【長編・完結】300歳エルフは、まだ森には帰りませんよ。 〜目まぐるしく過ぎた日々と、お茶を飲むひと時を。〜

1-③

『この世界の成り立ち』
≪世界≫の創造から始まった。創造神が<太陽>、<月>、<星>を作る。

今は重なり、循環が途絶えた世界はかつて何処までも続く一つであったのだ。
ある時をキッカケに魔素の循環が絶たれ、精霊が管理する地に分かれた。


“安定した世界”を見届けた創造神は旅立っており、残ったモノは姿を変える。
魔素の循環を役目とする精霊が生まれていたが、後に。

神の姿を模した<人族>
力を模した<獣人族>
精霊から生まれた<妖精族>

精霊の治める地にそれぞれが住み、世界は広がっていった。

しかし、<去ってしまった神>を求め知識を探究し[塔]を築き上げた。
高く高く、深く深く。空を穿つ、地を貫く。

人々は、“神をも超えられる”と驕ってしまった。

それは傲慢で、世界を危うくしたため。[塔]は崩壊した。
世界は折り重なり、魔素の巡りは混乱した。

滞った魔素から、

かつて[魔術師]は<魔法>を使うようになり[力]を尊ぶ者も増えた。

[節制]をし、[悪魔]が堕落へと誘う。
[運命]は常に巡っていることを忘れたか？

地に棲んでいた精霊、その側に居た者達を治める者が現れる。

<足を掬われた男>は、[死]の訪れを畏れた

[審判]を受けた[隠者]は知識の探究を<魔塔>へと移す。

[愚者]と知ってなお、旅と自由の冒険へ

我らも[世界]の足跡を追え



『塔、世界、魔術師、節制、悪魔、運命、死、審判、隠者、愚者』
神話の福音。

「我々の生は、神の居なくなった世界、その深淵を探す旅の途中か。このミルフィーユのように」

アクレイオスは茶菓子として出された、ミルフィーユケーキを見ながら呟いた。

世界はバラバラになっては居ない。滞り、行き止まりができたがまだ繋がっている。それは、このケーキのように。

転移の魔法で行き来が可能になる。それもまた世界の形だ。


サクっとフォークでケーキを切る試みをするも、ポロポロと崩れてしまう。

とても美味しく洒落た構造の甘味だが、食べづらい食べ物。慣れない者へ出すのは控えたい物のひとつだ。それを含めて計算しているのだろうな、と思わせる前の席の座る子供。

「どうかしたの？」

ガブリと大部分を食べてしまっていた。

私に、貴族とのお茶会に招待状が届いた。

『見識の交換ができれば』

丁寧に綴られた、高価な手紙。その封蝋に、それだけの子とは思わない。

“[隠者]”
そう書いてあった文字に、最大の意味を込めてある。

“天上人”の存在を知る者。やれやれこの子は、どんな知識を望んでいるのだろう？

エルフの私に渡りをつけ、こうして対面まで漕ぎ着けた。

その手腕と知力を尊ぼう。彼が、傲慢に知識を振り翳さないように話し相手になれるだろうか？

彼とは、今後も交流を深める事となる。熱々の紅茶がとてもおいしかった。