上 下
1 / 55
第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり

01 異世界を救った勇者の帰還

しおりを挟む
 遥かな旅路の末、ようやくたどり着いた魔王城。
 そこで最後の戦いが終わりを告げようとしていた。
 魔王の苛烈な攻撃をかいくぐり振るった剣が、魔王の胸元に突き刺さる。

「……ふっ、我もここまでか」

 自らの死期を悟った魔王は悔しさの中に僅かな満足感を秘めながらそう呟く。
 そして、静かに目を閉じていった。

「倒した……のか?」
「やったのね、ルーク!」
「人類の勝利だ!」

 後方で、これまで支援に徹してくれていた仲間たちが嬉しそうに叫ぶ。
 俺――ルークが彼らと共に喜びを分かち合うことはできなかった。

「体が、薄れていく……?」

 異世界から勇者として召喚された俺は、魔王を倒すためだけに戦ってきた。
 魔王を倒し自らの役目を全うした今、もうこの世界に残る理由はない。
 契約に従い、帰還魔法が発動する。

「そんな、戻っちまうのかよルーク!」
「仕方ないよ、ルークはルークの世界に帰るんだよ」
「お前のこと、絶対に忘れたりなんかしないからな!」

 俺が異世界に呼び出された当初、全く強くもなかった俺を支え、今日まで共に戦ってくれた者たちの言葉に心が満たされる。
 オルド、リース、ガイアスの三人に振り返り、手に持つ剣を掲げる。

「俺も、お前たちと過ごしたこの日々を絶対に忘れたりなんかしない。皆、ありがとう!」

 それが最後の言葉だった。
 俺の体は完全に消え、意識も暗闇の中に落ちる。
 ああ、幸せな日々だった――


「はっ、あいかわらずクズルークは雑魚だな! この程度で気絶するだなんて!」

 懐かしい声が、俺の意識を呼び戻す。
 目を覚まし辺りを見渡すと、制服を着た学生が多くいるのが見えた。
 その中でも俺と声の正体――ヌーイは中心で向かい合っていた。
 正確には俺だけ地面に寝ころんでいるが。

「起きたみたいだな、ほら、まだ攻撃は続くぞ! 無様に泣き叫べよ!」

 その言葉を聞いてようやく思い出した。
 ここは俺が生まれ育った世界、ルアース。
 魔術師としての才能がそのまま地位の高さに繋がる世界だ。

 魔術師の才能がなかった俺はずっと弱者だとして周りから蔑まれる対象だった。
 貴族の中では才能に恵まれなかった者たちが集う、ここ王立第二学園では特に。
 異世界に召喚され、剣士としての才能を教えてもらうまで、俺自身もずっと自分が周りに劣る存在だと思っていた。

 けれど今はもう違う。
 どういうわけか召喚当時に帰還したようだが、俺はもう俺の才能を知っている。
 今の俺がヌーイ程度に負けるわけがない。
 この模擬戦の場を借りてそれを証明しよう。

「よっと」

 立ち上がり、自分の体の状態を確かめる。
 怪我だらけだ。仕方ない。
 体内の魔力の循環を活性化させ、自然治癒力を高め怪我を治す。
 よし、もう問題なく動けるな。

「ははっ、起き上がったのか、いいぞ、褒めてやる。そこまで俺に痛めつけられたいみたいだな。クズルーク」
「黙れ、うるさいぞヌーイ」
「は? いまなんつった? お前が俺に黙れって言ったのか?」
「そうだ、お前の攻撃なんて痛くもかゆくもない。怒声の方がうるさくて厄介なくらいだ。少し静かにしてくれ」
「ッ! ふざけやがって! ぶっ殺してやる!」

 これまでただ攻撃の的になるだけだった俺の反抗的な言葉に苛立ったのか、顔を真っ赤にして声を張り上げている。
 俺の変わりように驚いたのはヌーイだけではなかったらしく、周囲の者達も騒いでいる。

「おい、あのクズルークが逆らったぞ」
「この学園で一番才能がないくせにな。初級魔術すら使えないくせに」
「それどころか魔力を外に放出することすらできないんだろ? 話にならねぇよ」

 外野がうるさいが、すぐに静かになるだろう。

「これでも喰らえ、クズルーク!」

 ヌーイが放ってきたのは巨大な炎の塊だ。
 中級魔術。この第二学園では優秀なのは間違いない。
 けど、俺には通じない。
 右手に魔力を集め、小さく振るう。
 それだけで炎の塊は弾かれ、空高く飛んでいく。

「軽いな」
「なっ! 嘘だろ!?」
「次はこっちの番だ」

 この程度の敵に剣はいらない。
 俺は魔力を体全体に行きわたらせ強化を行い、地面を強く蹴る。
 一瞬でヌーイの背後に回ったが、それを視認できたものは一人もいないだろう。

「どこにいきやがった!?」
「後ろだ」
「なにっ――ごほっ」

 振り向くヌーイの顎に軽く掌底を放つ。
 それだけでヌーイは脳震盪を起こしたのか、目を回して地面に崩れ落ちた。
 俺の勝ちだ。

「冗談だろ、ヌーイが負けた?」
「てか、クズルークは何をしたんだよ、何も見えなかったぞ」
「何か卑怯な手を使ったんだろ?」

 やはり、俺が何をしたのか分かった奴はいないらしい。
 自分の体を鍛えることもない魔術師ばかりでは仕方ないだろう。

 さて、この後はどうするだろうか。
 この場の事態の収拾ではなく、力を得た俺がこの世界でどう生きていくかだ。
 向こうでは俺は勇者として、何をおいてもまず魔王を倒すために行動してきた。
 けど、この世界では違う。
 俺には何の使命もなく、好きなことを好きなようにしても問題ない。

「そうだな、まずは」

 今の俺の力がこの世界でどれほど通用するのかを確かめたい。
 第一学園、冒険者、騎士、多くの実力者と戦ってみよう。
 その後のことは、その時考えればいい。

「さあ、始めるか」

 こうして、俺の新しい人生が始まった。


――――

お読みいただきありがとうございます!
よろしければ、下の【お気に入りに追加】をポチッと押してから読み進めてくれると嬉しいです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

SSS級宮廷錬金術師のダンジョン配信スローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国領の田舎に住む辺境伯令嬢アザレア・グラジオラスは、父親の紹介で知らない田舎貴族と婚約させられそうになった。けれど、アザレアは宮廷錬金術師に憧れていた。  こっそりと家出をしたアザレアは、右も左も分からないままポインセチア帝国を目指す。  SSS級宮廷錬金術師になるべく、他の錬金術師とは違う独自のポーションを開発していく。  やがて帝国から目をつけられたアザレアは、念願が叶う!?  人生逆転して、のんびりスローライフ!

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

処理中です...