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5月

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私には、最近密かな野望がある。

聞いて驚け!
それは図書室の漫画を全部読破してやろう!というものである。

え、ショボイ?
失礼な。ここの漫画が何冊あると思っているんだ。

時間に余裕がある時には、なるべく図書室に来るようにしている。
はじめは私が真面目に本を読んでいるのだと思っていた千香ちゃんが、実は漫画を読んでただけだと知ると呆れかえっていた。

それでも、放課後に何度か私と一緒に図書室に付き合ってくれる千香ちゃんは優しい。
そして漫画を楽しむ私の横で難しい本を読む文学少女を、漫画そっちのけでウットリと見入るのだ。
だから千香ちゃんがいると、漫画があんまり進まない。悩ましいことである!

本日も目標のために、手に汗握りながら漫画を読書中である。
今日は用事があるってことで千香ちゃんがいないから、進むペースも早い。
ただし、心の中は寂しさいっぱいである。ああ、千香ちゃん……。

寂しいけど……、悲しいけども……。
千香ちゃんはいないけど、私には美鈴ちゃんもいる!

そう、漫画ばかりに気を取られてるが今日は美鈴ちゃんが図書室に来ているのだ!

張っていた甲斐がありましたぜ!
ヘッヘッヘ。

林という協力者を得ても、私が私で情報を集めることを止めたりはしないですよ!
美鈴ちゃんも私の心のオアシスだからねっ。

図書委員であり、攻略対象の緑士はカウンターで仕事をしている。
貸出だったり返却の受付をしていて美鈴ちゃんと絡む余裕はまだなさそうだ。
それなら、まだ漫画に集中してても平気だよね。今こっち、いいところだからさ。


「緑士先輩、お疲れ様です」

そんな小さな声が聞こえて私は顔を上げる。

いつの間にか、カウンターが空いてるっ!
気づかなかったよ。

「ありがとう」

カウンターの外側には美鈴ちゃんが、内側には緑士が向かい合っている。

「この前教えてもらったこの本、すごく面白かったです。全然次の展開が読めなくってハラハラしました」
「楽しんでもらえて良かった。僕も美鈴ちゃんに教えてもらった本読んだよ。あの作品いいねぇ」

ゆっくりした口調でニコニコの緑士は、私が気づいた時には美鈴ちゃんのことをサラリと名前呼びしていた。
思い返せば初対面の時に、自分のことを名前呼びにさせたのだから意外とやり手なのかもしれない。
葵先輩、負けないでね!

しかも、美鈴ちゃんも図書室にはよく来るようで、多分攻略対象の中で一番会う頻度が高い。私がいない時でも、会っていることがあるらしいのだ。
そのせいか、互いに自然と名前呼びしていて親しくなってやがるのである。
葵先輩は美鈴ちゃんとまだ全然親しくなれてないのにー!やばいよ、危険だよ。

仲の良い二人はいつも互いが勧めた本の感想について話をしている。
私にはチンプンカンプンなので、横で聞き耳立てながら漫画読んでるよ、いつも。

まだ、恋愛感情って感じではないと思う。
というか、そう信じたい。

「終盤のトリックが予想外で、あっ……」

カウンターを挟んで楽しそうに小声でお喋りしていた二人に、後ろから本を抱えた女子生徒がやって来た。
おそらく貸出をお願いしたいのだろう。
本の内容について語る美鈴ちゃんが、そのことに気づいて言葉を止める。

「ごめんなさい、私楽しくなっちゃって……。ここじゃ邪魔になりますよね。私帰りますね」

横に退け、後ろの女子に場所を開けながら、寂しそうに笑った。
まだ、話したいみたい。
くっ、私に……私にちゃんとした本の読書癖があったなら、話をすることができたのに!私漫画しか読んでないよ。

「待って。そこ」

自分のダメさに反省していたら、緑士が美鈴ちゃんを呼び止めた。
「そこ」って、何が言いたいのかサッパリ分からないけどさ。

美鈴ちゃんも意味を分かりかねたみたいで、首を傾げる。
ああ!きょとんとした顔可愛い!

「まだ話そう?そこのイスに座ってて」

緑士はカウンター内のイスを指さして、女子生徒の貸出作業を始めてしまった。

イスに座って待っててってこと?
まだ話したいってこと?

きいぃぃー!やっぱりコイツやり手だよ。
マイペースで無害っぽいツラして、しっかり美鈴ちゃんと仲を深めてやがるよ!

美鈴ちゃんは一瞬呆けた顔をして、次の瞬間には嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
くそっ、可愛すぎるよ!


葵先輩、私がライバルキャラとしてでしゃばるために、こんな奴には負けないように頑張ってください!
私、応援してますからね!

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