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<竜の翼 編>

逆戻り

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「やっと会えた!」

とても嬉しそうな男性冒険者に、抱擁されている現在。熱烈な歓迎、その相手に欠片も覚えがない。
どなた様?と言えないのは、すごく密接していると話しかけられないからで。

「俺の唯一」

その声は、甘く多分恋人にでも囁くような熱さを含んだ。

(誰?)
ここで、離れ離れになった親族とかだったら感動な場面だろうけど、全くの初対面。
誰かの策略かと頭をよぎったものの、誘拐にしては凝った演出。

そして、まだ離してくれない。せめて誰か話してくれないだろうか。
いや、密着もちょっと照れ臭くもある。

保護者のガイサスと護衛のバリスが、駆けつけるまで待機だ。このまま移動するようなら水魔法をぶっかける!自衛として効果はイマイチだろうけど、抵抗するには虚をつける。

ギルド内は、なんだろう?と思うらしいが遠巻きに見ている。この程度の騒ぎは、騒ぎの範疇に入らないのかもしれない。

そうやってゆっくり観察する余裕はあるものの、理解は追いつかなかった。
抱きしめている冒険者が演技派すぎて、無下にもできない。

『生き別れの妹との再会場面』と説明されても納得できそう。全然似てない、珍しい翠色の髪の持ち主でも。

体格も良く、力強いが大事にされているとわかる力加減だ。

この優しく包まれていると錯覚する。このままで良いかもと思考がグラッと傾くのを止まる。
絶妙な力で拘束を逃れることも不可能。何より敵意を感じないが、意図不明。

そこに、第二の冒険者が現れた。

「何やってんだよ?」
「番<つがい>を見つけた。」

「ハア?!」

一際大きく発せられた驚く獣人の冒険者は、合流したガイサスとバリスに向き直り。

「とりあえず部屋に移ろうか?」と建設的な意見を言ってくれた。


私も、喋れるくらいには抱擁が緩まる。
「お話できますか?」

やっと声をかけられた。とても良い表情で肯定してくれたのだけど。
私は歩くことなくさっきの部屋に戻る。

結局、離してはくれないらしいけど。
理由の説明はあるらしいと、慌てる必要はないようで。

どさくさ紛れという言葉がある。せっかくなので優しく抱っこされた状況を楽しむ事にした。

赤ん坊以来、経験ない感触だ。体格も良く、ブレも不安定さもない。
何より、宝物のように扱われているようで少しまごついてしまう。

(良いなあ)

名前も知らない冒険者に、安らぎを感じる理由などわからないけど。部屋に着くまでは堪能する。
それを見透かされても構わない。

(部屋に入ればシャキッとするから。)

しかし、それは叶わなかった。
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