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12月
保健医を含む大勢の敵2
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転ぶと思ったのに、その衝撃はやってこない。
どういうことだと現状確認をすれば、転ぶ原因を作った保健医が私の体を支えている。
お、天変地異の前触れか?
こいつが人を助けるなんて。
と、呑気に考えたのがいけなかった。
保健医は少し身をかがめて私の耳元に口を寄せると、誰にも聞こえないように囁いた。
「お前覚えてろよ。知っててずっと隠しやがって」
えー?!
気づかなかったの保健医じゃん。私関係ないじゃん。むしろ、私が手助けしたからこうなってるのに!
「感謝はしてやるが、それとこれとは別だ」
まるで鬼や悪魔のように尋常じゃない圧力をかけながら、保健医の口角がニヤーっと上がるのが横目に見えた。
機嫌は悪そうなのに、面白がるように笑ってやがる保健医の表情は表現しにくい複雑なモノである。
なんだか、今まで気が付かなかった自分が恥ずかしくって、その鬱憤を私にぶつけてスッキリしようとしているように見えなくもない。同時に、探し人が見つかった安堵や喜びも隠せてないような、色々混ぜ混ぜの顔。
「うち今日、橋本さんも一緒に来てくれたら嬉しい」
保健医がすぐ私の横にいるまま離れないから、璃々さんがそんなことを言った時に反応が遅れた。
呆けるように私は璃々さんを凝視する。
「三人でデートしようね?」
あ、ヤバい。この人は完全に私に小さなちょっかいを出して困らせたいだけだ。
本当は笑っていない笑顔で、当然行くよね?と如実に分かるような表情を浮かべる璃々さんに逃げ道がないことを悟った私。
ええっと。このままだと、璃々さんに小さな攻撃を受けながら、アイドル十和様のファンから向けられる視線に耐える苦行に参加しないといけない感じですか?
誰でもいい。誰でもいいんで、私を助けてー!!
心の大絶叫が届いたのか、私の耳に、また別の人の声が聞こえた。
「彼女との先約は俺だから、遠慮してもらえると嬉しいな」
この声はっ?!
そう思った瞬間に、保健医の位置がずれた。
否、保健医の横にいたはずの私の体が横へ引っ張られて誰かの胸の中へ飛び込んだ。
「あお、い先輩?」
「西川先輩?!」
私が声から判断して呼びかけるのと同時に、驚いた璃々さんの台詞と重なった。
「今日は俺が未希とデートだから、さ」
上を見上げれば、案の定葵先輩がいて。自然と体の向きを変えると、先輩の腕が私の体を離れた。
心の中で感謝をして救世主葵先輩の横に並んだ。
ちゃんと保健医や璃々さんからは距離を取っている。私だってちゃんと警戒できる子である。
でもさ、葵先輩。そんな約束してないよね?ここで本当のこと言っちゃうほど野暮じゃないけどさ。もうちょっといい救出方法なかったんですか?
この救出の言い訳のせいで、私は周囲からさらにチクチクと見られていることをちゃんと理解している。絶対に後ろを見たら大勢の女子に睨まれる。間違いないよ、これは。敵量産しなくてもいいじゃないですか。
そして一方で、なぜだか先輩は十和様に厳しい視線を送っている。
「そうか。なら残念だけど諦めるしかないね」
「本当にあの時言ってたことは正しいみたいね。うち、ちょっと疑ってたんだけどこれなら信じるわ」
上は十和様が葵先輩に向けて、下は璃々さんが私に向けた言葉である。
璃々さん、あの時ってどの時?疑ってたけど信じるって、どういうこと?言葉は詳しく説明してくれないと分からないですよ。と、私はクエスチョンマークだらけである。
「あと御堂先生。教師たるもの、生徒との行き過ぎた接触はよくないと思いますよ」
今度は先輩がさっき以上に鋭い視線を向けている。
せ、先輩。気を付けて下さいよ!あいつ本当にヤバい奴なんで。
怒らせると厄介ですよ!
と心で忠告をしてみるけど、体は葵先輩の背に隠れるように動く。あいつと対峙してはいけないと体が勝手に……。
「ほう。西川が出てくるとはな。そいつで遊んでいると本当に退屈しないな」
な、な、なんか言ってるよ?!保健医がヤバいって。
人間の調理法を思いついた悪魔みたいな顔しているけど。
しかも、先輩じゃなくて私を見てそう言ってるし。
なに?!私食われる系?やっぱり食人しちゃうくらいヤバい奴なの?!
「じゃあそろそろ行こうか、璃々」
「そうだね、十和」
恐ろしい雰囲気を物ともせず、十和様と璃々さんがのんびりと時間を確認しながら、移動を始めた。
この機に便乗すべきである。
「せ、先輩。私達も行きましょう!」
「うん?そうだね。未希、行こうか」
「じゃあな、橋本。次は絶対に保健室でお茶飲ませてやるよ」
保健医はニヤーっとした笑顔を保ったまま、後ろを向いて手を振る。
その声が、次こそ捕獲してやると言っているようで、思わず小さく身震いした。
ああ、十和様は幸せになったのに。終わったと思ったのに、私は今後も保健医から逃げ回る学生生活を送らないといけないらしい。
溜息を吐いた私。まだまだ前途多難である。
「葵先輩?」
正門を出た所で、私は先輩に思い切って疑問をぶつける。
「先輩も帰るんですか?」
てっきり私は困っている私を助けるために、葵先輩がウソをついてくれたのだと思っていた。
だから本当はまだ学校でやることがあるのではないか、と思っていた。
なのに、当然のように、靴履き替えてるし。当然のように私と並んでここまで来ちゃってるし。
「もちろん。約束はしてなかったけど、折角未希とデートできる機会だしね」
「はぁ……、そうですか」
デートって。
私と先輩でそんなことしたことなくね?
二人で出かけたことはあるけど、デートって言う?
いや、あれは家族お出かけだからノーカウントでしょう!
「甘い物が美味しいお店寄って帰ろうか」
「甘い物!はいっ、ぜひ」
あ、やっぱり、今日も家族お出かけですね。はい、分かります。
兄妹(偽物)でのお出かけをわざわざデートと変換してみせるなんて、葵先輩ちょっと寂しい人?なんて思っちゃったけど、甘い物食べさせてくれるっていうんだからそんなこと些事だよね?
多分、先輩も格好つけたいお年頃なのだ。
だから妹(仮)相手にも「デート」と見栄を張りたいのだろう。
うん、うん。私はわざわざそのことに気が付いてもツッコんだりしないですよ。安心して下さい。
私は寛大な心を持っていますから。
ところで。
寛大な心の持ち主の私の、胃も結構大きめなんですが、今日行くお店でいっぱい食べてもいいですかね?
どういうことだと現状確認をすれば、転ぶ原因を作った保健医が私の体を支えている。
お、天変地異の前触れか?
こいつが人を助けるなんて。
と、呑気に考えたのがいけなかった。
保健医は少し身をかがめて私の耳元に口を寄せると、誰にも聞こえないように囁いた。
「お前覚えてろよ。知っててずっと隠しやがって」
えー?!
気づかなかったの保健医じゃん。私関係ないじゃん。むしろ、私が手助けしたからこうなってるのに!
「感謝はしてやるが、それとこれとは別だ」
まるで鬼や悪魔のように尋常じゃない圧力をかけながら、保健医の口角がニヤーっと上がるのが横目に見えた。
機嫌は悪そうなのに、面白がるように笑ってやがる保健医の表情は表現しにくい複雑なモノである。
なんだか、今まで気が付かなかった自分が恥ずかしくって、その鬱憤を私にぶつけてスッキリしようとしているように見えなくもない。同時に、探し人が見つかった安堵や喜びも隠せてないような、色々混ぜ混ぜの顔。
「うち今日、橋本さんも一緒に来てくれたら嬉しい」
保健医がすぐ私の横にいるまま離れないから、璃々さんがそんなことを言った時に反応が遅れた。
呆けるように私は璃々さんを凝視する。
「三人でデートしようね?」
あ、ヤバい。この人は完全に私に小さなちょっかいを出して困らせたいだけだ。
本当は笑っていない笑顔で、当然行くよね?と如実に分かるような表情を浮かべる璃々さんに逃げ道がないことを悟った私。
ええっと。このままだと、璃々さんに小さな攻撃を受けながら、アイドル十和様のファンから向けられる視線に耐える苦行に参加しないといけない感じですか?
誰でもいい。誰でもいいんで、私を助けてー!!
心の大絶叫が届いたのか、私の耳に、また別の人の声が聞こえた。
「彼女との先約は俺だから、遠慮してもらえると嬉しいな」
この声はっ?!
そう思った瞬間に、保健医の位置がずれた。
否、保健医の横にいたはずの私の体が横へ引っ張られて誰かの胸の中へ飛び込んだ。
「あお、い先輩?」
「西川先輩?!」
私が声から判断して呼びかけるのと同時に、驚いた璃々さんの台詞と重なった。
「今日は俺が未希とデートだから、さ」
上を見上げれば、案の定葵先輩がいて。自然と体の向きを変えると、先輩の腕が私の体を離れた。
心の中で感謝をして救世主葵先輩の横に並んだ。
ちゃんと保健医や璃々さんからは距離を取っている。私だってちゃんと警戒できる子である。
でもさ、葵先輩。そんな約束してないよね?ここで本当のこと言っちゃうほど野暮じゃないけどさ。もうちょっといい救出方法なかったんですか?
この救出の言い訳のせいで、私は周囲からさらにチクチクと見られていることをちゃんと理解している。絶対に後ろを見たら大勢の女子に睨まれる。間違いないよ、これは。敵量産しなくてもいいじゃないですか。
そして一方で、なぜだか先輩は十和様に厳しい視線を送っている。
「そうか。なら残念だけど諦めるしかないね」
「本当にあの時言ってたことは正しいみたいね。うち、ちょっと疑ってたんだけどこれなら信じるわ」
上は十和様が葵先輩に向けて、下は璃々さんが私に向けた言葉である。
璃々さん、あの時ってどの時?疑ってたけど信じるって、どういうこと?言葉は詳しく説明してくれないと分からないですよ。と、私はクエスチョンマークだらけである。
「あと御堂先生。教師たるもの、生徒との行き過ぎた接触はよくないと思いますよ」
今度は先輩がさっき以上に鋭い視線を向けている。
せ、先輩。気を付けて下さいよ!あいつ本当にヤバい奴なんで。
怒らせると厄介ですよ!
と心で忠告をしてみるけど、体は葵先輩の背に隠れるように動く。あいつと対峙してはいけないと体が勝手に……。
「ほう。西川が出てくるとはな。そいつで遊んでいると本当に退屈しないな」
な、な、なんか言ってるよ?!保健医がヤバいって。
人間の調理法を思いついた悪魔みたいな顔しているけど。
しかも、先輩じゃなくて私を見てそう言ってるし。
なに?!私食われる系?やっぱり食人しちゃうくらいヤバい奴なの?!
「じゃあそろそろ行こうか、璃々」
「そうだね、十和」
恐ろしい雰囲気を物ともせず、十和様と璃々さんがのんびりと時間を確認しながら、移動を始めた。
この機に便乗すべきである。
「せ、先輩。私達も行きましょう!」
「うん?そうだね。未希、行こうか」
「じゃあな、橋本。次は絶対に保健室でお茶飲ませてやるよ」
保健医はニヤーっとした笑顔を保ったまま、後ろを向いて手を振る。
その声が、次こそ捕獲してやると言っているようで、思わず小さく身震いした。
ああ、十和様は幸せになったのに。終わったと思ったのに、私は今後も保健医から逃げ回る学生生活を送らないといけないらしい。
溜息を吐いた私。まだまだ前途多難である。
「葵先輩?」
正門を出た所で、私は先輩に思い切って疑問をぶつける。
「先輩も帰るんですか?」
てっきり私は困っている私を助けるために、葵先輩がウソをついてくれたのだと思っていた。
だから本当はまだ学校でやることがあるのではないか、と思っていた。
なのに、当然のように、靴履き替えてるし。当然のように私と並んでここまで来ちゃってるし。
「もちろん。約束はしてなかったけど、折角未希とデートできる機会だしね」
「はぁ……、そうですか」
デートって。
私と先輩でそんなことしたことなくね?
二人で出かけたことはあるけど、デートって言う?
いや、あれは家族お出かけだからノーカウントでしょう!
「甘い物が美味しいお店寄って帰ろうか」
「甘い物!はいっ、ぜひ」
あ、やっぱり、今日も家族お出かけですね。はい、分かります。
兄妹(偽物)でのお出かけをわざわざデートと変換してみせるなんて、葵先輩ちょっと寂しい人?なんて思っちゃったけど、甘い物食べさせてくれるっていうんだからそんなこと些事だよね?
多分、先輩も格好つけたいお年頃なのだ。
だから妹(仮)相手にも「デート」と見栄を張りたいのだろう。
うん、うん。私はわざわざそのことに気が付いてもツッコんだりしないですよ。安心して下さい。
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