上 下
7 / 47

1-6 打つ手

しおりを挟む
「どこからも来んなあ」

夫君の言葉に、クリスの思惑は透けて見られていたらしいと知る。隠していた訳ではなく言わなかっただけだ。
なので平然と答えた。

「来ないようですね。」
「舐められておるなあ。」

言葉とは裏腹に、滲む音は楽しそうだ。クリスにとっては油断してくれるなら、その方が動き易い。
しかし、追撃も謝罪という名の“探りに来る者”もいないようだ。

誰かを、メイヤを送り込む事で“終わった事”と済ませる心算つもりか。

本当にそれだけなら、裏に誰もいないようならクリスにとって単純に解決するだけで良いのだ。メイヤにとっては今後を左右するほどの災難でしかないが。

「攻めあぐねてるかの?」
「どこから行くか、決めかねています。」


クリスは、勝てないとは言わない。
何を優先させるかで方法は決められるのだが、まだ動く時ではないかと思う。

正直、冒険者ギルドへの糾弾は簡単だ。冒険者に事実を流せばすぐ広まり、事実確認する者も増える。

そうすれば、ギルドの信用は下がる。他の冒険者も、『犯罪に関わる危険を含む依頼』を回される可能性があれば自分達の身も守れない。情報に敏感な冒険者から不満が出て、改善されるだろう。

そうなると、クランの方は被害を受けた方だと言って逃げるか?一緒に憤る方につき逃げ切るのだろう。
どうも、直情的に決めるクランだという印象になっている。事実、参謀の役目を担う者はいないようだと調べがついている。

「追い詰める方法は、ギルドとの癒着を示せる証拠がある場合のみ、かい。」

クリスは曖昧な笑みで肯定する。権力には権力を、強い方が勝つのが世の真理だ。

「勝てる術はあるのかい?」
情報を得たクリスは動く時を待ている。興味津々の夫君に、にっこりと応えた。

その余裕綽々な態度に、ため息を吐く。
「どう情報を得ているのか知らないが、あんたは物知りだもんなあ」

その言葉から、なにやら情報を集めてくれていた様子だ。メイヤを気にかけているのだろう。老夫婦ふたりとも、彼女を気に入ったようだ。

ほとんど部屋にいる私がどう情報を得ていると思っているのか?私の態度で納得する夫君もどうかと思うが。
私の秘密でもあるので、告げるつもりはない。危険はないので安心させたいのだが言葉にはしなかった。

それに、商人の情報網はどうなっているのだろうか。視線を投げると茶目っ気たっぷりに答えられた。

「元・商人だ。」

今は違うのだと強調されてしまった。近くに来たご婦人が微笑んで紅茶を出してくれた後、部屋に戻って行った。メイヤに部屋で編み物を教えているらしい。

リビングでは男2人。紅茶、干し芋とという組み合わせになったが手持ちの土産として情報料がわりにクリスは机に出してみた。

それを見つめ返し、手に取って齧る夫君が話を始めた。
「ここは、3つのクランが幅を利かせている。メイヤのいるとこはいい加減でなあ。」

この辺の情勢、詳しい話が聞けるようだ。

「トップが派手な男で、後は適当にやっとるクランでな。目立って問題は起こしとらんが、まあ評判はそこそこだな。人数で色々カバーしているから、粗が目立ってなー。」

名を上げようと、冒険者を片っ端から勧誘。団体で依頼を多く達成する。そのため、纏まりや命令系統が弱い。
一部が活動して名を上げれば、後は放置する気なのだろう。

緩い繋がりのクランならば、メイヤも思い入れがないかもしれない。
あの依頼の後、クランを訪れても門前払いの扱いだったらしい。関係ないという態度は冷たいが、切り捨てられたのは事実だろう。

その後戸惑っていたが、今は前向きな様子だ。冒険者としての活動をどうするか迷っているが、婦人が話し相手になって自ずと決まるだろう。そちらの心配はあまりしていない。彼女なら立ち直れると思う。


