上 下
75 / 100
11月

野暮ったい少年改造計画1

しおりを挟む
「また猫背になってる!」
「は、はい」

林の大改造計画、決行中だ。

今日なんとかしようと思っているのは髪と眼鏡、それに服だ。

だって今日の林を見てほしい。
変わらずボッサボサでのっそり量がある髪の毛。絶対に手入れやセットしているわけじゃないのに、過剰に盛ってしまったかのような髪の厚みがある。その上眼鏡が半分埋もれるほど鬱陶しく伸ばされているのだ。
間違ってもカッコイイなんて言葉とは無縁だし、外見に気を配っているなんて口が裂けても言えないと思う。

服はいつも通りどこで買うのか逆に疑問になるデザイン。
なんで今から改造して外見大改革を起こそうとしているのに、『退化こそベスト!』と書いてあるTシャツを着ているのだ。
退化してどうすんだよ!進化しろ、前進しろ!

で。
まずはさっき眼鏡をコンタクトにしてきた。

私は眼科の待合室で待っていたんだけど、林が診察室の中で「目に入れるなんて怖すぎる!」「これを入れるの?!」と情けないことを言っている声が時折漏れてきていた。
でも、なんとか根性でコンタクトを装着できたようだ。眼科で貰った処方箋を出して、すぐにコンタクトも貰えたみたいだし。

全部終わって出てきた時にちょっと涙目だったけど。
このくらいでへこたれられると困るからね。まだまだ改造はこれからなのである。

で、今は美容室に来ている。
今まで髪は適当に近所のお婆ちゃんが経営している床屋に行っていたと聞いて、これからはもうちょっと若い人が切ってくれる所に変えろ!と指示を出した。
だってそのお婆ちゃん、野暮ったい今までの林ヘアーか、坊主頭かの究極の二択しか注文可能な髪型がないそうなのだ。そんな床屋があってたまるか。そんな髪型固定専門店は認めないぞ!

で、今回は学校の最寄り駅の前のキラキラした美容室に連れて来てみたんだけど、林の顔色が若干青い。
とりあえず、鏡の前に座らされてどんな髪型が良いかヘアカタログを美容師さんが持ってきてくれた。
のだが、座っている林の背は丸い。

「まだ背筋直ってない!」
「はいぃい」

林が涙声だって?
私には聞こえない!

林の言葉に耳を傾けたってどうせ無意味なのである。
ここに入る前だって、
「こんなキラキラしているところに、僕が?む、ムリだよ。っていうか世界が違い過ぎて恐い……」
だとか、
「髪型?選べるほど種類があるの?え、カットの仕方?僕ワカラナイヨ……、お願いだから日本語喋って……」
だとか、そんなことばかり言っているのである。
というか、髪型の種類が少ないと思ってたのは間違いなく今まで行っていたお婆ちゃん床屋のせいである。

この様子では、林がどの髪型だとか選べるはずもない。
私は仕方なく溜息をついて、助け船をだしてあげる。

「どういうイメージの人間になりたいか伝えて、具体的なことはお任せにしたらいいんじゃない?」
「は、橋本さんスゴイ!そうだね。わかったよ」

私の言葉に目を輝かせた林は、拙いながらもなんとか言葉を紡ごうとしている。

「えっと、ですね。イメージは……」
「ああ、もう!清潔感がある髪型でお願いします。あっ、初心者でも髪型のセットがしやすい感じで」

いつまでも決まらない林の代わりに私が横から口を出す。
林に髪型のセットなんてできるはずもないから、そういうのが簡単な髪型にしてもらいたい。
切ったはいいけど、寝癖爆発してそのまま学校に来る、なんて事態は避けたいのである。

「かしこまりました」
「えっ?えっ?」

話についていけない林が目を白黒させながら、笑顔の美容師さんに連れられ店の奥へ。シャンプーしたり色々あるのだろう。
え、林の情けない声?聞こえない、聞こえない。
私は雑誌でも眺めながら、終わるまで待つとしよう。そう思い、小さな待合スペースに腰掛けた。


「おおっ!おう?んん??」
「何その微妙な反応……」

やっと林の髪型がスッキリした。
といっても、なんだかなぁ。コメントしにくい。

林は決してイケメンではないのだ。地味顔というか、平凡というか。
そんな男が頑張ってコンタクトに変えたところで、眼鏡という印象がなくなって、さらに記憶に残りにくいのっぺり感を演出してしまっている。強引に変更させた私が言うのはどうかと思うけど、派手な眼鏡をかけさせた方が印象に残りそうである。
で、トレードマークと化してる野暮ったさに磨きをかけるノッソリヘアーがなくなるとどうなるか。

結論として、清潔感は増した。髪がスッキリして野暮ったくはなくなった。
でも印象に残るパーツが全部消えたのである。

「ま、いいか!」
「え、なんだか今絶対に考えるのを放棄したよね?え、僕変?髪型おかしいの?」

開き直ることにしようと思う。
林は髪が減ったせいで視界がひらけて落ち着かないようで、前髪をなんとか引っ張って伸ばそうとしている。
目元の印象は随分変わったようにも思う。だって長い前髪は無くなったし、コンタクトにしたし。
ちゃんと目が見えるってすごいよね。意外にも林の目は二重だってことも分かるようになったし。

「大丈夫、大丈夫。前よりはいいとオモウヨ」
「なんだか棒読みなんだけど」
「さあ、次行こう!」

林の目標は、美鈴ちゃんと並んでも胸を張れるようになることだ。
印象に残りにくくなっても、林が自信を持てるようになれたなら、それで成功なのである。少なくとも前の林よりは美鈴ちゃんの隣にいてもマシになってきているんだから大丈夫、大丈夫。前のと比較するなら、今の方が絶対にパッと見たときの印象は良い。
美鈴ちゃんがこの変身した林を見て、特徴あるパーツの減少を嫌いにならないことを願おう。……野暮ったいフェチなんてことはないよね?ね?!

予定では次は服のセンスを磨くことだ。
ということで、適当に男子のファッション誌を買ってどこかの店で読もうと思っていた。

でもさ、私思ったんだけど。
この特徴がなくなってしまった林から変なファッションセンスまで取ってしまったら、なんにも残らなくない?
あれ?この計画って進める程にどんどん印象に残りにくくなっている?

私は足を止めて、小さく両手を胸の前で組んだ。

美鈴ちゃん、影うす少年が透明少年になって、空気と一体化を始めても、見捨てないであげてね。
一応林がこんなに頑張っているのは美鈴ちゃんのためなのだから。
私ができるのはこうやってちょっと祈ることだけである。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

処理中です...