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3歳

◆運命が少し変わった者

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「この腕でツケなんてすぐ払ってやるよ!」

俺の決め台詞。
料理の腕と剛腕を自慢して、支払いをツケにしてもらう常套句だ。
冒険者で、3人で固定のチームを組んでいる。間抜けにも食い意地で治療を受けた男を茶化しに来ていた時。

変わった子供に話しかけられた。

俺をコックと呼び、明らかに冒険者装備の俺らを恐れなかった。冒険者の子供か?
水魔法を使って、給水して回っている。将来有望そうな幼い子供。転けないか心配になるが、足腰はしっかりしていそうだ。

(何であんな子供が?)

鱗粉を浴びたら、水で流す?

川があればやるが、わざわざ水魔法を使ってはやらないだろうな。魔力を温存するために、水を流しっぱなしに?
それなら薬師のところに駆け込んだ方が、良いんじゃないか?

2日で復帰した男とまた冒険に出た。討伐しつつ街から町巡っての旅暮し。
ずっと冒険者でいるつもりはない。オレはコックになると話はしている。ただ、先立つ物が必要で冒険者をしている。

そろそろ金も貯まってきているし、いつ頃解散するかはまだはっきりとしていないが。
いつかはそうしようと決めている。2人とも実家に帰るだろ。

「添い遂げるって決めた女ができたら、解散しようぜ!」
「いつになるんだよ、それ。」

「ジジイだな。そんなに待てないぞ。」

そんな教会での変な事も、思い出さないくらい経って。魔物の氾濫にかち合った。予定にはないが、緊急招集だ。
薬を持ち、討伐に出掛けた。

「虫かよ」

「顔よりデカい」
「サクッとおわらせよーぜ」

異常状態になりやすいのが厄介で、一旦戻った。中継地点で多くのチームが休息していた。


「うっせえなあ」
「何揉めてんだ?」

(丸聞こえだな。)

「魔法使いが水魔法が得意で、攻撃に使えないってキレている。」

「え、水飲み放題じゃん」
「攻撃に使わなきゃ良いのに」

給水魔法とさげずむやつが多いが、魔法の水は安心して飲める。味がまずい時もあるけどな。
あの差は魔力量なのか、質なのか。考えながら支給された飯にひと工夫。
「ほい、昼メシ」

「さすが、コック!」

腕力のあった俺。素材を取りに行けるし、後からでも鍛えられる。
稼いだ金を切り崩しながら、王都の店で修行させてもらおうかと考えている。


「まだ稼ぐぞ!」

虫の魔物は、数を捌かなきゃな。気合いを入れて出たが、集団に行き合った。なお悪く…

「なすりやがって」
「中継地点に行かないようここで始末するぞ」

負傷している者。初心者が多かった。あそこになだれ込ませちゃならねえ。


鱗粉がかかりまくり粉まみれ。痛みに呻いている仲間。腕の傷に鱗粉が入ったのが、まずそうだな。
ポーションをかけたが、痛みは続いている様子だ。

逃げるように散っていた群を確認して、撤退した。
中継地点に引き返し、治療に放り込んで問題の冒険者達の報告をした。

「ロイの手当てしてもらったが、やばい」

「なにか、できないか?」

普段冷静な方のスールも焦っている。
傷がかなり悪化しているらしい。腐食の効果があったか?少しナイフの刃が溶けていた。
空回る思考の中で、思い出したことがあった。

「<蛾の鱗粉>、<水魔法>!」

さっき見かけた、涙ぐんでいた魔法使いを視界に見つけ、気にせず魔法使いを引っ張り込む。
頼み込んだ。

今、ロイの傷を水魔法で洗い流し続けてくれている。

魔力ポーションを渡す。無茶言ってるのは自覚がある。でも、ロイの腕がなんとかなるかもしれない。
その一縷の望みにかけて、やってもらった。


結果、なんとかなった。医師から「これなら、問題なく治るでしょう。」と言われた。
ポーションは必要で、出費はあるものの俺とスールでなんとかできる範囲だ。
薬を塗り、治療をするため教会に世話になる。食い過ぎの時のように、横たわるが腕は痛々しく包帯が巻かれていたのがとれた。

「良かったな!腕、セーフだぞっ」

「あ~。今回は運が良かったぜ」


「ああ、あの時の坊主だな。カリは返さねえとな?」
教会で聞けばわかるだろう。お偉い坊ちゃんだったみたいだし。


この後、女の子と聞いて驚く俺だった。
ロイとスールは察してたってウソだろ、な?
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