「後進の教育には、熱心さのカケラもないな。大体のクランでは生き残れるよう仕込むんだと思うんだが。」

スキルで選び、使えないと判断すれば依頼を回す事もない。それでも、単独よりは依頼を受けやすい
「この辺で名をあげて、街に出ていこうという気概なんでしょうか?」

「そうじゃな、クランの鍔迫り合いは街でのが酷い。」

メイヤも言っていたが、街に行けばそんなにクラン同士の争いが酷いんだろうか?
これは街に行くのは避けて、他に行くことを考える必要があるな。

「あんたもクランから、誘いがあったんじゃないか?」

クリスが思い出すと、冒険者ギルドのでの情報交換で奢った冒険者はクランの所属だけ言って特に深い話はしなかった。森の依頼での話や、異変のようなものの話が中止だった。

特に勧誘が強くあったとは言えない。

誘われた言えるのは、酒屋で誘いを受けただけだ。冒険者に見られなかった騎士さま故の扱いだったせいか、勧誘はない。

「私では役不足にようで、残念ながら」

「くくっどこかのクランに所属している流れの冒険者だと、思われたんだろうな!」

単独の冒険者がこんな町に長居する事はないし、強そうな目を引く男がまさかどこにも所属していないとは。

その結果、夜の誘いしかされていなかった。それもやんわり、断っていた。クリスの状況を解って、笑っている。

やんわり隠した、気づかないようにした事実だが。冒険者に見られていないのか。

呼び名通り、どこかの騎士が冒険者のフリをして移動しているとか。その辺だ。

そうなると、冒険者ギルドもクランも『どこかの騎士が偶然の不幸に見舞われた』で済ませられると踏んでいるのか?

『何か使命がある騎士が、些細な襲撃で刻を食うには行かないだろう。』

冒険者の依頼も受けているが、単なる旅の費用の補填のためととられているか。態々、この件で長居するとは思えない。そうやってクリスが標的にされたのか。

後腐れなく、ほどほどの相手へ嫌がらせ依頼。
人違いで襲われたのか、老夫婦のどちらかのことかと色々考えたが。

この状況を利用したのは誰だ?

クリスへの襲撃を依頼した者
それをどうにか受けたくてクランを利用したギルド員
クランはメイヤを切り捨てる事で、ギルドへ恩を売って依頼を回させる。

最初の依頼主の思惑が見えないが、私を標的にしたのは適当だった?
抗議だけで有耶無耶にするのが狙いか。明確な件になるのを恐れている訳だなとクリスは、結論づけた。

この一件が長引く事を厭い、すぐ居なくなりそうなクリスを無視してメイヤを除名する?
どう主張するかが、揺さぶりになるか。

「まあ、メイヤには向かないクランだなあ。まだ冒険者のイロハも知らんような新米だ。」

米?ここより北東に向かった国の穀物だ。

そこで出されている丼モノは、米と肉をのっけて出してくれる料理で、冒険者に人気だ。
腹持ちも良いし、肉だけでなく魚を乗せることもある。

(海鮮を食べに行きたいな)とクリスに欲が出た。

「この辺で米は食えますか?」
「ん?この辺じゃ、町周りの時に出店であった握り飯が美味くてなあ。」

「どこで食べられますか?」
「あー、ここらへんじゃ米がこなくてな。海が見える町まで行くしかないな。」

クリスの米の食事はしばらくお預けが決定した。
まあまだ、この町でやっておきたいことがある。


まずは冒険者ギルドへ
そこから、メイヤを連れてのクランへ訪れる事にするか。

引っ掻き回してみよう。何か釣れたら儲け物。
狙いはギルド員とクランのトップ。そこから依頼人も引きずり出せるか?


まだ接触していないクリスの存在が、きっかけにできると確信した。



夫君は、食べた握り飯の具材を思い出すのに考えを巡らせている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹
ファンタジー
南結城は高校の入学初日に、クラスメイトと共に突然異世界に召喚される。 異世界では自分たちの事を勇者と呼んだ。 勇者としてクラスの仲間たちと共にチームを組んで生活することになるのだが、クラスの連中は元の世界ではあり得なかった、魔法や超能力を使用できる特殊な力を持っていた。 しかし、結城の体は何の変化もなく…一人なにも与えられていなかった。 結城は普通の人間のまま、元の界帰るために奮起し、生きていく。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...