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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり

21 冒険者ギルド

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 翌日、俺は第一学園のある北区ではなく、中央広場に来ていた。
 この噴水の前で待ち合わせがしたいとティナが言っていたからだ。

 今日は身分を隠してギルドに行くことになるため、制服ではなく動きやすい服装にしてある。
 俺が腰元に備えている剣が見慣れないのか、道行く人々が不思議そうな表情でこちらを見ていた。

 そんな中、突然ざわりと周囲が賑わいだす。

「お待たせいたしました、お兄様!」

 そう言ってこちらに駆けてくるのはティナだ。
 動きやすさと落ち着きを兼ね備えた装いをしていて、とても似合っていた。
 そんなティナに周りも目を奪われているようだ。

 ティナは俺のすぐ前にくると、その場でくるりと回る。

「どうですか、お兄様? とっておきの勝負服です!」
「? そんなに戦いやすい服なのか? そうは見えないけど」
「む、違います! そうではなくてですね――」
「まあそれはそれとして、よく似合ってるよ」
「――お兄様!」

 ティナは嬉しそうに抱きついてくる。
 しっかりと褒めたのが良かったみたいだ。
 けど、周りの視線が少し痛い。
 呪詛みたいなのを呟いてる奴もいるし。
 早くここから移動したほうがいいだろう。

「じゃあ行くか、ティナ」
「はい!」

 俺たちはそのまま、南区にある冒険者ギルドに移動した。

 
 冒険者ギルドに辿り着いた俺たちは、さっそく重々しい扉を開けて中に入る。
 真っ先に視界に飛び込んできたのは大量の冒険者だった。
 中は受付と酒場に分かれているようで、そのどちらにも人が溢れている。

 来たのは初めてだから、この喧噪ぶりには驚かされた。
 第一学園や第二学園では、王立ギルドから遣わされた職員が受付を行い、さらに依頼を受ける者も貴族しかいないため落ち着きがある。
 しかし冒険者ギルドの場合は運営も依頼を受ける者も基本的には平民だ。
 だからこそこんな雑多な感じになるんだろう。

 楽しげな雰囲気があるのは喜ばしいが、その分礼儀がなっていない者もいるようだった。

「おい見ろよ、あの青髪の女。そうとうな上玉だぞ」
「あまり見ない顔だな。新人か?」
「分かんねぇけど、とりあえず……」

 ティナに興味を持ったらしい男たちが、ぞろぞろと近づいてくる。
 目的は分からないが、いつでも対応できるように構えておく。

 集まった男のうちの一人が、ティナに声をかける。

「なあ嬢ちゃん、ここは初めてか? 俺たちが色々と教えてやってもいいぞ」
「必要ありません。どいてくださいませ」
「まあまあそう言うなって。冒険者は持ちつ持たれつなんだからよ。そうだ、何だったらうちのパーティに入るか? 嬢ちゃんみたいな美人なら、弱くても歓迎だよ、がはは!」
「……お断りしますわ。私はこの人と一緒に依頼を受けますので」

 そろそろ不快に感じ始めたころ。
 ティナは誘いを断るために俺を引き合いに出す。
 男は俺を見て笑った。

「はは、そんな弱そうな男より、俺たちの方がよっぽど役に立つぞ」
「――黙りなさい」

 その言葉が、男たちにとって悲劇の始まりだった。

 急激に周囲は底冷えし、ティナの足元から氷が出現する。
 その氷は周りの男たち全員の膝までを凍らせ、身動きできない状態にした。

「なっ、何をした!?」
「足が凍って動けねぇぞ!」
「無詠唱か!? ありえねぇ!」

 驚愕に声を荒げる男たちに向け、ティナは言葉通り、凍えるような声で告げる。

「私だけならばともかく、お兄様を馬鹿にした貴方たちには制裁が必要です。この場で膝を地につけて謝罪するか、それとも全身まで氷漬けになるかを選びなさい」
「なっ、わ、悪かった! 謝るから」
「おや、膝を地につけろと言ったはずですが?」
「膝凍ってるぅうううう!」

 ティナの制裁がいつまで続くのかと思った瞬間、何者かの声が響く。

「待って、待ってそこの君!」

 そう言って駆け寄ってきたのは、桃色の髪を肩甲骨まで伸ばした一人の少女だった。
 少女はティナを止めようとしているようだ。

「君に迷惑をかけたことは謝るし、ちゃんとここにいる者たちにもペナルティは与えるから。だから少し落ち着いてくれないかな?」
「……そうですね。そろそろ頃合いでしょうか」

 少女の懇願に応えるように、ティナは魔術を解除する。
 男たちは足の感覚を失ったのか、次々と倒れていく。
 それを見てティナが小さく頷いたのを俺は見逃さなかった。絶対Sだよこの子。

「ありがとう、止めてくれて」
「いいえ、構いません。罰さえきちんと与えて下さるなら。それで、貴女はいったい?」
「ああ、そう言えばまだ言ってなかったね。ボクはフルール。この冒険者ギルド、晴天の桜のギルドマスターだよ」

 少女――フルールの言葉に俺は驚いた。
 おそらくはティナもだろう。
 まだ十代半ばほどに見える少女がそれほど重要な役職についてるとは思いもしなかった。

「よかったら、君たちの名前も教えてくれないかな?」

 そんな俺たちの驚きに気付いていないのか、フルールは笑いながらそう尋ねてくる。

「ティナです」
「ルークです」

 今は貴族であることを隠しているため、姓は告げないことにしておいた。

「ティナさんにルークさんだね。ここにくるのは初めてだと思うけど、新規登録ってことで大丈夫なのかな?」
「はい、それでお願いいたします」
「あはは、ティナさんは冒険者志望とは思えないほど丁寧だね。それはルークさんもか。まあそれはいいとして、さっそく登録に移ろう」

 フルールは俺とティナを受付まで誘導する。
 その間にも先ほど騒ぎを起こした男たちは、職員らしき者に建物の奥に連れて行かれていた。

 フルールは受付に置いてあった透明な水晶玉を二つ手に取ると、俺とティナに差し出してくる。
 俺たちが受け取ると、彼女はこくりと頷いた。

「登録時のランクを決める参考にするために、いくつか試験項目があるんだ。そのうち最初にするのが魔力測定で、これは魔力量を測ることができる水晶玉なんだ。さっそくだけど、魔力を全力で注いでみてくれないかな? 大丈夫だとは思うけど、基準値を超えていないと登録はできないから気を付けてね」

 あっ、詰んだ。
 俺はそう思った。
 魔力を外部に放出できない俺では、どうあがいても記録が0になる未来しか見えない。
 同じことを思ったのか、ティナが心配そうに俺を見る。

「じゃあ、まずはティナさんからお願い」
「……分かりました」

 しかし上手く誤魔化す方法が思いつかなかったのか、促されるままティナが魔力を注ぎ始める。
 水晶玉はどんどんと青色に染まっていき――次の瞬間、パリンと砕けた。
 その衝撃的な光景に、フルールだけでなく他の職員や冒険者たちが騒ぎ出す。

「なっ、水晶玉が砕けるほどの魔力量だって!? そんなのレオノーラさん以来じゃないかい!?」
「レオノーラって、あのSランク冒険者のか!?」
「マジかよ、すげえの見ちまったぜ!」

 興奮冷めやらぬといった様子で、フルールはティナの手を握る。

「魔力量だけでも、文句なしにAランクだ! 他の試験の結果次第ではSランクだってあり得るかもしれない! すごいよ、ティナさん!」
「ありがとうございます。ですが私よりお兄様の方がすごいですよ」
「お兄様!? 兄妹だったの!? いやそれよりも、ティナさんよりもすごいだなんて、いったいどうなるんだ! 次はルークさん、お願いします!」

 おいティナ、なぜハードルを上げた。
 俺が魔力を放出できないと知ってるだろう。
 周りからの期待の視線がすごく痛いんだが……

 はあ、仕方がない。
 覚悟を決めた俺は水晶玉を握る。
 そして――

 軽く力を入れた。
 瞬間、水晶玉は爆発した。
 木っ端微塵だ。

 ティナの時以上のざわめきが発生する。

「ええぇっ!? いま何をしたの!?」
「がんばりました」
「頑張った!? ティナさんとは比べ物にならない速度で壊れたんだけど! なんなら魔力が注がれていく過程を目視できなかったくらいだよ! どれだけの魔力量なのか想像もできない……」

 ふむ、うまくいったみたいだ。
 水晶玉を壊したことで認められたティナを見て、もしかしたらと思い実行してみたのだが。
 魔力で破壊したと思ってもらえたらしい。
 やっぱり筋力は最高だな。

 そんなこんなで、第一関門を突破した。
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