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鬼牙覚醒
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その頃まさに鬼灯の命脈を断とうとする雛多の凶刃を鬼灯は紙一重で回避できた。
「身体が...軽い?」
先程までの違和感が無くなり身体を自由に動かす事が可能となった。
「怪狸...失敗したか。」
ボソッと小さく舌打ち混じりに雛多が呟く。
「...という事は、八塩が勝ったのだな。」
怪狸の忍法が消える、それ即ち八塩が怪狸を討ち倒したという事実が鬼灯の士気を上昇させる。
しかし先程までに受けた傷は依然として残ったままであり眼前に立ち塞ぐ機械のような剣士・雛多を楽に突破などできる筈もなくただただ距離を取り鬼灯は出方を窺うのだった。
「俺も負けてはいられない...危ういところだったよ。
皆...聞こえてはいないだろうが、ね。」
鬼灯は懐から炸裂弾を取り出して前方に投げる。
眼前へ迫る炸裂弾を視認すると雛多は表情を崩さずに後退して距離を取り爆発から逃れ爆風の中から苦無が飛んでくると想定したのか苦無を弾く態勢を取るが爆風の中から現れたもの、それは鬼気迫る表情で忍者刀を構えた鬼灯であり咄嗟にガードをするも反応がわずかに遅れた刀では鬼灯に分があったのか容易にガードは崩されて雛多は忍者刀の一閃を腕に受けてしまい更に後退する。
「...成る程。でも、もう同じ手は通用しない。」
血が滴り落ちる腕を押さえ袖を切り巻き付けて止血をすると表情が変わり刀を鞘に納める。
「居合...?」
鬼灯がそう呟くと九字の印を結び内心で唱えると居合を想定した戦い方である異霊口寄、という術式を発動する。
この術式を発動したら特定の順に九字を唱え印を結び続けなければならない反面、異世界より強大な存在を召喚できる。
鬼灯がこの戦場に喚ぶのは異霊・憑神である。
憑神は異世界より開かれた黒い鳥居を通り抜け現界すると鬼灯と瓜二つの姿となる。
「...よぉ、兄弟。
しっかり唱えとけよ?その間にこの嬢ちゃんを葬ってやるからよ!」
憑神は低い男の声で喋るとニヤリと笑い鎖分銅を取り出して雛多へとそれを投擲する。
「何かと思えば...ただの分身か。」
案の定、目にも止まらぬ神速の抜刀をして鎖分銅を容易く切り裂くとその斬られた分銅がぬるりと姿を影で出来た狼の頭部に変わると再び雛多へと襲い掛かる。
「まぁ、そのくらいはしないとね...」
異霊による攻撃という点は把握していたようで噛み付いてくる狼の頭部を蹴り落とすと視線を憑神に向けるとその姿は無く代わりにツノが生え忍者刀を構えた鬼灯の姿があった。
「成功だな...憑神、それは私の魂を喰らう影の鬼。一体化する事を想定した異霊だ。
故に間を置かねば憑神と融合する事など不可能。
で、あれば視線を逸らさせるしか道はなくてな。
刀一つであれば、此方にもまだ機はある!」
鬼灯と憑神の声が重なりまるで同時再生したかのような声が響くと嵌められたという現状に雛多は舌打ちをするとボソリと呟く。
「下等流派め。」
憎悪を込めた言葉を言い終えると刀を納刀したままゆらりと立ち上がると次の瞬間には目の前に居り通り過ぎ際に一言「さっさと終われ。」と小さく吐き捨て鬼灯の右腹を切り裂いていた。
「......ほう?」
だがまるでその一撃を味わっているかのような言葉を返す。
「善い一撃だな。」
確かに鬼灯の表情は苦痛に歪み痛みを受けているのは明白だが雛多は何かの危険を察知する。
「何を、笑っている...?」
その疑問の答えは次の瞬間明かされる事となった。
斬った際に腹部から流れ出た血は雛多の刀に纏わりつき刃を蝕み錆へと変え、鬼灯自身から流れ出る血は異形の手となり蠢いていた。
「雛多、といったな...お前が相手にしているのは人に在らず!!
