56 / 87
056 介入
しおりを挟む
エルフ族と思われる銀髪の少女と、彼女を取り囲む5人の男冒険者。
何やらきな臭い雰囲気を醸し出していた。
「……面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだな」
気配を消して、バレないようにさっさと通り過ぎようかと考えていた矢先、追手側の男たちが声を上げた。
「はっ、残念だったな! ダンジョンに潜れば逃げ切れると思ったか!?」
「それくらいで逃がすほど俺たちは甘くねえよ! ってか、どうやら魔物との連戦で疲労も溜まってるみたいだな」
「へへっ、そいつは好都合。さっさと捕えちまおうぜ!」
……なるほど。
男たちの発言で、おおよその状況は理解できた。
ありきたりだが、少女の身柄を捕えて売り払おうとでもしているのだろう。
エルフ族はこの国でも珍しい存在。欲しがる金持ちがいても全くおかしくない。
「結局、こうなっちゃうんだ……」
少女は険しい表情を浮かべながら、悔しそうにそう呟く。
その様子から抵抗の意思は見えない。
魔物との連戦と、追手から逃げ続けたことで疲労が限界を迎えているのだろう。
先ほどの戦闘時、格下の魔物相手にもかかわらず、やけに疲れた様子だったことにもそれで説明がつく。
「なんだ、もう抵抗する気はなくなったのか?」
「ようやく立場を弁えたみたいだな」
勝利を確信した男たちは、ゲスい笑みを浮かべながら少女に近づいていく。
その光景を前に、俺は少し悩んだ。
俺と少女は無関係で、特に助けてやる義理はない。
復讐を成し遂げるためにも、不必要に目立つ行為は避けていくべきだ。
それでも。
俺は自分の意思を以て、その場に介入することにした。
複数人に敵意を向けられ絶望する少女の姿が、かつての自分に重なって見えたからというのもある。
だけど、それ以上に大きな理由があった。
単純な話――俺は、男たちが気に食わなかった。
「まあ、どうにでもなるか……」
小さくそう呟いた後、俺は一息で少女の前に移動した。
そして、
「そこまでにしておけ」
そう告げると、全員の注目が一斉に俺へと集まる。
「あ、あなたは……?」
背後からは、少女の戸惑ったような声。
そして前方では――
「ああん? 何だテメェは?」
「コイツに仲間がいた……? いや、通りすがりのただの冒険者か。チッ、面倒なことになりやがったな」
突如として現れた乱入者に対し、男たちは各々の武器を構え始める。
俺が少女を守ろうとしていることくらいは、説明せずとも分かったのだろう。
そんな折、一人が何かに気付いたように「あっ」と声を漏らした。
「待てみんな、よく見ろ! 誰かと思ったらコイツ、ついこないだギルドに登録しに来たレベル40の雑魚じゃねえか!」
「レベル40……? ああ! 最近よく先輩が気にしていたアイツか! ……ってことはなんだ? そんな低レベルの分際で、俺たちに逆らおうってか?」
「ハッ、これだから力の差が分からない野郎は! 雑魚の分際でかっこつけなければ生きながらえただろうに、残念だったな」
どうやら俺のことを知っているみたいだ。
……まあ、それはどっちでもいい。
対峙してもまだ本当の力量差が分かってない以上、コイツらはその程度の存在。
相手取るだけなら全く問題ないだろう。
それよりも。
俺は先ほどから気になっていたことを尋ねることにした。
「お前たちは、自分が何をしているのか分かっているのか?」
「ああん? 何だと!?」
「この国では条約によって、異種族への差別行為は禁じられている。特にエルフ族は仲間意識が強い。一族の者が乱暴な扱いをされたとなれば、一族総出で反撃に来る可能性すらある……それを知らないわけじゃないだろ?」
元々、一介の冒険者でしかない俺でも知っているのだ。
この迷宮都市で活動しているコイツらが知らないはずがない。
エルフ族の中には、長い年月によって力を得た強者が数多くいるという。
コイツ等ごときに敵う相手じゃないはずだ。
それに、エルフ族と友好な関係を築くことは国としての優先事項でもある。その関係に亀裂を入れるとなれば、王国騎士団によって処分される恐れもあるだろう。
そんな前提の中で告げた提言だったのだが――
男たちはしばらくキョトンとした表情を浮かべた後、一斉に笑い出すのだった。
何やらきな臭い雰囲気を醸し出していた。
「……面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだな」
気配を消して、バレないようにさっさと通り過ぎようかと考えていた矢先、追手側の男たちが声を上げた。
「はっ、残念だったな! ダンジョンに潜れば逃げ切れると思ったか!?」
「それくらいで逃がすほど俺たちは甘くねえよ! ってか、どうやら魔物との連戦で疲労も溜まってるみたいだな」
「へへっ、そいつは好都合。さっさと捕えちまおうぜ!」
……なるほど。
男たちの発言で、おおよその状況は理解できた。
ありきたりだが、少女の身柄を捕えて売り払おうとでもしているのだろう。
エルフ族はこの国でも珍しい存在。欲しがる金持ちがいても全くおかしくない。
「結局、こうなっちゃうんだ……」
少女は険しい表情を浮かべながら、悔しそうにそう呟く。
その様子から抵抗の意思は見えない。
魔物との連戦と、追手から逃げ続けたことで疲労が限界を迎えているのだろう。
先ほどの戦闘時、格下の魔物相手にもかかわらず、やけに疲れた様子だったことにもそれで説明がつく。
「なんだ、もう抵抗する気はなくなったのか?」
「ようやく立場を弁えたみたいだな」
勝利を確信した男たちは、ゲスい笑みを浮かべながら少女に近づいていく。
その光景を前に、俺は少し悩んだ。
俺と少女は無関係で、特に助けてやる義理はない。
復讐を成し遂げるためにも、不必要に目立つ行為は避けていくべきだ。
それでも。
俺は自分の意思を以て、その場に介入することにした。
複数人に敵意を向けられ絶望する少女の姿が、かつての自分に重なって見えたからというのもある。
だけど、それ以上に大きな理由があった。
単純な話――俺は、男たちが気に食わなかった。
「まあ、どうにでもなるか……」
小さくそう呟いた後、俺は一息で少女の前に移動した。
そして、
「そこまでにしておけ」
そう告げると、全員の注目が一斉に俺へと集まる。
「あ、あなたは……?」
背後からは、少女の戸惑ったような声。
そして前方では――
「ああん? 何だテメェは?」
「コイツに仲間がいた……? いや、通りすがりのただの冒険者か。チッ、面倒なことになりやがったな」
突如として現れた乱入者に対し、男たちは各々の武器を構え始める。
俺が少女を守ろうとしていることくらいは、説明せずとも分かったのだろう。
そんな折、一人が何かに気付いたように「あっ」と声を漏らした。
「待てみんな、よく見ろ! 誰かと思ったらコイツ、ついこないだギルドに登録しに来たレベル40の雑魚じゃねえか!」
「レベル40……? ああ! 最近よく先輩が気にしていたアイツか! ……ってことはなんだ? そんな低レベルの分際で、俺たちに逆らおうってか?」
「ハッ、これだから力の差が分からない野郎は! 雑魚の分際でかっこつけなければ生きながらえただろうに、残念だったな」
どうやら俺のことを知っているみたいだ。
……まあ、それはどっちでもいい。
対峙してもまだ本当の力量差が分かってない以上、コイツらはその程度の存在。
相手取るだけなら全く問題ないだろう。
それよりも。
俺は先ほどから気になっていたことを尋ねることにした。
「お前たちは、自分が何をしているのか分かっているのか?」
「ああん? 何だと!?」
「この国では条約によって、異種族への差別行為は禁じられている。特にエルフ族は仲間意識が強い。一族の者が乱暴な扱いをされたとなれば、一族総出で反撃に来る可能性すらある……それを知らないわけじゃないだろ?」
元々、一介の冒険者でしかない俺でも知っているのだ。
この迷宮都市で活動しているコイツらが知らないはずがない。
エルフ族の中には、長い年月によって力を得た強者が数多くいるという。
コイツ等ごときに敵う相手じゃないはずだ。
それに、エルフ族と友好な関係を築くことは国としての優先事項でもある。その関係に亀裂を入れるとなれば、王国騎士団によって処分される恐れもあるだろう。
そんな前提の中で告げた提言だったのだが――
男たちはしばらくキョトンとした表情を浮かべた後、一斉に笑い出すのだった。
120
お気に入りに追加
953
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです
熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。
そこまではわりと良くある?お話だと思う。
ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。
しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。
ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。
生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。
これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。
比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。
P.S
最近、右半身にリンゴがなるようになりました。
やったね(´・ω・`)
火、木曜と土日更新でいきたいと思います。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる