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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
03 お互いの境遇と才能
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今回受けた依頼では、王都から馬車で二日ほど離れた鉱山にあるマタシウト鉱石を一定数納品する必要がある。
マタシウト鉱石は魔術触媒としての価値が高く、ロッドなどに使用される。
しかし採掘できる場所が限られており、どこも生息する魔物が強力なため入手が困難なのだ。
そのため事前準備は重要となる。
少なくとも出会ったばかりの二人組で挑むような依頼ではない。
けれども、俺達にはこの依頼を達成しなければならない理由がある。
少しでも連携を取れるように、出発の朝、俺とユナはお互いについて話し合っていた。
「確認なんですが、ユナさんは成績上位者になるために依頼を受けたということでいいんですよね?」
「うん、そうだよ。あ、あと、敬語はいらないよ。なんだか堅苦しいし。ユナって呼んでくれたら嬉しいかな」
「……分かった、ユナ。俺のこともルークって呼んでほしい」
「うん、よろしくねルーク!」
ユナの話によると、彼女は辺境の地に領土を持つ男爵家の長女だという。
母親の事情で二人の弟と一人の妹が生まれたのはかなり後のようで、今のところ彼女が次期領主となることはほぼ確定しているらしい。
ただ、問題があるとすればミアレルト領が戦力に乏しいということだ。
いずれ他領から攻められる可能性が高い。
それを防ぐためにも、第一学園を卒業した者が領主に君臨しているという箔がどうしても欲しいらしい。
「ルークはどうなの? 私と似た事情?」
「いや、俺も第一学園に入りたいのは同じだけど、領主は目指してないんだ。優秀な妹がいるからな」
「そうなんだね。でも、こうして加点を狙ってるってことは、ルークの魔術が実技試験に向いていないっていうのは私と一緒なのかな?」
「それについても少しだけ違っていて……そもそも俺、魔術が使えないんだ」
「え? ええぇ!」
一瞬だけ言葉の意味が呑み込めなかったのかきょとんとした後、驚きの声を上げる。
それはそうだろう。Aランク依頼を共に受ける相手に魔術が使えないなどと告白されては動揺するのも当然だ。
「でも大丈夫なんだ。戦う力がないわけじゃない」
「で、でも、魔術が使えないのにどうやって……」
「簡単なことだよ、これを使うんだ」
言って、俺は懐からそれを取り出す。
「ナイフ?」
「ああ」
俺が取り出したのは刃渡り20センチほどの少し長めのナイフだった。
本当は立派な剣が欲しかったところだが、この世界ではそんなものが作られたりはしない。接近戦で使用する武具など、ほとんどは神話でしか現れない。
このナイフも本来の用途は武器ではなく調理などをするためのものだ。
そんなものだとしても、俺がいま利用できる武器はこれくらいだ。
俺の剣士としての戦いを披露するのは、もうしばらく後になるだろう。
「それで戦うってこと? でも、魔物と接近するなんて危険だよ?」
ユナの疑問も尤もだ。この世界ではどれだけ魔物と距離を置き、安全圏から討伐できるかが重視される。
わざわざ近づいて戦おうとする物好きに出会ったことはないのだろう。
「まあ、魔物と出会ったときにどう戦うか見せるよ。ユナはどうなんだ?」
「わ、私も実は、人のこと言えないんだけど……」
言いながら、ユナは自分が得意とする魔術を見せてくれる。
両手から溢れる魔力が透明の球体に変わっていく。
今までに見たことのない魔術だ、これをどうするのだろうか?
「これが私の魔術の基本なんだ。魔力を圧縮、硬質化させて生み出したこの魔心(ましん)を変形させて戦うの。例えば、えい」
掛け声と共に、魔心から大きな棘が勢いよく伸びる。
その棘は地面に深く突き刺さった。
「他には、こんなのとか」
魔心はさらに形を変え、薄い膜になると、そのままユナの周囲を包むようにして丸くなる。
「ねえルーク、少し攻撃してくれないかな」
「ああ」
軽く掌底を放つも、その膜は非常に強固で傷一つつかない。
そこでようやく彼女の力を理解した。
「なるほど、圧縮と固定か」
「うん、そう。私は他人より魔力を自由自在に操ることが得意なの。その反面、放出系は全然ダメで、自分のすぐ近くでしか魔力を操れなくて……えへへ、こんなのでごめんね」
「謝る必要なんかない、いや、むしろ凄いよ」
「え?」
俺の言葉に、戸惑ったようにユナは首を傾げる。
けれど、お世辞でもなんでもなく事実だ。
これほどの密度を持つ魔力を操れる者など、あちらの世界にもほとんどいなかった。
確かに飛距離と威力を重要視する実技試験では大した成績は残せないかもしれないが、その才能は第二学園の誰にも、いやもしかすると第一学園の者にすら負けないかもしれない。
図らずも、接近戦が得意な二人がパーティを組んだようだ。
これは運命か何かだろうか。
何はともあれ。
「よし、お互いの境遇と力を理解したところで、そろそろ出発しようか」
「うん、そうだね」
移動用の馬にそれぞれ跨り、グレイド鉱山のある方向に視線を向ける。
ふと疑問に思ったことがあった。
「そういえば、さっきユナは俺に接近戦は危険だって言ってたけど、ユナも似たタイプじゃないのか?」
「えっと、それは……生身で接近するのが危険だよって言いたかったの。私は魔心で結界を作っておいたら、攻撃を受けることはないから」
