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6歳

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翌日、考えすぎで頭が重い。珍しく降る雨を眺めながら、なんとか起き出して窓にへばりついて考え事。
(オジサマへ打ち明ける、どれくらい?)

“数年後の大規模な魔物の氾濫が予想できる”

これはボカした方が良いだろう。四家での合同作戦だ。情報を持ち過ぎていると、どこから得たとか根拠を求められる。オジサマには“精霊に教えてもらった”で納得してもらう事になりそうだ。

その場合、精霊に詳しい冒険者ギルド長はどうだろうか。

(私からボロが出る気がする。)

ミルクとクッキーで妖精に来てもらって、精霊に話を…って童話があったような。
あ~かんがえがっまとまらない!

バリスの作りるクッキーが頼めば食べれるかな。ハーブの入ったしょっぱいヤツ。木の実の入ったのを私が持ち歩くようになるのは、森に出ても良いと許可を得られてから。美味しいものを食べて考えたい。


のそりと別棟の方の食堂に来ると、冒険者の姿が多かった。記憶のどれよりも和やな一日だ。
「おはよ。」
「おう、あ?熱あるんじゃないかっ」

バリスのデカい声で、全員分の視線が来て少し驚くが、たまに出てたし。
「原因は知恵熱だろうなあ」

「小難しく考え過ぎると出るよな!寝とけって。なんか持ってくからよ」

既にコック姿の馴染みある格好で言った。バリスの性格は知っていたが、あとの2人とも冒険者だし馴染んでいる様子。

「で!蛾にやられたんだ。洗い流さなきゃ腕がダメになってた。ここでそーいうのを勉強できんのもいいかもな。」

「治療用の水か。」
「水魔法、使えんじゃん!」

上手く入っているように見える。監督できる冒険者が居てくれれば、安定して討伐と採取が進む。うちとしても歓迎。これから人が増えて、ここで冬を越える冒険者も居るようになって。若い冒険者がいっぱい来る時期もできる。

“私が居なくても大丈夫”

それが事実だと思った。自室に戻ってボーとベッドに座っていると、バリスが作って持ってきてくれたリゾットを食べ終えた。冷やす用水と飲み水。

「出そうか?」
「魔法もやめよとけ、おとなしく寝ること!」

本を読もうと思ったのに、遠くに置かれてしまった。取りに行くのも怠い。
(寝てるだけじゃ落ち着かないから、何かやれる事?)

魔導具の職人を雇えるくらいには、余裕がある。
冒険者との関係も良くなったから、有事に動きが選べる。

それで、私は…何をするんだろう?
冒険者でもなく、ヴェーネン家にいる仮の後継者。魔物の群れに臆せず指示が出せる者を求めているのに。

私に魔力はあっても攻撃力は期待できない。女の子に命令されたい冒険者は少ない、それってナイに近い。
求められてない。だって、『オマエじゃない方が上手くいく』から。

コンコンッ
「入って構わないか?」
「オジサマ」

上体を起こして、椅子を勧めた。仕事の合間に来てくれたらしい。瞳は心配気だ。


「セリュート、君はよくやってくれている。ここを任せられるくらいだ。」

様子を見に来てくれたらしい。熱はそれほど上がらないだろう。たまにあった事だから。
でも、頭が回らない。労われる言葉も何故だか心を通り過ぎてしまう。
見舞いに来てくれて嬉しい。褒めてくれる。

(でも欲しいのは違う物。強請るのとは違うと思うもの。)

「働き過ぎなくらいなんだ。自由である筈なのに。」

権力の譲渡もなく、義務を求められている歪さがある。それに応じる自身が異質だと、言われているようで…
「くらくらする。」

「すまない、ゆっくり眠りなさい。」

頷き、天井を見上げる。横にながら考えた。

冒険者になる。
それが目標でいい。12歳の仮登録で、仕事は受けられる。15で冒険者の一番下のランクになって。

たりないのかな?
権力お金、人脈でも求めてみる?

「考え事して、知恵熱。」

そうだ。考えたくない。1人、ベッドに沈んで眠った。
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