流派の名に冠した鬼の字を体現する忍、つまりは鬼であるという事をな...!」
自身の刀に纏わり付く異形の血を振るい斬ろうとするも上手く払えないと判断し刀そのものを手離した上で懐から短刀を取り出すと逆手に構える。
「刀が取られるなど、想定の範囲...鬼牙の当主。」
神速という他無い速度で鬼灯へと接近するも自らの血液が異形化した腕や斬撃、そして先程奪った雛多の刀を振るい接近を阻む。
そして鬼灯自身もまた忍者刀を使い応戦する。
「人ならざる奥義、これぞ鬼牙の極にして悪を誅する刃...雛多、忍としての道を断つならば命までは取らない。」
かつて雛多と歳近くも散って逝った同胞達の事が頭を過ぎるのだろう。
だが雛多は機械的な表情をしたまま返す。
「争いは無くならない...なら、僕は誰かが生きる為に振るう一振りの鋼となるのみ。」
斬撃の嵐を打ち払いながら鬼灯は静かにその言葉を受け止めると一言だけ「そうか」とだけ返して雛多を袈裟斬りに斬り捨てる。
人外、鬼と化した鬼灯には人である雛多の斬撃は見えていた。人では到底及ばぬ力を手にしており逆に人としての心が強く浮き出たのだろう。
その上で彼女を生かす道を模索した。だが、雛多は否定をしたのだ。
「...見事。でも悪は、争いは...消えない...。
僕は僕の意志を曲げない....絶対、に...」
冷えていき動かなくなる身体、それに抗いながらも雛多が最後に紡いだ言葉は決して折れず曲がらぬまさに一振りの刀のような自身の思いだった。
「...その折れぬ刀の如き生き様、私は忘れないよ。」
鬼灯は手を合わせる。自身が斬った相手、若くして闘う道を極め抜いた修羅への餞として。
そして進むべき道を見遣ると即座に駆け抜けるのだった。
「身体が...軽い?」
先程までの違和感が無くなり身体を自由に動かす事が可能となった。
「怪狸...失敗したか。」
ボソッと小さく舌打ち混じりに雛多が呟く。
「...という事は、八塩が勝ったのだな。」
怪狸の忍法が消える、それ即ち八塩が怪狸を討ち倒したという事実が鬼灯の士気を上昇させる。
しかし先程までに受けた傷は依然として残ったままであり眼前に立ち塞ぐ機械のような剣士・雛多を楽に突破などできる筈もなくただただ距離を取り鬼灯は出方を窺うのだった。
「俺も負けてはいられない...危ういところだったよ。
皆...聞こえてはいないだろうが、ね。」
鬼灯は懐から炸裂弾を取り出して前方に投げる。
眼前へ迫る炸裂弾を視認すると雛多は表情を崩さずに後退して距離を取り爆発から逃れ爆風の中から苦無が飛んでくると想定したのか苦無を弾く態勢を取るが爆風の中から現れたもの、それは鬼気迫る表情で忍者刀を構えた鬼灯であり咄嗟にガードをするも反応がわずかに遅れた刀では鬼灯に分があったのか容易にガードは崩されて雛多は忍者刀の一閃を腕に受けてしまい更に後退する。
「...成る程。でも、もう同じ手は通用しない。」
血が滴り落ちる腕を押さえ袖を切り巻き付けて止血をすると表情が変わり刀を鞘に納める。
「居合...?」
鬼灯がそう呟くと九字の印を結び内心で唱えると居合を想定した戦い方である異霊口寄、という術式を発動する。
この術式を発動したら特定の順に九字を唱え印を結び続けなければならない反面、異世界より強大な存在を召喚できる。
鬼灯がこの戦場に喚ぶのは異霊・憑神である。
憑神は異世界より開かれた黒い鳥居を通り抜け現界すると鬼灯と瓜二つの姿となる。
「...よぉ、兄弟。
しっかり唱えとけよ?その間にこの嬢ちゃんを葬ってやるからよ!」
