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3歳

14-神童?

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「ただいま戻りました。」

執務室では書類の決済を続ける当主代理、ガイサス様。

ヴェーネン家の執事として、とても感謝しております。この方がいらっしゃらなければ、この家の存続は危ぶまれたでしょう。
先代が武力を重んじ方向性を変えた時から、他の家に吸収されるか傘下に入るのではと思われていました。

元々研究の役割を担っていた家が時代の変化に乗ると変わり始めてはいました。私は先々代様に報いるために、この家で骨を埋める所存でおります。
運命神の縁でサディスを後継に迎え、義理の息子を得るとは思いませんでしたが。仕事に真面目で有能ですが、あの子も難儀な性格をしています。屋敷の方々と交流して良い方に変わっていくと良いのですが。


「ご苦労だった。セリの様子は?」
「鳥の魔導具に触れてらっしゃって、本にもご興味がある様子です。」

「アレの娘か。本の虫、だが魔導具の扱いも学んでいた。魔術士として食っていけるくらいにな。」

あのまま魔術士として過ごせたなかったのは、あれの不運だろう。貴族の三男、年末に帰る事もなく、学院に入り浸っていた。社交も放棄して貴族ではなく、技術を求める一介の魔術士であれば。

これほどに、道を迷う事はなかったのだろうか。


「気になるのがセリ様は当主様への関心は薄い様子で。見つけた音声の魔導具をすぐ消すとおっしゃっていました。」

「子供は親を求めるのではないか?」

「記憶にも残っていない当主様でしょう。親子の情が薄いのは哀しい気持ちもありますが、健やかに育っておいでです。」

そうか。仕方ない事なのかもしれない。私達でさえ、一方的な手紙と金を送ってくれという内容で知るだけだった。

「お一人では心配ですが。サディスに時折、見に行ってもらいましょう。」
「ああ、そうしてくれ」

仕事に戻る。この書類を片付けなければ、セリの様子も見にいけない。

「グラウル、王都に居てもらう事になりそうだ。」
「ええ、わかっております。当主様の足跡を追わなければ。」

当主様は行方知らず。それでも金の決済や手紙を寄越していたが、わからなくなっている。

(何を探しているんだ?)
執着めいたものを感じる。魔導具を製作しているようだが、戻る気がないのか。

(それならここにある魔導具やらを持ち出しそうだがな。)

魔石、魔導具、本を売れば良い金になる。

(セリが居るのに。しかし、母親はわからない。)

「セリをどう思う?」


動き回る元気さと魔力の強さも素晴らしい。
「聡い御子様です。」

「後継に相応しいか?」
「私では分かりませんが、立派に勤められるかと。」


屋敷の者は不審の目で見ている。

“フツーじゃない”

水魔法。時折見せる子供には到底できない眼差し。


“魔物に憑かれているのでは?”

そんなバカな。


「給水魔法とさげずむものは、飲水で救われる状況を知らないんだろうな。」

冒険者を、騎士として王都にいた時期でも馬鹿にする者達はいた。砂漠地帯では『神の恵み』と言われるくらい希少なのに。

「あの男が、当主が腐ったのもそういった評価だろうか。」

執事の困った顔で、この家では武を重んじる方向に切り替えられた話を思い出す。

研究の役目より、実質的な力が必要だと当主の父親は考えたらしい。自身の命と長子、次男の大怪我を負う結果になったとしても。

「いや、あの男は前から変だった。」

王都で交流をもったが、研究ばかりで。魔物に詳しかった。辺境出身だと聞いて声をかけ、かけ続けてやっと話。

偏屈な者は、魔術士によくいる。

「ええ。お兄様達とは方向性が違いました。」

今後どうすれば良いのか先は見えない。ただ、次代に引き継ぐこと念頭に…

「ここを守るだけだ。」

当主に関わり、セリを預かった騎士として当主代理としての決心だった。
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