16 / 100
5月
感想を交換してください
しおりを挟む私には、最近密かな野望がある。
聞いて驚け!
それは図書室の漫画を全部読破してやろう!というものである。
え、ショボイ?
失礼な。ここの漫画が何冊あると思っているんだ。
時間に余裕がある時には、なるべく図書室に来るようにしている。
はじめは私が真面目に本を読んでいるのだと思っていた千香ちゃんが、実は漫画を読んでただけだと知ると呆れかえっていた。
それでも、放課後に何度か私と一緒に図書室に付き合ってくれる千香ちゃんは優しい。
そして漫画を楽しむ私の横で難しい本を読む文学少女を、漫画そっちのけでウットリと見入るのだ。
だから千香ちゃんがいると、漫画があんまり進まない。悩ましいことである!
本日も目標のために、手に汗握りながら漫画を読書中である。
今日は用事があるってことで千香ちゃんがいないから、進むペースも早い。
ただし、心の中は寂しさいっぱいである。ああ、千香ちゃん……。
寂しいけど……、悲しいけども……。
千香ちゃんはいないけど、私には美鈴ちゃんもいる!
そう、漫画ばかりに気を取られてるが今日は美鈴ちゃんが図書室に来ているのだ!
張っていた甲斐がありましたぜ!
ヘッヘッヘ。
林という協力者を得ても、私が私で情報を集めることを止めたりはしないですよ!
美鈴ちゃんも私の心のオアシスだからねっ。
図書委員であり、攻略対象の緑士はカウンターで仕事をしている。
貸出だったり返却の受付をしていて美鈴ちゃんと絡む余裕はまだなさそうだ。
それなら、まだ漫画に集中してても平気だよね。今こっち、いいところだからさ。
「緑士先輩、お疲れ様です」
そんな小さな声が聞こえて私は顔を上げる。
いつの間にか、カウンターが空いてるっ!
気づかなかったよ。
「ありがとう」
カウンターの外側には美鈴ちゃんが、内側には緑士が向かい合っている。
「この前教えてもらったこの本、すごく面白かったです。全然次の展開が読めなくってハラハラしました」
「楽しんでもらえて良かった。僕も美鈴ちゃんに教えてもらった本読んだよ。あの作品いいねぇ」
ゆっくりした口調でニコニコの緑士は、私が気づいた時には美鈴ちゃんのことをサラリと名前呼びしていた。
思い返せば初対面の時に、自分のことを名前呼びにさせたのだから意外とやり手なのかもしれない。
葵先輩、負けないでね!
しかも、美鈴ちゃんも図書室にはよく来るようで、多分攻略対象の中で一番会う頻度が高い。私がいない時でも、会っていることがあるらしいのだ。
そのせいか、互いに自然と名前呼びしていて親しくなってやがるのである。
葵先輩は美鈴ちゃんとまだ全然親しくなれてないのにー!やばいよ、危険だよ。
仲の良い二人はいつも互いが勧めた本の感想について話をしている。
私にはチンプンカンプンなので、横で聞き耳立てながら漫画読んでるよ、いつも。
まだ、恋愛感情って感じではないと思う。
というか、そう信じたい。
「終盤のトリックが予想外で、あっ……」
カウンターを挟んで楽しそうに小声でお喋りしていた二人に、後ろから本を抱えた女子生徒がやって来た。
おそらく貸出をお願いしたいのだろう。
本の内容について語る美鈴ちゃんが、そのことに気づいて言葉を止める。
「ごめんなさい、私楽しくなっちゃって……。ここじゃ邪魔になりますよね。私帰りますね」
横に退け、後ろの女子に場所を開けながら、寂しそうに笑った。
まだ、話したいみたい。
くっ、私に……私にちゃんとした本の読書癖があったなら、話をすることができたのに!私漫画しか読んでないよ。
「待って。そこ」
自分のダメさに反省していたら、緑士が美鈴ちゃんを呼び止めた。
「そこ」って、何が言いたいのかサッパリ分からないけどさ。
美鈴ちゃんも意味を分かりかねたみたいで、首を傾げる。
ああ!きょとんとした顔可愛い!
「まだ話そう?そこのイスに座ってて」
緑士はカウンター内のイスを指さして、女子生徒の貸出作業を始めてしまった。
イスに座って待っててってこと?
まだ話したいってこと?
きいぃぃー!やっぱりコイツやり手だよ。
マイペースで無害っぽいツラして、しっかり美鈴ちゃんと仲を深めてやがるよ!
美鈴ちゃんは一瞬呆けた顔をして、次の瞬間には嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
くそっ、可愛すぎるよ!
葵先輩、私がライバルキャラとしてでしゃばるために、こんな奴には負けないように頑張ってください!
私、応援してますからね!
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる