上 下
5 / 20
剣の章

1-4 水鏡越しの会話

しおりを挟む
庭と言えば、迷路。土の道をのんびり歩いた。背の2倍に届きそうな緑の生垣。迷わず出られそうな予感。背より高い緑の木が続く。たまに薔薇が咲いていて、目を楽しませてくれる。綿密に計算されている創造物。

しかし、私の体力値を考えているわけがない。「疲れた。」簡単に脱出できると踏んでいたが誤算があった。頼りになる幼精たちについて行けば、出口など簡単にわかると思っていました。

(だけどね?あの子達はスルッと木の壁をすり抜けて向こう側へ行けるけど、私は無理なのよ。)ショートカットはできず、まじめに歩き回る。

ズルはできないようだけど、特に焦りもなく平らな土の道をのんびり散歩ができている。最悪、夕食の時に探してもらえるだろうと少し傾いた日差しを見た。まあそれもまだ時間があるとわかる。

この世界に時計はあるのかなあ。今日はこの迷路で、探索は終わりにしよう。夕食は美味しいものが食べれそうだと洋食のコースらしいものを想像する。

魔物の肉とか出るかな?見た目が美味しそうなら気負わず食べようと決める。ここの食事に慣れよう。そして機を見て料理しようと決める。異世界の料理に興味を持ってもらえ得るといいな。

そういえば、妖精や精霊は何か食べるのかな。イメージではお菓子だけどクッキーで試してみよう。甘い物で召喚とかあるかな。ミルクとクッキー?ハチミツとトーストだったか。そんなファンタジーを観たことがある。書庫で探してみよう。

異世界召喚の「ステータス」より興味がある。私は非戦闘員。生産チート目指して気楽に生きたい。そう、緑の囲まれた場所で、恵をいただきながらあのおばあちゃんの家での日々のように。

もうなくなってしまったものをまたなぞるように思い出した。


そうしていたら、開かれたところに出た。そこには東屋と涌いでる水、噴水があった。
「結構歩いたし、休んでいこう。」そう呟くと幼精たちもふわふわと漂い、待ってくれるようだ。良い案内人がいてくれて嬉しいよ。東屋のベンチに座れば日陰になっていないものの風が涼しく吹いた。その気持ちよさに目を細めて水の音を聴く。

幼精達も自由時間とばかりに近場を漂っている。私の休憩に付き合ってくれる、本当にいい子達だなあ。
ボーっと水の噴き上がるのを見ていた。


こんなにボーッとするのはいつぶりだろう?危機感のないと思うけど、他に何をすれば良いかわからない。それに、望んでいたことかもしれない。こうやって、人の目のないところでのんびり緑と風、温かな日差しの中のいる時間。どこへ探しに行けば良いのかもわからない私の理想郷。それがおばあちゃんの家だった。

おばあちゃんが引っ越すことになって、家を売るという話に、私が守る維持するとわがままも言えず。消えてしまった。美化した記憶だと言われても。私の望みはあそこにあったと思う。

そう願っている、今でも。

東屋の天井に目を移す。白の材質で植物の意匠が凝ったものだ。石膏?と考えたけど、異世界なんだから違うものかもしれない。どこかに魔法が使われていたっておかしくはない。
そう考えている私が可笑しい。浮かれてるなあ。目に写る全てが楽しく、まだ楽しみが続いている。
観光地で争いの様子もないこの地。人とはまだ数人しか会っていないけど。


どうなるかより、どんな場所か知るのが先決。という方針にしてネガティブに考えないようにする。ここを追い出されれば詰むとかね。

(そろそろ出発しようかなー。)伸びをして噴水をよく見ようと近づいた。噴水は水をやる用に設置してあったりして。溜まった水を覗き自分の顔を写す。朝よく見る顔だ。よく見た顔も、浮かれて楽しそうに見える。ふっと口角を上げたのに…

その顔が、笑ったままだ。


ビクッと私は跳んで、後退した。心臓の鼓動は跳ねてはいないけど、とにかくびっくりした。なんかいる!って気持ち。それが危険だとは思わないんだけど居てビックリみたいな?

ここは異世界。なんでもありならドッペルゲンガーもあり?いや別物の可能性が…。と思考はフル回転しているものも冷静に見えたようだ。

「驚かないの?」
「驚かせたいのね?」と言い返し、これは精霊だと思った。悪戯だから妖精かと思っても良かったと思う。けど、私は直感的に精霊だと分かった。

「アイ」それは私のこと。私の一部。

私の顔に聞いた。「あなたはだあれ?」
私の顔で答える「泉の精?」

そう言ったのは、あの最初の湖で長男様だ。他にも泉の精がいるかもしれない。会ったことがあるか聞こうか迷う。下手な事を言って、へそを曲げないかな?そう警戒していると相手から要望が来る。

「名前を呼んで?」

先程、古い本を読めた時のように名前が思い浮かぶ。
『“アクアクォーツ”?』水の”水晶“と思った名前を口にした。

「呼んだかいがあったわ!」
思った以上に喜ばれた。私がはしゃいでいる姿は異様なので、止めてもらいたい。

「泉の精?」呼びかけると

「それは、属性。」と声帯で発しているような声。けど私の顔から自分のものに戻したようだ。最初に会った存在。精霊と再び交信している。実際にこの水の中にいる感じではないからそう判断した。

「ねえ、なんで私をこの世界にわたりに呼んだの?」私を招いた精霊。その最初の記憶にある目の前の顔に疑問を投げかけた。
「あーそれはねあの子たちの伴侶を見つけたかったのよ。」

その答えに、厄介ごとの臭いがする。なら余計にいろいろ知っておいた方が良いだろう。”情報収集は必須!“と頭にメモった。トラブルは先んじて回避が信条。

(異世界を、ただ浮かれて観光する生活とはいかないようだ。観光は諦めていないけど。)
肩の周りただ精霊は私の味方らしく、その点に関しては安心材料だ。ただ精霊とは何んだろう?妖精は悪戯好きと相場は決まっているけど。

そして、「あなたの目的は?」シンプルに泉の精に聞いてみた。

「アイは、お婿さんが欲しいって願ったじゃない?」
「確かに。」婚活パーティーに参加中だった。おばあちゃんの家で暮らしていた時のようにのんびり、穏やかに、趣味を楽しみたい。そう願った。

パーティーにいた人達の自慢話に、その願いは叶えられそうになかったけど。

「あなたを選んだの。女王として3人を支えてあげて?」

…突然そう言われても困る。顔に出したけどそのまま話は進む。

「私の存在意義は、”この地を守っていくこと“かしら。生命があれば循環が起こり、精霊はあなたたちと言う生きている状態になる。そのため、その水がめぐりめぐって森に集まり集まりそしてまた私の中心へと集まる。いわばこの地が私達の揺りかご。

この家が私の子供であり、私の愛する土地。その子達の行く末が心配。今のあの子たちに必要なのは、伴侶よ。だからこの地に女王を招くことにした。私は願ったの『あの3人が傅く存在女王をここに。』ってね!」

「それで私が?」

「そうね。私が選んだと言うより、ここに流れ着いたといった感じかしら。詳しいことはわからないわ。だって私達はそういうものなんだからね。」

「私は元の世界の帰れるの?」

「わからないわ。私はあなたがこの世界に来た過程を知らない。結果しか知らないの。もちろん力自体は関係しているけど、貴女が元の世界に戻ることを私は望まないし、この地の妖精も精霊もそれを望まない。」

あなたにここにいて欲しいから。
あなたは望まないかもしれないけど、その気持ちは変えられない。
その気持ちが代えられない。

「私はあなたここにいて欲しい。」

精霊、アクアクォーツの存在とその希望はなんとなく語られた。けど私に何を求めているの?精霊と人の認識ってどれくらい隔たりがあるのかな。だって、3人の誰と伴侶にしたいんだろう?誰でもいいの?っていうかこれってお見合い??そんな困惑をよそに、

「あとは別に、楽しく生きて欲しい。」

さらっと告げられる。シンプルな要請。妖精の要請?…精霊だったわ。

「困ったことがあれば、水のあるところで呼んでみて。誰かが応えるでしょ」

「あなたは答えるわけじゃないのね?」
「私はあまり動くと周りが萎縮してしまうからね。なるべく泉を動かないのよ。」

親しみやすい性格のようで、警備面は頼れるだろうか。とにかく、この迷路を出たいのでお願いしたら道標を出してくれた。ぷかりとシャボン玉のように飛んでいく、水の玉の後について行った私だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるヒロインは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンや腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしヒロインはそれでもなんとか暮らしていた。  ヒロインの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はヒロインに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたヒロインは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 ※カクヨムにも投稿してます。カクヨム先行投稿。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※2023年9月17日女性向けホットランキング1位まで上がりました。ありがとうございます。 ※2023年9月20日恋愛ジャンル1位まで上がりました。ありがとうございます。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...