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12月
私は学んだのである1
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林と恒例の図書館密会である。
周囲に人がいないのをいいことに、小声でにやけながら嬉しそうに話して聞かせるのは林である。
私はというと、図書館の窓の外を眺めていた。ああもう夕方か、空に星が出てきたなあ……。綺麗だな……。
「それでね、この前愛咲さんが行きたいって言ってたカフェに行って来たんだ」
「ふーん」
「その時にこの前橋本さんと行ったあのカフェの話になって、次一緒に行くことになったんだよ」
「へー」
「その流れで、橋本さんの話になったんだ」
「んー、……っお?!」
「だから橋本さんがあんまり勉強できないってことを教えたら、愛咲さんがちょっと――」
「何言ってやがるのよっ!」
林の胸倉掴みかかる。
途中から林の話聞いてなかったよ。というかさっきまで全然聞く気もなく適当に相槌売ってたよ。
だって林の惚気、長いんだよ。何時間話すつもりなのって感じで。
HRが終わってからずっと話聞いてたっていうのに、もうすぐ図書室の閉室時間である!いい加減にしろよって気分はとうの昔の過ぎ去って、もうどうでもいいって悟りの境地の気持ちであった。
だからか?!だからその仕返しに嫌がらせのつもりなのか?!
なんか私の名前が出てきたと思ったら。
よりにもよって、どうして。なんでその話をするチョイスをしたんだ。
林、お前私に何か恨みでもあるのか?!
勉強ができない?アホ?
そうだよ。私は確かに西川兄妹に助けてもらわないと毎回のテストを乗り越えられない子だけどさ。
でも、とっても良い人なんだよ、とか、友達になるといいことあるよ、とかそういうことを吹き込んできて欲しかった。
「は、橋本さん。ここ図書室だから。落ち着いて。静かにして」
「あぁ?!」
「できれば、手も放してほしい……」
捨てるように林を離す。
ちょっと林の背中の向こう側に、図書委員の姿が見えたせいである。姿を見なくちゃ思い出さないくらい、頭の中ですっかり忘れていた存在の図書男である。
誰も来なかったらもっと締め上げてやったのに!
「もっとマシなこと美鈴ちゃんに教えてよ。どうしてそんな話してきたわけ?」
「だって、この前英語の小テストのこと愛咲さんに教えてたでしょう?そのこと覚えてたらしくって、その流れで……」
「けっ」
やさぐれた気持ちになって、私は林から視線を外した。
この前のテストは私の中では良い点数だったのに。
いや、まあ。世間では低いってことは知ってるよ?
千香ちゃんは隠すことなく馬鹿にしてきたし、葵先輩は苦笑いしながらもっと頑張ろうねって言ってたし。
誰も私を褒めてくれないんだよ!
誰か私の喜びを一緒に共有してくれたっていいじゃないか。
「あっ、でも愛咲さんが橋本さんの予想以上の頭の悪さに同情して、もう使わない参考書をあげようか悩んでたよ」
「え、本当?!」
美鈴ちゃんが使ってた参考書……。
美鈴ちゃんが触った物。美鈴ちゃんが勉強してた物。美鈴ちゃんのお家にあった物。
クンクン匂い嗅いで、ナデナデ撫でまわして、スリスリ頬擦りしなきゃ!
「まあきっと危ないことになると思って、僕がそれは止めたんだけどね」
「はあ?!何してんのよ!」
胸倉リターンズ。
「は、離して……」
思い切り林を前後に振り回してから解放した。
このくらいの八つ当たり許されるでしょ。まったく余計なことしかしない奴め。
「けどもしかしたら愛咲さん優しいから勉強教えてくれるかもよ。……まあ、橋本さんにとって良いか悪いかは別にして」
「そうか、そうだね!そうだよ、美鈴ちゃん優しいもんね!私に勉強を教えるうちに……、仲良しになって、いつの間にか大親友。へへ、えへへへ。うっへっへっ」
「橋本さん、ここ図書室なんだって!静かに」
おっと、いけない。笑い声がいつの間にか大きくなってしまっていたようだ。
でも、勉強で近づく仲……。悪くない。
というかなんだか学生らしくて、青春っぽくていいんじゃない?
そのうちテストの点数で勝負とかしちゃってさ。きゃー、想像したら楽しみになってきたー!
「はっ!そういえば」
続きは家で妄想して楽しむとして。
林に聞きたいことがあったのである。
「林、いつ美鈴ちゃんに告白するの?」
「へ?告白?」
十和さまと保健医の関係を後押しした日の夜、思ったのである。
好いた人同士、想いが繋がっているなら付き合って、カップルになるのは自然な流れだよな、と。
むしろ十和さま達のように長く想い合うと、こじれることの方が多いのではないかと気が付いてしまったのである。
であるならば、傍目で見ていても両想いの林と美鈴ちゃんはさっさと付き合うという段階に突入しても問題ないのではないか、と思ったのである。
「は、は、橋本さん。な、何をい、言ってるの?」
「動揺しすぎだよ。落ち着け、林」
「こ、こく、告白って、な、何を」
「ほら、深呼吸して。吸って、吐いて、吐いてー息止めてー」
深呼吸もどきを促して、林を落ち着ける。
さっきの急激な挙動不審からやや落ち着きを取り戻したように見える。
ちょっと涙目のような気もするけど、平気だろう。あ、息止めるのそろそろ止めていいと思うよ。
「で、話を戻すけど。もう今月にはクリスマスもあるし、タイミング的にはちょうどいいのかなと思って」
どういう偶然か、ゲームの中で攻略対象が告白してくる日もクリスマスだったはずだし。
「ぼ、僕は。折角仲良くなれたし、彼氏彼女とか興味はあるけど、今のままで十分でいうか……。告白とか、そ、そんなことは考えたことなかったというか……」
語尾が弱くなっていく林の言葉をなんとか聞き取る。
モジモジしている林の表情を見る限り、本気で今のままで十分だと思っているようだ。
「ふーん」
林がそれでいいというならそれでも私は構わないと思う。
……なんて言うと思ったか!
甘ったれるな。
元々こじれまくってて、私が引っ掻き回したせいでもっと絡まりまくった事例があるのだ。私は懲りたのである。
片思い期間が長くなると事態は面倒くさくなることは、もうそのことが証明している。何もしなくたってきっと自然とこじれてくるんだ!もうあんなにこんがらがった事態に巻き込まれるのはご免である。
だから、私はそんなに悠長に待つつもりなどない!
ふっふっふっ。
私が林のためにもう一肌脱いでやろうではないか。
といっても、良い作戦なんかないから、そのあたり大募集してまーす!
宛先はこちらまで!
周囲に人がいないのをいいことに、小声でにやけながら嬉しそうに話して聞かせるのは林である。
私はというと、図書館の窓の外を眺めていた。ああもう夕方か、空に星が出てきたなあ……。綺麗だな……。
「それでね、この前愛咲さんが行きたいって言ってたカフェに行って来たんだ」
「ふーん」
「その時にこの前橋本さんと行ったあのカフェの話になって、次一緒に行くことになったんだよ」
「へー」
「その流れで、橋本さんの話になったんだ」
「んー、……っお?!」
「だから橋本さんがあんまり勉強できないってことを教えたら、愛咲さんがちょっと――」
「何言ってやがるのよっ!」
林の胸倉掴みかかる。
途中から林の話聞いてなかったよ。というかさっきまで全然聞く気もなく適当に相槌売ってたよ。
だって林の惚気、長いんだよ。何時間話すつもりなのって感じで。
HRが終わってからずっと話聞いてたっていうのに、もうすぐ図書室の閉室時間である!いい加減にしろよって気分はとうの昔の過ぎ去って、もうどうでもいいって悟りの境地の気持ちであった。
だからか?!だからその仕返しに嫌がらせのつもりなのか?!
なんか私の名前が出てきたと思ったら。
よりにもよって、どうして。なんでその話をするチョイスをしたんだ。
林、お前私に何か恨みでもあるのか?!
勉強ができない?アホ?
そうだよ。私は確かに西川兄妹に助けてもらわないと毎回のテストを乗り越えられない子だけどさ。
でも、とっても良い人なんだよ、とか、友達になるといいことあるよ、とかそういうことを吹き込んできて欲しかった。
「は、橋本さん。ここ図書室だから。落ち着いて。静かにして」
「あぁ?!」
「できれば、手も放してほしい……」
捨てるように林を離す。
ちょっと林の背中の向こう側に、図書委員の姿が見えたせいである。姿を見なくちゃ思い出さないくらい、頭の中ですっかり忘れていた存在の図書男である。
誰も来なかったらもっと締め上げてやったのに!
「もっとマシなこと美鈴ちゃんに教えてよ。どうしてそんな話してきたわけ?」
「だって、この前英語の小テストのこと愛咲さんに教えてたでしょう?そのこと覚えてたらしくって、その流れで……」
「けっ」
やさぐれた気持ちになって、私は林から視線を外した。
この前のテストは私の中では良い点数だったのに。
いや、まあ。世間では低いってことは知ってるよ?
千香ちゃんは隠すことなく馬鹿にしてきたし、葵先輩は苦笑いしながらもっと頑張ろうねって言ってたし。
誰も私を褒めてくれないんだよ!
誰か私の喜びを一緒に共有してくれたっていいじゃないか。
「あっ、でも愛咲さんが橋本さんの予想以上の頭の悪さに同情して、もう使わない参考書をあげようか悩んでたよ」
「え、本当?!」
美鈴ちゃんが使ってた参考書……。
美鈴ちゃんが触った物。美鈴ちゃんが勉強してた物。美鈴ちゃんのお家にあった物。
クンクン匂い嗅いで、ナデナデ撫でまわして、スリスリ頬擦りしなきゃ!
「まあきっと危ないことになると思って、僕がそれは止めたんだけどね」
「はあ?!何してんのよ!」
胸倉リターンズ。
「は、離して……」
思い切り林を前後に振り回してから解放した。
このくらいの八つ当たり許されるでしょ。まったく余計なことしかしない奴め。
「けどもしかしたら愛咲さん優しいから勉強教えてくれるかもよ。……まあ、橋本さんにとって良いか悪いかは別にして」
「そうか、そうだね!そうだよ、美鈴ちゃん優しいもんね!私に勉強を教えるうちに……、仲良しになって、いつの間にか大親友。へへ、えへへへ。うっへっへっ」
「橋本さん、ここ図書室なんだって!静かに」
おっと、いけない。笑い声がいつの間にか大きくなってしまっていたようだ。
でも、勉強で近づく仲……。悪くない。
というかなんだか学生らしくて、青春っぽくていいんじゃない?
そのうちテストの点数で勝負とかしちゃってさ。きゃー、想像したら楽しみになってきたー!
「はっ!そういえば」
続きは家で妄想して楽しむとして。
林に聞きたいことがあったのである。
「林、いつ美鈴ちゃんに告白するの?」
「へ?告白?」
十和さまと保健医の関係を後押しした日の夜、思ったのである。
好いた人同士、想いが繋がっているなら付き合って、カップルになるのは自然な流れだよな、と。
むしろ十和さま達のように長く想い合うと、こじれることの方が多いのではないかと気が付いてしまったのである。
であるならば、傍目で見ていても両想いの林と美鈴ちゃんはさっさと付き合うという段階に突入しても問題ないのではないか、と思ったのである。
「は、は、橋本さん。な、何をい、言ってるの?」
「動揺しすぎだよ。落ち着け、林」
「こ、こく、告白って、な、何を」
「ほら、深呼吸して。吸って、吐いて、吐いてー息止めてー」
深呼吸もどきを促して、林を落ち着ける。
さっきの急激な挙動不審からやや落ち着きを取り戻したように見える。
ちょっと涙目のような気もするけど、平気だろう。あ、息止めるのそろそろ止めていいと思うよ。
「で、話を戻すけど。もう今月にはクリスマスもあるし、タイミング的にはちょうどいいのかなと思って」
どういう偶然か、ゲームの中で攻略対象が告白してくる日もクリスマスだったはずだし。
「ぼ、僕は。折角仲良くなれたし、彼氏彼女とか興味はあるけど、今のままで十分でいうか……。告白とか、そ、そんなことは考えたことなかったというか……」
語尾が弱くなっていく林の言葉をなんとか聞き取る。
モジモジしている林の表情を見る限り、本気で今のままで十分だと思っているようだ。
「ふーん」
林がそれでいいというならそれでも私は構わないと思う。
……なんて言うと思ったか!
甘ったれるな。
元々こじれまくってて、私が引っ掻き回したせいでもっと絡まりまくった事例があるのだ。私は懲りたのである。
片思い期間が長くなると事態は面倒くさくなることは、もうそのことが証明している。何もしなくたってきっと自然とこじれてくるんだ!もうあんなにこんがらがった事態に巻き込まれるのはご免である。
だから、私はそんなに悠長に待つつもりなどない!
ふっふっふっ。
私が林のためにもう一肌脱いでやろうではないか。
といっても、良い作戦なんかないから、そのあたり大募集してまーす!
宛先はこちらまで!
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