上 下
50 / 100
8月

願い事はただひとつ 2

しおりを挟む

さて、花火でハッチャけた。
めっちゃ、面白かった!さすが、量がたくさんあるセットなだけに、大満足である。

両手で花火を持ってクルクル回してみたり、片手に二、三本の種類の違う花火を持ってカラフル花火を楽しんだり。花火の火を、次々花火に移していって、ロウソクまで火を付けに行く手間を省く自分ルールを作ってみたり。

って、あれ?
そういえば、キャッキャしてたの私だけ、かも?千香ちゃんと先輩は端で静かに花火してたような……。
見て見て!って言って色々見せたけど、その時も一本ずつやってた。

あ……。もしかして、私またやらかした?
プールの時と同じ失敗をしたのかも。
もうー!私ったら、どうして同じ失敗をしちゃうの。学習能力ってものがないのかー?!

自己嫌悪と反省の気持ちに落ち潰されそうになった、今。
楽しいことほどすぐに時間が過ぎてしまうものである。
残っている花火は線香花火だけである。さすがに、これは振り回したりしない。
だからこそ、冷静になって、己の失敗を悟ったのだけどね。

「未希、急にどうしたのよ?さっきまでうるさすぎるくらいだったのに、黙り込んじゃって」
「騒ぎ過ぎて疲れたかな?」

バケツ周りにいた西川兄妹の言葉である。
やっぱり、私だけ盛り上がってると思ってたらしい。

ここからは、私だってちゃんと一本ずつ花火を楽しんでやるんだから!
ここからといっても線香花火だけしかないし、本来は一本ずつが正しい遊び方なんだけどさ。

「線香花火するわよ」
「うん!」

手渡されるのは、さっきまで振り回していた花火より、細く頼りない線香花火。
自然と、ロウソクを中心にして三人が輪になってしゃがみ込む。

「あ、そういえば。こんな話があるよね?」

線香花火をなんとなく眺めていた時に、パッと思い出した噂話。
誰から聞いたのかも覚えてないような、どうでも良い話だけどさ。

「線香花火の火を下に落とさないで、火薬全部を使い切ることができたら願いが叶うって」
「そんなの迷信だわ」
「こら、千香」

バッサリ斬ったのは、リアリスト千香ちゃんである。
私だって、本気で本当に叶うなんて思ってはいない。でも、私は迷信とか都市伝説は信じたほうが面白いと思うのだ。

「分かってるけど、この最初の線香花火だけは、三人何かお願い事をしながらやってみない?」

どうせ、まだ何本もあるのだ。だから一本くらい試してみたっていいと思う。
途中で落ちてしまっても、叶わなくても、こういうおまじないはやっている最中が楽しいのだから。

「面白そうだね」
「一本だけならやってもいいわよ」

「なら、せーので一斉に火をつけよう。せーの」

私の掛け声と共に、三人ともロウソクに花火の先を近づける。
パチパチと小さな火が線香花火の周りで踊り出す。

「落ちたわね。あっ……」

一番先に落ちたのは葵先輩だった。
そのすぐ後に千香ちゃん。葵先輩のを指摘してる時に無情にも落ちた。信じてないなんて言ったのに、残念そうに眉を下げている。

無言の中、私の線香花火の先に視線が集まる。
落ちるかと思ったのだけど、大きく丸くなった赤い火の玉はそのまま落ちることなく、静かに輝きを失った。

「未希は何を願うんだい?」
「えへへ、秘密です」

私の花火の最後までを見届けた後は、残りの線香花火を楽しんだ。

その中で、葵先輩が聞いた質問。私ははぐらかした。
千香ちゃんも聞き出そうと尋ねてきたけど、なんとか口を割らなかった。私、よくやった!
多分、無意識なんだと思うけど髪を耳にかき上げながら質問してきた時は、思わず答えそうになったよ。夜の暗さの中、ぼんやり照らされてる千香ちゃんってだけでも綺麗で困るのに。ぐっとくる仕草は反則である。


私の願い。絶対叶えたい願い。
それは、ずーっと変わらないままである。

美鈴ちゃんと仲良くなってキャッハハウフフすることである。
そのために頑張ってるのである。だから絶対に……。


しおりを挟む

処理中です...