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<模索 編>

朝食の前に

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セリはするりと食堂に入り、水瓶を満たす。水汲みの手間は水の魔石で問題なくできるが量が貯められるのには時間がかかる。水魔法で片手間にすぐできるものだった。世間一般に比べればかなりの練度だがそれを認める者はいない。

“水の魔石より便利”程度だった。

小ぶりのナイフを手に取り、慣れた手つきで積んである野菜の皮剥きを始めた。下働きの仕事であるが人を雇っていないため、手伝いに入る。今は冒険者の手伝いも居なかった。

黙々と作業するため、会話が交わされる事もなく、人数の増えた食事を作る料理しているコック姿。
しかしセリに声がかけられた。

「ん?何でいるんだ。」

それに、気づいたのはバリスだった。視線があったものの頷き、作業に戻る。

「いやいや、おまっ…え、貴族の子がやる事じゃねえぞ?」
そう言っても、首を傾げただけで作業に戻る。あった野菜を全部剥いてしまった。それから朝食だ。

「って、体調は?もう良いのか」
「うん、ここで食べる。」

食堂に移動するセリの様子が、慣れた様子で自然な動きだった。食事を出すバリスが流れるように前の席に座り、話を聞く体勢になる。

「食欲はあるな?」
咀嚼していたため、頷いて答えるセリ。

その様子に何か飲み込めないような態度のバリスだが、仕切り直すように言った。

「おはよーございます。」
「お早う」

朝の挨拶からだった。
「野菜の皮剥き、いつもやってたのか?」
「やれる時には」

「次からは、そのままのにしといてくれ。新入りの仕事だし、手伝いの冒険者もいる。雇い主にやらせるのも、な。」

「刃物使う練習なの。まだ火も使えないし。」
「昼終わった後なら手伝うぞ?」

「じゃあ、クッキー作りたい!」
「ああ、良いが材料は…」

「用意しとく!黒胡麻の甘さ控えめのやつねっ」
「それは良いが。ダンマリだったのがよく喋るな、さっきまで眠かったのか?」

「キッチンは私語禁止」

「そっか。まあ料理人の城だからな」

会話もないくらいなんだろうか?ひと言もなく、顔を上げるでもないのが常であったらしい。
関係性が遠いと思ったが、俺とは話はした。セリだけ?

(なんかこの家って、この嬢ちゃんに冷たくないか?)

最初、坊ちゃんだと思って貴族の家の子だと知った。普通に考えて後継者で大事にされてるんじゃって思った。
女の子だと後継者扱いされないって感じじゃないし、そもそも当主がいないのはよく存続してんな。

結論大変そうと同情的に見ている。
「体調は大丈夫なんだな?」

お付きのメイドもなく。自分の事はする様子。

ちょっとほっとけない感じがしたので、出来るだけ構おうとバリスは決めたのだった。
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