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芸人

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そろそろ花見の季節は終わりだ。

パッと咲いてパッと散ると言われるとおりに、緑色の若葉が出て来ていた。
初夏と言えそうな暑い日。

今日は、長屋で掃き掃除をしていたおすみ。
三ちゃんが高ところを拭き掃除している。


場所は、おすみの寝ているところの両隣り。
大家さんのところから1番離れた場所に、人が来るのだ。


もうひとつを掃除しているが、ここは物置きに使うらしい。
以前にもここ滞在したことがある男だ。

名前は貞吉。芸人をしている。
諸国を周り芸をみせる旅芸人だ。

旦那さんが知り合った人で、
大家さんと面会しても問題なし

この長屋の両隣りを借りる、常連だった。

「お狐さんの側の長屋ですと!?なんとます
縁起がよさそうな場所で」嬉々としてここに泊まる人だった。


もうひと部屋は、「旅の道具を置かせておくれませんか?」という申し出があった。
特に物も置いていないので、掃除をざざっとしおわっていた。

この場所なら楽器の練習もさせてもらえて
人の騒めきもなく、静かでとても居心地の良い時間が過ごせる。

隠居所のような閑静な周囲と、緑の多さに
この日差しが暑い陽気でも、風が涼しい。

「この辺はすでに桜が散っていますねぇ」
おすみがお茶を出し、引っ込んだ。

「そうですね。川を下るとまだ綺麗なとこもあるんですよ。
花筏になっていますよ。」

川面に止まった花びらが、敷き詰められた様子“花筏”と呼ぶ。
そんな季節の風景もあちこちに見に行ける、のんびりとした長屋だyた。

「いいですねえ。稽古の合間に行ってみますよ。

では今回もよろしくお願いします。」

こうして初夏を感じる頃には、春の興行がひと段落した貞吉が滞在する。
供を連れて来たり、見習いを呼んで世話をさせたりするので
大家の仕事はなく、隣人が増えるという印象だった。

ここで英気を養って、今度の旅へ出るまで
本格的に暑くなる前のは旅に出る。

それまでの滞在だ。

貞吉の一日は、

朝には、お狐さんへの御参りも忘れない。
たまにやってくる見習いさんたちが、社の大掃除まで手伝ってくれるので
有り難いくらいだった。

おすみではまだ小さく、三左も忙しいため年末くらいしかしっかり掃除ができない。


良い関係だった。

今回も腰を低く、おすみにも「よろしくお願いしますね」
と落ち着いた30の後半くらいの男が挨拶をする。


今回の見習いさんは、新顔のようで大家さんに挨拶している。
「話は聞いております。のんびりして行ってくださいね」


と言われ、早速荷物を長屋に入れている様子だ。

お狐長屋の初夏の風景だった。
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