憑神は低い男の声で喋るとニヤリと笑い鎖分銅を取り出して雛多へとそれを投擲する。
「何かと思えば...ただの分身か。」
案の定、目にも止まらぬ神速の抜刀をして鎖分銅を容易く切り裂くとその斬られた分銅がぬるりと姿を影で出来た狼の頭部に変わると再び雛多へと襲い掛かる。
「まぁ、そのくらいはしないとね...」
異霊による攻撃という点は把握していたようで噛み付いてくる狼の頭部を蹴り落とすと視線を憑神に向けるとその姿は無く代わりにツノが生え忍者刀を構えた鬼灯の姿があった。
「成功だな...憑神、それは私の魂を喰らう影の鬼。一体化する事を想定した異霊だ。
故に間を置かねば憑神と融合する事など不可能。
で、あれば視線を逸らさせるしか道はなくてな。
刀一つであれば、此方にもまだ機はある!」
鬼灯と憑神の声が重なりまるで同時再生したかのような声が響くと嵌められたという現状に雛多は舌打ちをするとボソリと呟く。
「下等流派め。」
憎悪を込めた言葉を言い終えると刀を納刀したままゆらりと立ち上がると次の瞬間には目の前に居り通り過ぎ際に一言「さっさと終われ。」と小さく吐き捨て鬼灯の右腹を切り裂いていた。
「......ほう?」
だがまるでその一撃を味わっているかのような言葉を返す。
「善い一撃だな。」
確かに鬼灯の表情は苦痛に歪み痛みを受けているのは明白だが雛多は何かの危険を察知する。
「何を、笑っている...?」
その疑問の答えは次の瞬間明かされる事となった。
斬った際に腹部から流れ出た血は雛多の刀に纏わりつき刃を蝕み錆へと変え、鬼灯自身から流れ出る血は異形の手となり蠢いていた。
「雛多、といったな...お前が相手にしているのは人に在らず!!
流派の名に冠した鬼の字を体現する忍、つまりは鬼であるという事をな...!」
自身の刀に纏わり付く異形の血を振るい斬ろうとするも上手く払えないと判断し刀そのものを手離した上で懐から短刀を取り出すと逆手に構える。
「刀が取られるなど、想定の範囲...鬼牙の当主。」
神速という他無い速度で鬼灯へと接近するも自らの血液が異形化した腕や斬撃、そして先程奪った雛多の刀を振るい接近を阻む。
そして鬼灯自身もまた忍者刀を使い応戦する。
「人ならざる奥義、これぞ鬼牙の極にして悪を誅する刃...雛多、忍としての道を断つならば命までは取らない。」
かつて雛多と歳近くも散って逝った同胞達の事が頭を過ぎるのだろう。
だが雛多は機械的な表情をしたまま返す。
「争いは無くならない...なら、僕は誰かが生きる為に振るう一振りの鋼となるのみ。」
斬撃の嵐を打ち払いながら鬼灯は静かにその言葉を受け止めると一言だけ「そうか」とだけ返して雛多を袈裟斬りに斬り捨てる。
人外、鬼と化した鬼灯には人である雛多の斬撃は見えていた。人では到底及ばぬ力を手にしており逆に人としての心が強く浮き出たのだろう。
その上で彼女を生かす道を模索した。だが、雛多は否定をしたのだ。
「...見事。でも悪は、争いは...消えない...。
僕は僕の意志を曲げない....絶対、に...」
冷えていき動かなくなる身体、それに抗いながらも雛多が最後に紡いだ言葉は決して折れず曲がらぬまさに一振りの刀のような自身の思いだった。
「...その折れぬ刀の如き生き様、私は忘れないよ。」
鬼灯は手を合わせる。自身が斬った相手、若くして闘う道を極め抜いた修羅への餞として。
そして進むべき道を見遣ると即座に駆け抜けるのだった。
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