それって、もしかして」
「ああ、お前の考えている通りだ」

 言葉の意味を理解したイネスは、一瞬だけ悲しげな表情を見せた。
 だがすぐに笑顔を作り、こう返す。

「……そっか。やっぱり、そういうことだよね」

 そう言って、イネスは少し寂しそうに微笑む。
 まるで全てを悟ったかのような……そんな笑顔だった。

 俺は無意識に、そんな彼女から視線を逸らすのだった。



 その晩。
 俺は部屋で一人、ベッドに横たわっていた。

 そんな時、不意に部屋のドアがノックされる音が響いた。
 こんな時間に誰だろうか。
 少し面倒に感じつつも、俺はベッドから起き上がってドアを開ける。

「……イネスか。こんな夜更けに、何の用だ?」

 そこに立っていたのは、寝間着姿のイネスだった。
 そのイネスが、もじもじとしながら口を開く。

「ねえ、シモン。最後に今日だけ、一緒に寝てもいいかな……?」

 それは、いつもと違う彼女の姿だった。
 どこか寂しそうで。
 そして、どこか切なそうで。

「……ああ」

 俺は一言だけそう返し、イネスを部屋に招き入れるのだった。
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