夜潮外伝

黒焔

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決意、それは船出

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「無抵抗なら斬る事は無い。
海竜のジークヴァルド、お前さんが匿ってる者を差し出せ。
年寄りの頼みだ、聞いてやくれねぇかい?」

船首に立つ影。一振りの血塗られた長ドス。
比較的小柄な老爺、松ニ鶴の姿が其処に在った。

「....おいジジイ。誰の船にカチコミ掛けてやがるんだ?
誰の仲間を斬り、誰の仲間を差し出せ、と?」
そう問い掛けるジークヴァルドに対して三秒も経たず距離を詰めて悍ましい殺気を放ちながら松ニ鶴は答える。
「若造が。その図体で俺の剣に対応なんざ出来やしねぇだろ。力量を見極め振る舞う事こそ、修羅の道づの長生きに繋がるぞ。」
ジークヴァルドの眼にも見えた。今まさにこの老爺は自分の命をいつでも斬り裂けるのだと。
「黙れ老いぼれ!そんな事はどうでもいい、急に現れて喧嘩売ってきて偉そうに物を言うんじゃねぇ!!」
サーベルと爪が合わさった武器、蒸気爪プレシャス・スティールを大振りに振るうとその衝撃を感じ松ニ鶴が一歩下がりながら抜刀する。
「喰らいやがれ!!!!怒りの錨!!!!」
「遅い。力量、動き、全てが無謀で浅はかだな....昇陽流剣術・天閃、綿雲ノ型!」
プレシャス・スティールの重撃をふわりと躱し返しの一撃も難なく躱わすとジークヴァルドの頭部を目掛けて鮮烈な刺突を与えるが間一髪でそれは回避されそれは左眼を深く斬り付けはしたが致命に至る事は無くジークヴァルドは更に攻撃を繰り返す。
「痛ぇなクソジジイ!!!!まだ終わると思ってんじゃねぇぞ!!!憤怒の錨!!」
なんと片目の視界を完全に失いながらも松ニ鶴の追い討ちとも言える斬撃をギリギリで回避して見せ錨状の先端が射撃され鎖の鞭といった形となり松ニ鶴に襲い掛かる。
「読んでおるわ。戦歴が違う...あんまり戦場に生きたジジイを舐めねェ方がいいぞ、このクソガキが。」
憤怒の錨、縦横無尽に駆け回る鎖が敵を捕らえながらも全身に重撃を与え身体の構造を粉砕するジークヴァルドが海竜海賊団を率いるに相応しい技だが戦場に生きた年月の差かその攻撃は紙一重で躱され再び懐に入り込まれる。
「王手と行こうか。昇陽流剣術・天閃、雷雲ノ....っ!?」
ジークヴァルドに斬撃を与えようとする松ニ鶴の動きが止まった。
引き戻したプレシャス・スティールの錨状の先端と本体を繋ぎ止める鎖が松ニ鶴の刀を完全に絡め取りその重さで刀を引き抜けなくなっていた。
「....なんと!?」
「夜潮!!!!今だ!!テメェの力をこのジークヴァルド・プレジオスに見せてみやがれ!!!!」

その言葉を向けた先に居たのは何とか立ち上がりながらも三味線の撥を握り構えた夜潮。
深く息を吸った彼が放った演奏、それは昇陽に遥か古より伝わる三味線の調べ。
「.....撃滅浄瑠璃・昇陽叛逆節...!!」

ーーー♪
~~~ーーー♪
破ッ!!!!
ーーー♪
~ーーーーーー♪

激しく響き渡る三味の音色、放たれる風と振動による不可視の斬撃、無数の波状攻撃、そして松ニ鶴以外のその場に居る者達が聴き入る音色が攻撃となり老いた暗殺者を斬り刻む。
しかしそんな攻撃すらもこの老兵は耐え抜きあまつさえ自身の刀すらも取り返してみせたのだ。
とはいえ、老いた身体に戦う体力は残されてはいなかった。
「ッッ!!
ぐぁぁぁぁぁぁ!!!

く....!!いかんな...血を流し過ぎたわ....仕方あるまい、俺ももう隠居せにゃならんかのぅ....。

俺の負けだ...だが忘れるな?
松ニ鶴の名を継いだ者が必ず貴様の命を刈りに来よう.....さらばだ、生涯最後の怨敵たちよ。」

そう言い残し松ニ鶴は翼を広げると船上という戦場からハヤブサの獣人らしい速さで離脱した。

「あのジジイ...まだあんな体力があったのかよ。
クソ、片眼が完全にやられちまったな...。」

「アレもまた老獪な戦場の知恵...全力を使わずに生きる体力を残す。
本来ならまた命を狙う為だろうが、もう鶴爺にそんな余裕は無いだろうよ。
って、それよりキャプテン!」

副船長のスティングやジークヴァルドの妹レギンレイヴが逃げ帰る松ニ鶴を撃とうにも一向に当たらず完全に逃走を許してしまった。
そんな中、左眼から血を流すジークヴァルドを見た夜潮が駆け寄る。

「....気にすんな。お前は今日から俺の仲間(ざいほう)だ、命懸けで守るに決まってんだろ。」
ニッコリと笑うとジークヴァルドは首に巻いたスカーフを破り黒い眼帯にして左眼に巻いた。
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