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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり

28 到着

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「さすがはお兄様です」

 私――ティナ・アートアルドは瞬時に30人近くの魔族を倒したお兄様に称賛の言葉を漏らす。
 私にとっては至極当然の光景だったが、他の者にとっては違ったらしい。
 ミアレルト領の騎士たちは、各々に驚愕と歓喜を口にする。

「す、すげぇ、いま何が起きたのか全く見えなかった」
「ああ。でも敵の半数以上がやられてる。ユナ様の友人が倒してくれたんだろう」
「守り切れるぞ、俺たちの町を!」

 おおぉ! と、彼らの士気が上がる。
 この人数相手の魔術なら防ぎきれると考えているのだろう。
 けど、そうする必要はない。
 せっかくお兄様が整えてくれた舞台だ。私も尽力しなくてはならない。

「いいえ、貴方たちは休んでいてください。残りの敵は私一人で無力化できます」
「えっ? し、しかし敵はいま一ヵ所に集って結界で身を守っていますよ? こちらからの攻撃も通じません」
「問題ありません。いえ、むしろ好都合ですわ!」

 結界に守られていると安心している魔族たちの隙をつく。
 魔族たちとの距離はおよそ80メートル。
 つまりは私の魔力操作範囲コントロールレンジだ。

 詠唱と共に練り上げられた魔力の起点を、敵の結界の内側に指定する。
 そして高らかに叫んだ。

「――氷嶽イスベルグ!」

 結界の内側から生じた氷の山が、一瞬で20人の体を凍らせる。
 予想外の攻撃に敵は為す術がなかったようだ。

「そんな……こんな簡単に倒すだなんて」
「すごすぎる、さすがはユナ様の友人だ」
「ありがとうございます! おかげで、私たちも救われました!」

 危機を脱したことを察し、感謝を告げる彼らに頷く。
 そうしている最中も、思考を埋め尽くすのは愛すべきお兄様だった。

(ユナ様のことをよろしくお願いします、お兄様)


 ◇◆◇


 私――ユナ・ミアレルトは眼前に迫る脅威に唇を噛み締めた。
 空に浮かびながらこちらに攻撃を仕掛けてくる、二本の角と黒色の羽が特徴的な女性――魔族。
 私の力では、彼女の攻撃を必死に防ぐのが精いっぱいだった。

「ふふふ、いつまで持つかしら!」

 その魔族の女性は攻撃を仕掛けながら、楽しそうにそう叫ぶ。

 隣国の騎士団を携えて、突如として領地に現れた彼女は真っ先に私とお父様を狙った。
 対応が遅れ、私たちはこうして人気のない荒野に連れてこられた。
 その最中にできたのは、なんとかティナに伝達魔術を送ることだけ。
 後はずっと、敵の攻撃を防ぐことばかりだった。

 途中、攻撃の間が空いたタイミングで私は問う。

「ねえ、貴女はどうして私たちを狙うの!?」
「あら、まだそうして叫べるだけの元気はあるのね。いいわ、それでこそ襲いがいがあるもの!」
「くっ……!」

 一際威力の大きい魔術を、魔心(ましん)で防ぐ。
 お父様は連れ去られる際に攻撃を受け気絶しているため、二人を守れるだけの大きさの魔心を張らなければならなかった。
 魔力消費が激しい。魔心が使えなくなるのも時間の問題だ。

「今のをよく耐えられたわね。いいわ、少しだけ答えてあげる。私が貴女を狙う理由はただ一つ、貴女の力を欲しているからよ」
「私の力……この魔心のこと?」
「ええ、その通り。貴方はそれを結界代わりに使っているようだけど、本当はもっと優れた使い方があるのよ」
「優れた使い方……?」

 そこまで答えてくれる気はないらしい。
 話しながらも溜め込んだ大量の魔力が、巨大な雷の猛獣を生み出す。
 炎黙の顎が発動していた最上級魔術に似ているが、そこに込められた魔力量が何十倍も違う。
 これはさすがに耐えられないかもしれない。

「さあ、耐えられるものなら耐えてみなさい! ――天雷獣(てんらいじゅう)」

 そうして放たれた魔術を前に、私は全ての魔力を魔心に注いで衝撃に備える。
 ――だが、衝撃が訪れることはなかった。

 私と魔術の間に、一人の男性が舞い降りたからだ。

「――ルーク!」

 思わず私はその者の名を全力で呼ぶ。
 するとルークはこくりと頷き、

「後は任せろ」

 そう呟き、体を半身にして剣を構えた後、突きを放った。

「グラディウス・アーツ流、三の型――神威」

 彼の剣から放たれた渦巻く暴風と、天雷獣が衝突する。
 轟音と激震を生み出したのち、パアンッとその二つが消滅する。
 互角の威力だった。

「……ありえないわ」

 まさか自分の魔術が防がれると思っていなかったらしい魔族は、これまでの笑みを消し、真剣な眼差しでルークを見る。
 そんな彼女に対して、ルークは一言。

「お前が敵だな」

 そう告げた。
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