94 / 100
12月
これから……
しおりを挟む「提出でございます。採点お願いします」
私は、夜寝ないで必死に向き合った問題達の書かれた紙を差し出す。
頭も下げて、気分は卒業証書を貰う感じだ。いや、貰うんじゃなくて渡したいんだけどさ。
丁度林と美鈴ちゃんが廊下で談笑していたから、いいタイミングだと思ったのだ。
談笑できるってことは、林が頑張ったってことで、結果は良いものだったのだろう。
いやー、良かった、良かった。
けど、ハッピーエンドを迎えたとしても、一瞬でも事態をこんがらがらせた私が美鈴ちゃんのところに堂々と行くのは憚れる。
なんだかこう、気まずいじゃないか。だからこそ林が一緒にいてくれて助かった。
話しかけやすくなるし、結果を聞きやすくもなる。一応直接二人の口から聞きたいもんね。あの後の、顛末を。
「橋本さん?採点って?」
「あ、それ……」
林はなんのことだかさっぱり分からないって声を出して、美鈴ちゃんは若干驚いているようだ。
私は頭を上げて、呆然とする林に説明してあげる。
「美鈴ちゃんがね、私にテストを作ってくれたんだよ」
「え、愛咲さん本当に?ダメだよ橋本さんに近づいたら。危ないよ?」
「どういう意味よ!」
危険人物みたいに言わないでよね。
林にはチョップの刑を執行してやった。
だから林は執行場所のおでこを押さえてやがる。ざまあみろー!
「で、受け取ってほしいんだけど……」
「浩平君大丈夫?!って、あっ。うん」
慌てて林のおでこに手を当てた美鈴ちゃんは、私がテストのルーズリーフを差し出すと、今度こそ受け取ってくれた。美鈴ちゃんは私と林のやり取りを見て、目を白黒させている。
一方の私はというと、このテストとは随分長く格闘したから、こうして渡すことができて達成感いっぱいである。
でも、そろそろ本題に入ろうと思うよ。
「それで、二人ともどうなったの?」
「えっと……、あの……、付き合うことになったんだ」
「おめでとう!」
「橋本さん、……なんだか色々ありがとう」
照れまくっている林は、顔を真っ赤にさせながらモゴモゴして聞き取りにくい声で言った。
特に最後の私への感謝の言葉など、周囲のざわつきにほとんどかき消されていて聞き取りにくいったらない。
告白練習の時の堂々とした林はどこに行ったんだか。
「ま、待って!」
「どうしたの?」
いまだ混乱気味なのが見て取れる美鈴ちゃんが、待ったの声をかける。
「告白の後で浩平君に聞いてはいたけど、実際に目にすると。二人の関係って、本当に……?」
「私と林は友達、だね」
「そうだね」
ライバルかと思っていた相手が、そうではなかったということはそんなに衝撃かな?
でも、私としては、そんなことよりも切迫して重要なことがあるのである。
「ってことで、林とは上手くいったんだよね?なら次は私の番だよね?」
「えっと、橋本さんそれどういうこと?」
林が不穏な空気を察してか、固い声で尋ねる。
だがしかし、そんな些細なことで私は止まらない!猪突猛進、良い言葉!
「美鈴ちゃん!」
林の横で、状況をなんとか飲み込もうと頑張っている美鈴ちゃんの手をとる。
「私と友達になって!仲良くなって!」
「そうだ!この人一番最初に会った時にそんなこと言ってた。あの時は今はダメって言ってたけど、仲良くなるタイミングって今なの?!愛咲さん、離れて。橋本さんは危ないよ。ストーカー気質だよ!」
「浩平君?というか、友達?どういうこと?」
カオス空間である。
私は美鈴ちゃんの手を握りしめたまま離さず、横からそれを解こうと林が奮闘している。
当の本人である美鈴ちゃんは小首を傾げて私を誘惑している。
ああ、可愛い……。
「林、邪魔するなー!」
「邪魔するよ。愛咲さんの危機だよ」
「私を何だと思ってるのよ、あんた」
「ふふっ」
言い争っていた私と林の横から、朗らかな笑い声。
二人してそっちを見れば、美鈴ちゃんが面白そうに笑っていた。久しぶりにこんな至近距離で笑顔を見たなあ。
「二人とも面白い。そっか、二人はそういう感じの付き合いだったんだね」
「そういう感じって、なんだか僕複雑な気持ちだよ」
ボソッと呟いた林を睨みつけた。
なんで複雑な気持ちになるのよ。意味わからないけど、いい意味じゃないってことは分かったぞ。
「勘違いしててごめんさない。でも勘違いを助長させてたのは、きっとわざとやってたんだよね?」
「うん、それは私もごめんなさい……」
わざと美鈴ちゃんを煽った自覚はあるし、二人の仲を引っ掻き回したのも事実。
美鈴ちゃん、許してくれる?
わざとだけど、悪意があってやったわけじゃないんだよ?本当だよ?
「ならお互いにおあいこだよ」
「それじゃあ……!」
パッと視界が明るくなったような気がした。
「これからは仲良くしよう、未希ちゃん」
「ありがとう!」
「愛咲さんが言うなら……。しょうがないなあ」
念願の、夢にまで見た、美鈴ちゃんとのお友達ライフ。
今、聞いた?!美鈴ちゃんの口から、未希ちゃんて、未希ちゃんって!
あまりに感激して、美鈴ちゃんの手を上下にブンブン振っちゃってるけど、嫌な顔しないんだよ。
心が天使か……。
それに引き換え、林は。
大変不本意って感じで呟いてたよ。
美鈴ちゃんの心の持ち様を見習え!
「このテストは採点しておく、ね……あれ?」
美鈴ちゃんが私がやってきたテストを見て不思議そうな顔をしている。
「これ、解いたんだよね?」
「うん全部一通り目を通して、考えて、諦めたんだ。私にはやっぱり難易度が……」
「どんな問題なの?」
美鈴ちゃんの手にある小テストには、答えが一つも書かれていない。
だって、一問も分からなかったんだもん!一晩掛けても、やっぱりできないものはできなかった。
林が横から覗き込むように、テストに目を通している。
「え、これ入学してからこれまでにやったはずの単元だよ?なのに一問も解けないって、橋本さん定期テストの時どうしてるの……?」
千香ちゃんと葵先輩に泣きついてどうにかしています、なんて言ったら怒られるよね。
うん、きっとに怒られるわ。
だって、それが証拠に美鈴ちゃんが下を向いて肩を震わせている。
それだけなら泣いているのかとも思うけど、美鈴ちゃんから「ふっふっふっ」と低い声での笑う声が聞こえる。
これ絶対に怒ってるって。
「ふふっ。分かったよ、分かった。高校レベルじゃなくて、中学レベルからいこう。私、橋本さんのレベルを舐めていたみたい」
「あの、美鈴ちゃん?」
呼び方が橋本さんに戻ってるんだけど。
それに、中学レベルってそのくらいなら私だって……!でき、……るかなあ?できるといいなぁ。
「みっちり、しっかり私が勉強を教えてあげるよ。覚悟して!」
「ひっ!」
美鈴ちゃんの目がキラーンと光った。
やっぱり美鈴ちゃん、勉強好きの勉強信者だ!
これは千香ちゃん以上のスパルタになるような予感がする……。
「はあ……。こうなると思ったよ。愛咲さん勉強好きだもんね」
「林!どうにかして」
「無理だよ。愛咲さん、こうなったら手をつけられないもん」
「そ、そんな……」
頼りになるかと思った林は、全然役に立たなかった。
「目指せ、学年一位だよ!」
「絶対無理!」
私は美鈴ちゃんと仲良くなれる、かな?
なんだかこのままだと、家庭教師と生徒的な関係になる気がする……。
どうしてこうなった!
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか。別に構いませんよ
井藤 美樹
恋愛
【第十四回恋愛小説大賞】で激励賞を頂き、書籍化しました!!
一、二巻、絶賛発売中です。電子書籍も。10月8日に一巻の文庫も発売されました。
皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
正直、こんな形ばかりの祝賀会、参加したくはありませんでしたの。
だけど、大隊長が参加出来ないのなら仕方ありませんよね。一応、これでも関係者ですし。それにここ、実は私の実家なのです。
というわけで、まだ未成年ですが、祝賀会に参加致しましょう。渋々ですが。
慣れないコルセットでお腹をギュッと締め付けられ、着慣れないドレスを着せられて、無理矢理参加させられたのに、待っていたは婚約破棄ですか。
それも公衆の面前で。
ましてや破棄理由が冤罪って。ありえませんわ。何のパーティーかご存知なのかしら。
それに、私のことを田舎者とおっしゃいましたよね。二回目ですが、ここ私の実家なんですけど。まぁ、それは構いませんわ。皇女らしくありませんもの。
でもね。
大隊長がいる伯爵家を田舎者と馬鹿にしたことだけは絶対許しませんわ。
そもそも、貴方と婚約なんてしたくはなかったんです。願ったり叶ったりですわ。
本当にいいんですね。分かりました。私は別に構いませんよ。
但し、こちらから破棄させて頂きますわ。宜しいですね。
★短編から長編に変更します★
書籍に入り切らなかった、ざまぁされた方々のその後は、こちらに載せています。
私はあなたの何番目ですか?
ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。
しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。
基本ご都合主義。R15は保険です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
今さら跡継ぎと持ち上げたって遅いです。完全に心を閉ざします
匿名希望ショタ
恋愛
血筋&魔法至上主義の公爵家に生まれた魔法を使えない女の子は落ちこぼれとして小さい窓しかない薄暗く汚い地下室に閉じ込められていた。当然ネズミも出て食事でさえ最低限の量を一日一食しか貰えない。そして兄弟達や使用人達が私をストレスのはけ口にしにやってくる。
その環境で女の子の心は崩壊していた。心を完全に閉ざし無表情で短い返事だけするただの人形に成り果ててしまったのだった。
そんな時兄弟達や両親が立て続けに流行病で亡くなり跡継ぎとなった。その瞬間周りの態度が180度変わったのだ。
でも私は完全に心を閉ざします
第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~
斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。
「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」
ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。
ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。
ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。
「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」
闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
気がついたら無理!絶対にいや!
朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。
そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・
やがてアリスは自分は上に立つ能力があると自覚する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる