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長屋の話

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それは、ひと言で言えば、変な処にある長屋だよ。

何が変かっていうと、四軒長屋とはよく言う、四軒連なった長屋のことを言うんだが、
それがポツンとあるんだ。

長屋と言えば、住人がひしめき合って住う処だろう?このお江戸で人ってのは集まって暮らしているわさ。
それが、四軒長屋が建ってるだけで、周りには人の住処はないんだよ。
ぽつーんと農家が遠目に見えるだけだ。

もっと変なのは、それがお狐様が祀ってある神社の側ってことだね。側にあるくらいなんだって話かい?
いやさね、あの四軒長屋は神社の敷地に建っているって話だ。

そんな長屋てえのは、あって良いのかね?
わたすには、わかんねえ。

けどな、そこには女がひとりで大家をしている。物騒だろと思うかい?あんたこの辺の人じゃないね。
あそこの住人に手を出す方が、物騒なことになるんだよ。

試してみるかい?
ふふふ。やめた方が良いよ。種明かしをすると、あそこの女は囲われ者らしいよ。
その旦那が持たせた家らしい。お狐様の近くっていうのもその旦那が用意した土地なんだろうね。

その大家の女の長屋に住みたいという人は、まあ居るねえ。なかなかの男好きする女だが、
手を出せば黙っていない手下の男達が出入りしているよ。そんな女に手を出す馬鹿がいるのかね。
まあ、今の長屋にはそんな輩いないよ。だってね、そこの長屋に大家以外に住んでいるのは
小さな娘っ子だけなんだから。

四軒長屋と言っても、住んでいるの二人なのさ。
住みたいって人間はたまにいるんだが、なんでか長居しないんだよねえ。

なんでか理由を知っているかい?

知っているなら、毎日お詣りしていく娘っ子に教えてやっておくれよ。
「なんでかうちの両隣りには、人が居つかないんだろう?」って聞いてくるのさ。


まあ、狐が答えるとは思っていないだろうが。
どうしてなのか。わたすも知りたいところだねえ。

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