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066 無理難題
しおりを挟むしかしイネスは、恐れることなくその場に立ち続けた。
「……来る!」
その数秒後、ハイオークの振るった棍棒が、イネスに向かって振り下ろされる。
だが、その攻撃がイネスに届くことはなかった。
事前に狙いどころを見抜いていたのか、イネスはわずかな動きで棍棒を躱すと、そのままの勢いでハイオークの懐に飛び込む。
そして、手にした短剣で一気に斬りつけた。
「ハアッ!」
「グルァァァアアアアア!?」
素早い動きから繰り出される、怒涛の連撃。
イネスはハイオークの回避行動すら読み切っているようで、次々と急所に攻撃を浴びせていく。
その結果、なんと鉄の巨人が迫ってくるまでのほんの数秒で討伐に成功した。
(……やはり、かなり戦い慣れしてるみたいだな)
そう考えつつ、次は鉄の巨人との戦闘を見守る。
先程のハイオークとは違い、鉄の巨人は全身が硬い金属で覆われている。
鋭い短剣でも、簡単に斬れるような相手ではないだろう。
「くっ、やっぱり硬い……!」
案の定、イネスの短剣は鉄の巨人の装甲を切り裂くことができずにいた。
一方の鉄の巨人は、鈍重な動きながらもイネスに攻撃を繰り出してくる。
この状況をどう打開するのか。
少し手間取るかと思われたその時、イネスはバックステップしながら弓へと手を伸ばした。
「なら、遠距離から攻撃するしかないよね!」
そう叫ぶなり、イネスは次々と矢を放っていく。
鉄の巨人の装甲に阻まれ、なかなかダメージを与えられない。
だが、イネスはめげることなく、執拗に攻撃を続けた。
5分ほどが経った頃だろうか。
ようやく大量の矢で、鉄の巨人もその機能を停止させたのだった。
こうして、イネスは2体の魔物を見事に討伐した。
「……ふぅ」
イネスは息を整えた後、こちらに駆け寄ってくる。
「シモン、どうだった?」
そう尋ねるイネスの表情は、どこか不安げだった。
まるで俺から見放されるのを恐れてるかのようだ。
これまでの不遇な反省が、彼女にそんな反応をさせるのだろうか。
しかし実際のところ、ユニークスキル【共鳴】を使いこなし、状況に合わせて武器を使い分ける。
そのバランスの取れた戦闘スタイルは、俺の想像以上の物だった。
「……悪くなかった。共鳴も、想像以上に使えるみたいだしな」
「っ! そっか。ありがと、シモン!」
イネスは満面の笑みでそう返してきた。
ただ感想を言っただけで、こんな礼をする必要はあるのだろうか。
そう疑問に思いつつ、俺は唯一気になった点を尋ねる。
「……ただ、お前も言っていたように、火力については少し難があるな」
先の戦闘。
鉄の巨人のレベルは、イネスやハイオークよりも一段下。
にもかかわらず、討伐にはかなりの時間を要していた。
そこを指摘すると、イネスは気恥ずかしそうに頬をかいた。
「う、うん。やっぱりそうだよね。回避や時間稼ぎなら得意なんだけど、硬い相手にダメージを通すことはなかなかできなくって……だからこれまでもレベルを上げる時は、スピードがある代わりに耐久力の低い魔物ばかり狙ってたんだ」
「……なるほどな」
これで実力と戦闘スタイルは理解できた。
それに伴って、イネスをどうやって鍛えるか俺の中で結論が出る。
「それじゃ、ここからが本番だ。ちょうどいい相手がいるからついてこい」
「うん、もちろん!」
イネスは満面の浮かべると、俺を信頼しきった様子で後をついてくるのだった。
◇◆◇
――――その、わずか3時間後。
Sランクダンジョン【神の土塊】。
その最深部にて。
『グルォォォオオオオオ!!!』
イネスの目の前には、強靭な耐久力を誇るレベル2500のボス――『無貌《むぼう》の巨人《きょじん》』が立ちはだかっていた。
「……ふえっ?」
理解できないとばかりに目を丸くするイネスに向かって、俺ははっきりと告げた。
「じゃあ、倒せ」
「……………………え」
数秒の静寂の後。
無貌《むぼう》の巨人《きょじん》の雄叫びをかき消すほどの声量で、イネスが悲鳴を上げるのだった。
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