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合間のおはなし

<合間のおはなし。-鞍馬と狭依、そして伊呂波①->

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【毘沙門家について】
 父と鞍馬と中学生の弟の三人家族であり、伊呂波の住むマンションの近くにある一軒家にて暮らしている。
 父は毘沙門家所有の道場で師範として門下生の指導を行ったり、近所の学校で学生の指導なども行っていて多忙なため、家事はおおよそ鞍馬が行っている。
 ちなみに毘沙門父と伊呂波の母親の宝は幼馴染であり、鞍馬の弟は現在反抗期である。

◆◆◆

 とある平日の休み時間。
 伊呂波は仙兄から呼び出しをくらって不在のため、俺は委員長と二人でちょっとした勉強会をしていた。

「……なるほど。ありがとうございます毘沙門君。とてもわかりやすかったです」

「役に立ってよかったよ。俺が委員長に教えられることなんて数学くらいしかないしな」

 さっきの数学の授業の内容で、ちょっとわからないところがあると委員長から質問されたために始まった勉強会。
 なるべく丁寧に教えられるよう心掛けたのだが、流石は秀才の委員長だけあり、ちょっと教えただけですぐに理解したようだった。

「そんなご謙遜しなくても……毘沙門君も成績いいじゃないですか」

 ちなみに数学に関しては昔からちょっと自信があるのだが、それ以外の教科では委員長に全然及ばないわけであるので、いつもは俺と伊呂波は教えてもらう側である。

「いやぁいつも委員長に勉強教えてもらってばっかだからな。少しはおかえしできたようならよかったよ」
 
「ふふっ、私の方こそ勉強以外でいろいろ教えていただいているんですから、少しは御返しできているのなら嬉しいんですよ?」

 委員長はよく笑うようになったし、そもそもの雰囲気や性格も以前に比べてとても柔らかくなった。
 俺ら以外にもよく授業のことを聞かれて教えているところを見るし、クラスメイトとも世間話なんかも普通にするようになった。

 そのきっかけは良い思い出ではないかもしれないけど、それでも伊呂波が委員長のために身を張った結果としては上等すぎるもんだろう。
 当の伊呂波は、今日も懲りずに仙兄に説教されたりしているんだろうか。

「伊呂波君も頼もしいでしょうね。毘沙門君といつも一緒にいるわけですし」

 伊呂波の席を見ながらふと黙った俺が何について考えてたのか察したためか、委員長は広げたノートをしまいながら伊呂波のことを話題に出してきた。

「そうかぁ?あいつの日頃の態度みてみろよ。俺に対して感謝とか信頼とか欠片も持ってなさそうだろ」

 目線を合わせた委員長は、俺の言葉を聞いてまたも愉快そうに笑った。

「感謝は……たしかにまぁちょっとなんとも言えないですが、信頼は確実にしていると思いますけどね」

「ならもっと俺への態度を改めて欲しいもんだ」 

「あはは……でも小さいときからずっと一緒なんですもんね。吉祥君も天邪鬼なところがありますし、きっと照れくさくて素直になれないだけですよ」

 ずっと一緒、か。
 親父と宝さんが幼馴染なこともあり、確かに伊呂波とは赤ん坊の時から一緒にいたらしいし、いまだって家族同然に過ごしているわけではあるが。
 
「そういえばお二人の昔のことって今まであまり聞いたことはなかったですが、小さい時から今みたいな関係なんですか?」

「今みたい?」

「よく喧嘩しててもなんだかんだ仲が良いっていうか、まるで兄弟みたいな感じと言いますか」

 昔の俺と伊呂波か。
 委員長の言葉でふと昔のことを思い出して、やはりいつも通りにちょっと苦い感情が顔を出して来た。

「……確かに伊呂波とは物心ついたときから一緒に居るが、ガキの時は今みたいにギャーギャー喧嘩することもなかったんだよな」

「そう、なんですか?昔はもっと普通に仲が良かったとか?」

 残念ながら、その真逆だ。
 そう言ったら、委員長はどんな反応をするだろうか。

 自分の後悔していることを話すことに多少の躊躇いもあったが、まぁ委員長なら良いだろうとも思った。

「いや、確かに小学校の低学年くらいまでは仲が良かった気もするが、三年生くらいになってからかな。俺は伊呂波にきつくあたるようになった。無視もしたし、結構ヒドイこと言ったりもしたなぁ」

「えっ!?毘沙門君が、ですか?伊呂波君からされたわけではなくて?」

 その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。
 委員長の中での俺と伊呂波のイメージは、いま俺のした話とは真逆なんだってわかったから。
 まぁ今の俺らの関係は、確かに委員長の印象通りなんだけど。

「あぁ、俺が伊呂波を、なんというかイジメていた。その頃は伊呂波を煩わしく思っていたし、あいつの言動にいちいち苛ついていたな」

「えぇ……今のお二人、というより今の毘沙門君を見てるとまったく想像できないのですが」

 委員長にそう言ってもらえるのはかなり嬉しかった。
 その頃の自分が嫌いだからこそ、変われるように意識してきたんだから。

「でもマジな話なんだよ。あんま面白い話じゃないだろうから、この話はここまでにしとくか」

「あっあの!もしよければ聞かせていただけませんか?もちろん毘沙門君が嫌じゃなければ、ですが」

 そう言った委員長の真剣な眼差しに面食らったが、それだけ俺らのことを知りたいと思ってくれているなら。
 懺悔だなんて殊勝な気持ちはなかったけど、これも自分のしたことの責任だし、俺のことってよりは伊呂波のことを知ってもらうって意味でも委員長になら話してもいいか。

 時計を確認し、委員長の理解力の高さのおかげで勉強会がすぐに終わったためか、休み時間の残り時間もまだ残されていることを確認して。
 俺は俺らの昔ばなしとやらを、委員長に聞かせてあげることにしたのだった。

◇◇◇
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