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11月

私が差し出す新たなルート1

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それは突然。

「ちょっと来てほしいの。いいよね?」
「え、ちょっ!待っ」

突然現れた璃々さんに拉致された、麗らかな放課後。
誘拐事件発生。


「この中で十和が待ってるからね」

うふふと笑う璃々さんに、質問したいことはたくさんあった。てかさ、説明ゼロだったんだけど。
何事なの?!
連れて来られたのは視聴覚室。

えっと、なんでこんな防音設備バッチリの場所で待ち構えてるんですかね。
お願いだから、説明プリーズ。
璃々さん、分かってて何も言わずにここに連れてきましたよね。確信犯ですよね?ね?!

訳が分からない私に、璃々さんが一瞬真顔になって囁いた。

「十和があなたと話したがっていたの」

私は感情が読めない璃々さんの瞳を覗き込んだ。

「だからうちがセッティングしたの。十和は結構前から待ってるから早く行ってきてくれるよね?」

扉を開け放ち、璃々さんは私の背中を思い切り押す。
私はつんのめるように視聴覚室に入ることになったのである。というか、体勢を崩してそのままべチャっとこけた。
同時に扉が閉まる音と、後ろで押し殺したように笑う声が聞こえた気がした。


「璃々?――いや、未希ちゃん?!大丈夫かい?」
「はい、一応。なんとか」

十和様は扉のすぐ前で倒れた私に目を丸くした。
そりゃそうだよね。普通こんな登場の仕方する人いないだろうし。
その上、これは璃々さんが勝手にしたことみたいだから、十和様も預かり知らぬことに違いないのだ。
だから私の登場も予想だにしないことなのだ。

「わたしは璃々を待っているはずだったんだけどな。これは璃々が仕組んだことなのかい?」
「そうみたいです、ね」

さすが、友達歴が長いだけある。
私の登場に、推理したらしい。名探偵である。

「全く困った子だ」

全然困ってるようには見えない微笑ましい顔をして十和様が苦笑した。

「手を」

転んで、視聴覚室の床に座り込んでいた私に、十和様が手を差し伸べる。
素直にその手に自分の手を重ねると、十和様が私を起こすのを手伝ってくれる。
ありがたや。

と感謝したのもつかの間、十和様は私の手を離さない。

「え、っと。手?」

なぜ繋いだままなのでしょうか。

「未希ちゃんとは話がしたかったんだ。それに、コレのお礼もしたくてね」

私の手を握る方とは逆の手で、十和様がポケットから取り出したハンカチ。
私が林と行ったお店で、お菓子と共に買ったものである。
真っ白の布に、真っ白の糸でされたある花の刺繍。端にはレースがあしらわれた真っ白の可愛らしいハンカチである。
私がこの前、十和様にプレゼントしたもの。
私の記憶が確かなら、こういうハンカチだったはずなのである。まあ全く一緒ではないけど、雰囲気はこんなんだったはず。

「聞きたいことがたくさんあるんだ」

十和様が私に詰め寄る。

「私も言いたいことがたくさんあります」

逃げ場は、ない。
といっても、もう私には逃げる気もない。私が運命を捻じ曲げるのだ。
璃々さんにいきなり連れて来られたから、まだ覚悟は形成できてないんだけどさ……。ちょっと、五分くらい時間作ったりしませんか……、って、しないですよね。はい。

「それはちょうどいい。ならゆっくり話をしよう」
「正直に、腹を割って。ですよ?」

私は十和様の素直な気持ちが知りたいのだ。ゲームではなくて現実の十和様の。
だから、そう付け足した。

「いいだろう」

十和様が身を翻して、視聴覚室にある身近な椅子の一つに腰掛ける。

「まず、君は何者なんだい?」

私はあえて椅子には座らずに、部屋の中をゆっくり歩く。
そうでもしないと、十和様の眼圧に委縮してしまいそうなのである。チキンと言うことなかれ。
ちゃんと顔は十和様の方を向いているから問題ない、はず。

「私は……女の子の味方です」

べ、別に焦り過ぎて答えに困って、咄嗟に言ってみたわけじゃないよ。ほ、ほ、本当だからね?!
目が泳いでる?気のせいだとオモウヨ。

十和様は小さく笑ってから、困った顔をした。

「ははっ。じゃあ質問を変えよう。一体何を知っているんだい?」

十和様にも私の焦りがバレてたらしい。少し雰囲気が和らいだ。

「色々と知ってますよ」

ゲーム知識だけど。

「もちろん、保健医の探し人の正体も知っています」
「それは!」

十和様が身を乗り出す。
きっとこれが最も関心のあることだと思ったから言ったけど、反応を見るに間違っていないようだ。

じゃあ、ルート崩壊のカウントダウンを。
全てのネタバラシを始めましょう。


「十和様が、学園でアイドルを演じるのは保健医のためですよね?」
「どういう意味かな?」

素直にって言ったのに、十和様はとぼける気満々らしい。
まるで挑発するように、私に話の先を促す。

「一応、憎らしいことに保健医は世で言うイケメンというやつです。そのために、女の子が保健医に好意を寄せる」
「確かに朔兄はモテるね」
「でも、保健医には長期的に付きまとう女子はいない」

現に、今までだって保健室で何度も保健医と私が二人きりになるという大変ありがたくない事態が発生している。
普通なら保健医目当てに仮病なりの理由を付けて、入り浸る女子がいてもおかしくないのに。

「それは、定期的に十和様が保健医の周囲にいる女の子を虜にしていくからです」
「随分買いかぶってくれるな。わたしは女だよ?それ程の魅力はないよ」
「いいえ。十和様には魅力がある」

いつかに見たように十和様は保健室に足を運んでいる。それも定期的に、何度も。
優しくない保健医より、親身になってくれる優しい十和様。女の子がそうなるのは自然なこと。
そうやって十和様の虜になった集団が親衛隊。それを纏めるのが親友の璃々さん。

「最初私にやりたいようにする、と言ったのは私も保健医に惹かれる女子だと思ったからですよね?」

一応、先輩は私が探し人かどうか確認を取った。

「十和様は、保健医の探し人が保健医に相応しいと思っているから、それ以外の女子を引き受けるんですよね?保健医があまり女子を好いていないから」

探し人をずっと求める保健医をずっと知っている十和様。
だって、二人の出会いは仲の良い母親同士の紹介であったはずだから。地元の友達同士の母親は、ご近所の友人宅で自分たちの子供を紹介し合った。

「特に、保健医は女の子らしい女の子が好きじゃない。だから探し人以外は保健医に近寄らせないようにしている」

実際にアイツ思い出話している時に、当時のオレが嫌いそうなフリフリって言ってたしね。
保健医は乙女らしい恰好や小物が嫌いだったのだ。
それを考え改める機会になったのは、きっかけになったあのハンカチの少女のおかげなんだけど……。

「ははっ。すごい推理力だね」

少しだけ顔色を悪くした十和様が力なく笑ってみせた。


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