上 下
54 / 55
第二部 剣神と呼ばれた男

エピローグ

しおりを挟む
 魔王討伐後。
 俺たちはかねてからの依頼であった魔硬石を回収した後、帰路についていた。
 しかし、馬車の空気はそれほど明るくなかった。

 魔王を討伐できたとはいえ、全てが解決したわけではない。
 あの後、クレアスは魔王が倒されたことに絶望しながら、静かに息を引き取った。
 問題はもう一人の残された魔族のアルマだ。
 魔王討伐直後に確かめると、彼女はいつの間にかその場から消えていた。
 まさか聖剣の一撃に巻き込まれたわけではないだろう。
 彼女を逃したことで再度魔族が何かを仕掛けてくる可能性があるが、もうこうなってしまっては、その時のことはその時に考えるしかない。

「ああ、そうだ。今不安に思ったって仕方がないな」
「ルーク?」

 俺はこの重々しい馬車の空気を換えると決断する。
 これからの心配事はあるが、きっと俺たちなら何とかできると信じているからだ。

「いや、だってそうだろ? 魔族の一部は逃したとはいえ、魔王を倒して人間界に迫っていた危機を遠ざけることができたんだ。俺たちは十分に頑張ったって思ってさ」
「……うん、そうだな。ルーク師匠の言う通りだ。何度も戦いの場を経験すれば、満足いかない結果に終わることは多々ある。その時ただ悔いるのか、良かった点を把握したうえで反省点を次に活かすかでは成長度合いは全く異なる。自分たちの成果とも、向き合う必要があるんだ」

 ある意味、この場で最も戦闘経験のあるレオノーラの言葉を聞き、ティナとユナの二人もようやく表情を綻ばせた。

「そうだね。ここにいる誰一人として死なずに済んだんだもん。それだけでも喜ばなくちゃ!」
「そうですね。それに私は今回の戦いで、とある覚悟ができました。確かに得たものがあるのだと、強く理解しておく必要があります」

 それぞれが今回の戦いを何を得て、何を失ったのかは異なる。
 それでも間違いなく共通の認識が一つある。
 それは出発時と同じメンバーが、今ここにそろっていることへの歓喜だ。

 これからきっと、想像を超えるような困難が俺たちを待ち受けているだろう。
 魔族の襲撃や、それ以外のことも含めて、何が起きるのか分からないのが現実だ。
 その時に備えて、俺たちは強さを求め続けなくてはならない。

 ふと、腰元にある鞘に手を置く。
 今回の戦いで得た、この聖剣。
 そして何より、共に戦ってくれた仲間たちが俺の力になってくれるはずだ。

 異世界においても、この世界においても、俺は最高の仲間に恵まれた。
 彼女たちと一緒なら、俺はどこまでも強くなれるはずだ。

「ありがとうな、皆」

 どうしても、感謝の気持ちを伝えたくなった。
 突然の言葉だったが、三人は優しく笑う。

「うん、こちらこそ、ありがとうねルーク」
「私は常にお兄様の味方ですから。頼ってくださいね」
「ああ、ルーク師匠、これからも共に高め合おう!」

 優しい空気と、暖かな笑い声に包まれながら馬車は進んでいく。
 これからもずっとこの関係が続いていくのだと、不思議とそう確信できた。

 俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのだから。


 FIN


――――――――――――――――――――

これにて本作完結となります!
これまでご愛読ありがとうございました!

それから現在、新作『転生した大魔王、地球に出現したダンジョンを作ったのが前世の自分だと思い出す。 ~魔王時代の知識と経験で世界最強になって無双します!~』を投稿しているので、今後はこちらを応援していただければ嬉しいです!


【大切なお知らせ】


本日、完結を迎えた本作ですが、実は小説家になろう様でリメイク版の投稿を始めました。
全体を通して本作を修正しつつ、新エピソードを含めた内容になっています。
アルファポリス様ではインセンティブの影響か、同作品のリメイク版があまり推奨されていないようなので、小説家になろう様のみでの投稿となります!

作家名『八又ナガト』で検索してくだされば、すぐに見つけることができると思います。
本作を気に入ってくださった皆様、これまで本当にありがとうございます。
もしよければリメイク版でも引き続き応援してくだされば作者冥利に尽きます!

ぜひぜひ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

誰がための香り【R18】

象の居る
恋愛
オオカミ獣人のジェイクは疫病の後遺症で嗅覚をほぼ失って以来、死んだように生きている。ある日、奴隷商の荷馬車からなんともいえない爽やかな香りがした。利かない鼻に感じる香りをどうしても手に入れたくて、人間の奴隷リディアを買い取る。獣人の国で見下される人間に入れこみ、自分の価値観と感情のあいだで葛藤するジェイクと獣人の恐ろしさを聞いて育ったリディア。2人が歩み寄り始めたころ、後遺症の研究にリディアが巻き込まれる。 初期のジェイクは自分勝手です。 人間を差別する言動がでてきます。 表紙はAKIRA33*📘(@33comic)さんです。

【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました

ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。 リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』 R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

【完結 R18追放物】勇者パーティーの荷物持ち~お忍び王女とダンジョン攻略。あれ? 王女のダンジョンも攻略しちゃいました~

いな@
ファンタジー
「そろそろ行くか、みんな用意してくれ」  俺は食事がすんだ席から立ち上がりリュックを背負う。 「アイテール! もうお前には付いていけない!」 「え?」  そんなところから物語は始まります。  ほんのちょっと? エッチな物語、主人公とお忍び王女のいちゃラブ(ハーレム)冒険旅です。 『ざまぁ』対象者は、自業自得で落ちぶれていきます。 ※ノベルピア・ノクターンにもあります。 【★表紙イラストはnovelAIで作成しており、著作権は作者に帰属しています★】

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

処理中です...