44 / 87
044 痛みと絶望
しおりを挟む
向かい合う復讐者とその対象。
しかしアルトはまだ、挽回の手段を見つけられていなかった。
「待て、シン!」
せめて少しでも時間を稼ごうと、アルトは口を開く。
「……まだ信じられない。本当に貴様が、こうしてまた俺の前に現れるとは。まるで夢でも見ている気分だよ」
「……そうか。二年前の俺も同じような気持ちだったよ。だけど残念だが、これはれっきとした現実だ」
「っ!」
ゆっくりと、しかし確かに距離を詰めてくるシン。
それを見て、アルトは慌てて言葉を紡ぐ。
「それで、貴様は……あの時の恨みを晴らすため、ガレンやシエラまで殺したんだな!?」
ピタリ、と。
シンの歩みが止まる。
「ああ、そういえばパーティーリーダーのお前なら、リアルタイムで仲間の死を確認できるんだったな。そうだ、アイツらはもうこの世界にいない」
「っ! ……ふ、ふざけるな! かつての仲間を殺しておきながら、何だその態度は!? 貴様には人の心がないのか!?」
「……人の心、か」
アルトからすれば、少しでも時間を稼ぐために出た筋の通っていない言葉。
しかしシンにとっては思うところがあったのか、彼は何かを考え込むようにして天井を見上げた。
「そんなものは、きっととうの昔になくした」
そう呟いた後、鋭い黒の視線をアルトに向ける。
「その場から逃げ出したお前にも教えてやる。セドリックはもちろん……ガレンやシエラの死に様はこの上なく惨めだったよ。いつの日かお前が、俺に向けて言ったようにな」
「……貴様っ!」
「そして――」
少し間を置いた後、シンは告げる。
「これからお前も体験するだろう。奴らと同じ苦しみを――それ以上の恐怖を」
「ッッッ!?!?!?」
殺気が、アルトの全身を襲った。
考える余裕もなく、彼は反射的に長剣を体の前に掲げる。
しかし気が付いた時にはもう、シンはアルトの目の前にいた。
「なっ! 貴様、いつの間に――」
「遅い」
「がはぁっ!」
直後、彼の腹部にシンの拳が突き刺さった。
これまでに感じたことのないほど重い一撃。
アルトの肋骨が一気に10本以上折れる。
さらに、それだけでは許さないとばかりにその矮躯を軽々と吹き飛ばした。
ドォォォオンと。
背中から、ダンジョン内の内壁にぶつかる。
その拍子に追加で何本も骨が砕けた。
痛みと衝撃で気を失いそうになる中、しかしシンは手を緩めない。
「おい、その程度で力尽きたりするなよ」
「なっ!」
瞬き一つの間で、再び彼我の距離が潰れる。
回避を試みる暇すらなく、怒涛の連撃がアルトを襲った。
「ぐわぁぁぁあああああああああ!!!」
一つ一つが、アルトに苦痛を与えるためだけに放たれる殴打の連撃。
そんな攻撃を浴び、アルトはただ痛みに叫ぶことしかできない。
シンはその時間を少しでも長引かせようとしているのだろう。
どこまでも丁寧に、優しく。
決してアルトが死んでしまわないよう、最大限の注意と手加減の中で攻撃を続けていた。
残りの肋骨が砕けた。
左腕が逆向きに曲がった。
大腿骨が肉から突き出した。
ただ純粋に、最上級の痛みがとめどなく押し寄せ続けた。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! 何だ、なんだこれは――!)
心の中で悪態をつくも、それがシンの耳に届くはずもなく。
圧倒的な暴力による蹂躙は、それから3分近く続いた。
「……ひとまず、この程度か」
シンにはこの先の目的があるのか、ここで一度攻撃の手を止める。
彼の前には、辛うじて人の形を保っているだけのアルトがいた。
しかしアルトはまだ、挽回の手段を見つけられていなかった。
「待て、シン!」
せめて少しでも時間を稼ごうと、アルトは口を開く。
「……まだ信じられない。本当に貴様が、こうしてまた俺の前に現れるとは。まるで夢でも見ている気分だよ」
「……そうか。二年前の俺も同じような気持ちだったよ。だけど残念だが、これはれっきとした現実だ」
「っ!」
ゆっくりと、しかし確かに距離を詰めてくるシン。
それを見て、アルトは慌てて言葉を紡ぐ。
「それで、貴様は……あの時の恨みを晴らすため、ガレンやシエラまで殺したんだな!?」
ピタリ、と。
シンの歩みが止まる。
「ああ、そういえばパーティーリーダーのお前なら、リアルタイムで仲間の死を確認できるんだったな。そうだ、アイツらはもうこの世界にいない」
「っ! ……ふ、ふざけるな! かつての仲間を殺しておきながら、何だその態度は!? 貴様には人の心がないのか!?」
「……人の心、か」
アルトからすれば、少しでも時間を稼ぐために出た筋の通っていない言葉。
しかしシンにとっては思うところがあったのか、彼は何かを考え込むようにして天井を見上げた。
「そんなものは、きっととうの昔になくした」
そう呟いた後、鋭い黒の視線をアルトに向ける。
「その場から逃げ出したお前にも教えてやる。セドリックはもちろん……ガレンやシエラの死に様はこの上なく惨めだったよ。いつの日かお前が、俺に向けて言ったようにな」
「……貴様っ!」
「そして――」
少し間を置いた後、シンは告げる。
「これからお前も体験するだろう。奴らと同じ苦しみを――それ以上の恐怖を」
「ッッッ!?!?!?」
殺気が、アルトの全身を襲った。
考える余裕もなく、彼は反射的に長剣を体の前に掲げる。
しかし気が付いた時にはもう、シンはアルトの目の前にいた。
「なっ! 貴様、いつの間に――」
「遅い」
「がはぁっ!」
直後、彼の腹部にシンの拳が突き刺さった。
これまでに感じたことのないほど重い一撃。
アルトの肋骨が一気に10本以上折れる。
さらに、それだけでは許さないとばかりにその矮躯を軽々と吹き飛ばした。
ドォォォオンと。
背中から、ダンジョン内の内壁にぶつかる。
その拍子に追加で何本も骨が砕けた。
痛みと衝撃で気を失いそうになる中、しかしシンは手を緩めない。
「おい、その程度で力尽きたりするなよ」
「なっ!」
瞬き一つの間で、再び彼我の距離が潰れる。
回避を試みる暇すらなく、怒涛の連撃がアルトを襲った。
「ぐわぁぁぁあああああああああ!!!」
一つ一つが、アルトに苦痛を与えるためだけに放たれる殴打の連撃。
そんな攻撃を浴び、アルトはただ痛みに叫ぶことしかできない。
シンはその時間を少しでも長引かせようとしているのだろう。
どこまでも丁寧に、優しく。
決してアルトが死んでしまわないよう、最大限の注意と手加減の中で攻撃を続けていた。
残りの肋骨が砕けた。
左腕が逆向きに曲がった。
大腿骨が肉から突き出した。
ただ純粋に、最上級の痛みがとめどなく押し寄せ続けた。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! 何だ、なんだこれは――!)
心の中で悪態をつくも、それがシンの耳に届くはずもなく。
圧倒的な暴力による蹂躙は、それから3分近く続いた。
「……ひとまず、この程度か」
シンにはこの先の目的があるのか、ここで一度攻撃の手を止める。
彼の前には、辛うじて人の形を保っているだけのアルトがいた。
59
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる