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偶然は必然

2. えええ……しゃちょー!!

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クビになると覚悟していた、あの岩手の出来事の後。

会社ではその常務取締役が失脚。
それを黙認し、裏で動いていた年配の秘書も減給の上、部署の移動を命じられたが、オレは直接関わっていなかったことでお咎めはなかった。
会社側からすれば、このことは常務取締役が勝手にしたことで、会社としては指示した覚えはなく責任はない。と言いたいところなんだろう。


そしてオレは今、富士城興産の社長秘書をしていた。

秘書課の中でトップの位置。
どうしてオレが抜擢されたのか……。
それは3代目富士城興産社長、宮城仁社長がまだ20代だからだろう。


先月富士城興産取締役会議において、突然降って湧いた社長交代劇。
29歳という若さで、実の父の不手際を吊るし上げ、取締役全員の後押しで社長の座へと座った。
それはまるでかつてのハヤの父現在のキャッスルプレス社長谷垣氏を彷彿とさせるものだった。

なぜオレが谷垣さんが社長になった経緯を知っていたか。

オレだって、ハヤの秘書になりたいとここまでやってきたんだ。
キャッスルプレスの歴史ぐらいは頭に入れてある。
ただ、谷垣氏の父が失脚させられた決定的な理由はいまいちわかんなかったけど……。


富士城興産本社社長室の大きなテーブルの前のソファにドカッと腰を下ろした宮城社長はスケジュール帳を開いたオレにクイッと指をさし一言いう。

「今日のスケジュールは……」

「はい、今日は横浜の大規模都市計画の説明会、午後からは都内で国交相の大臣のパーティーが入っています」

「わかった」

そしてテーブルの上にある資料を眺めた。


この横浜での大規模都市計画は、あらゆる業種の企業が参入することになり、富士城興産でも一部高層マンションを手がける予定になっている。
富士城興産にとっては、岩手での都市計画から外されたためそれ以来の大きなプロジェクトとなり、社長自ら動き、力を入れているものとなっていた。


横浜市の大きなホテルの会議室を借り切って都市計画説明会が行われたが、やはりキャッスルプレス系列の企業が主な部分を取り仕切っていた。
駅前開発、そしてその駅前にはキャッスルプレス系列の大型ショッピングモールが建ち並ぶ。

富士城興産はその駅前から離れた郊外のマンションと公園を手がける予定となっていて、貪欲に上を目指そうと張り切る若社長は、その図式に少々苛立っていた。

「くそっ!
俺もあと10年……いや、数年後には富士城興産をこんな企業グループにしてやるからな!!」

悔しさからか、爪を噛みブツブツと呟いている。

オレがいずれはそのキャッスルプレスの社長秘書になりたいと望んでいることは決して口外してはいけないな……。

我が社の都市計画担当部署の人間が宮城社長に気を使う中、オレはそんなことを考えていた。



その後、都内有名ホテルで国交省の大臣のパーティーへ出席した。
きらびやかなシャンデリアのある大広間で大手ゼネコンの重役たちや国交省の人間、その他各業種の大物と呼ばれる人がそれぞれに挨拶をし名刺交換をしている。
そこには先ほどの説明会に来ていた企業もずらりと顔を揃えていた。

その中で、一際目を引く長身の男性。
主催者である大臣ですら、腰を低く挨拶を交わしている。


……谷垣弘和、キャッスルプレスグループ社長。

相変わらずダークグレーのカールした髪はオールバックにきめ、シャンパングラスを持つ仕草もダンディズムを醸し出していた。

オレは会場内を見回す。手島さんの姿はなかった。
今日はお休みなんだろう……。
宮城社長の秘書になってからは、忙しくてなかなか手島さんとも会えないでいたので、すこしガッカリした。

宮城社長の視界にもすぐ谷垣氏が目に入ったのか、なんとその人盛りにまっすぐに向かっていく。

えええ……しゃちょー!!

まだ実績も無く就任したての若社長が、そんな人を掻き分けてキャッスルプレスグループの社長谷垣氏に挨拶に向かうなんて!!!

慌てるオレをよそ目にずいっと谷垣氏の前へと躍り出た。


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