「なるほど」
それはつまり、これまで結界を破られたことがないということだろうか。
……奇しくも、とんでもない才能の持ち主に出会ってしまったかもしれない。
マタシウト鉱石は魔術触媒としての価値が高く、ロッドなどに使用される。
しかし採掘できる場所が限られており、どこも生息する魔物が強力なため入手が困難なのだ。
そのため事前準備は重要となる。
少なくとも出会ったばかりの二人組で挑むような依頼ではない。
けれども、俺達にはこの依頼を達成しなければならない理由がある。
少しでも連携を取れるように、出発の朝、俺とユナはお互いについて話し合っていた。
「確認なんですが、ユナさんは成績上位者になるために依頼を受けたということでいいんですよね?」
「うん、そうだよ。あ、あと、敬語はいらないよ。なんだか堅苦しいし。ユナって呼んでくれたら嬉しいかな」
「……分かった、ユナ。俺のこともルークって呼んでほしい」
「うん、よろしくねルーク!」
ユナの話によると、彼女は辺境の地に領土を持つ男爵家の長女だという。
母親の事情で二人の弟と一人の妹が生まれたのはかなり後のようで、今のところ彼女が次期領主となることはほぼ確定しているらしい。
ただ、問題があるとすればミアレルト領が戦力に乏しいということだ。
いずれ他領から攻められる可能性が高い。
それを防ぐためにも、第一学園を卒業した者が領主に君臨しているという箔がどうしても欲しいらしい。
「ルークはどうなの? 私と似た事情?」
「いや、俺も第一学園に入りたいのは同じだけど、領主は目指してないんだ。優秀な妹がいるからな」
「そうなんだね。でも、こうして加点を狙ってるってことは、ルークの魔術が実技試験に向いていないっていうのは私と一緒なのかな?」
「それについても少しだけ違っていて……そもそも俺、魔術が使えないんだ」
「え? ええぇ!」
一瞬だけ言葉の意味が呑み込めなかったのかきょとんとした後、驚きの声を上げる。
それはそうだろう。Aランク依頼を共に受ける相手に魔術が使えないなどと告白されては動揺するのも当然だ。
「でも大丈夫なんだ。戦う力がないわけじゃない」
「で、でも、魔術が使えないのにどうやって……」
「簡単なことだよ、これを使うんだ」
言って、俺は懐からそれを取り出す。
「ナイフ?」
「ああ」
俺が取り出したのは刃渡り20センチほどの少し長めのナイフだった。
本当は立派な剣が欲しかったところだが、この世界ではそんなものが作られたりはしない。接近戦で使用する武具など、ほとんどは神話でしか現れない。
このナイフも本来の用途は武器ではなく調理などをするためのものだ。
そんなものだとしても、俺がいま利用できる武器はこれくらいだ。
俺の剣士としての戦いを披露するのは、もうしばらく後になるだろう。
「それで戦うってこと? でも、魔物と接近するなんて危険だよ?」
ユナの疑問も尤もだ。この世界ではどれだけ魔物と距離を置き、安全圏から討伐できるかが重視される。
わざわざ近づいて戦おうとする物好きに出会ったことはないのだろう。
「まあ、魔物と出会ったときにどう戦うか見せるよ。ユナはどうなんだ?」
「わ、私も実は、人のこと言えないんだけど……」
言いながら、ユナは自分が得意とする魔術を見せてくれる。
両手から溢れる魔力が透明の球体に変わっていく。
今までに見たことのない魔術だ、これをどうするのだろうか?
「これが私の魔術の基本なんだ。魔力を圧縮、硬質化させて生み出したこの魔心(ましん)を変形させて戦うの。例えば、えい」
掛け声と共に、魔心から大きな棘が勢いよく伸びる。
その棘は地面に深く突き刺さった。
「他には、こんなのとか」
魔心はさらに形を変え、薄い膜になると、そのままユナの周囲を包むようにして丸くなる。
「ねえルーク、少し攻撃してくれないかな」
「ああ」
軽く掌底を放つも、その膜は非常に強固で傷一つつかない。
そこでようやく彼女の力を理解した。
「なるほど、圧縮と固定か」
「うん、そう。私は他人より魔力を自由自在に操ることが得意なの。その反面、放出系は全然ダメで、自分のすぐ近くでしか魔力を操れなくて……えへへ、こんなのでごめんね」
「謝る必要なんかない、いや、むしろ凄いよ」
「え?」
俺の言葉に、戸惑ったようにユナは首を傾げる。
けれど、お世辞でもなんでもなく事実だ。
これほどの密度を持つ魔力を操れる者など、あちらの世界にもほとんどいなかった。
確かに飛距離と威力を重要視する実技試験では大した成績は残せないかもしれないが、その才能は第二学園の誰にも、いやもしかすると第一学園の者にすら負けないかもしれない。
図らずも、接近戦が得意な二人がパーティを組んだようだ。
これは運命か何かだろうか。
何はともあれ。
「よし、お互いの境遇と力を理解したところで、そろそろ出発しようか」
「うん、そうだね」
移動用の馬にそれぞれ跨り、グレイド鉱山のある方向に視線を向ける。
ふと疑問に思ったことがあった。
「そういえば、さっきユナは俺に接近戦は危険だって言ってたけど、ユナも似たタイプじゃないのか?」
「えっと、それは……生身で接近するのが危険だよって言いたかったの。私は魔心で結界を作っておいたら、攻撃を受けることはないから」
「なるほど」
それはつまり、これまで結界を破られたことがないということだろうか。
……奇しくも、とんでもない才能の持ち主に出会ってしまったかもしれない。
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