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4月
図書室はいい所でした
しおりを挟む入学から二週間ほど経った。
ずいぶんと学園に慣れてきたけど、図書室に足を踏み入れたのは今日が初である。
本を読まないから図書室なんて来ることがないと思っていたけど、ここの図書室最高ですっ!
そもそも、本嫌い、本を開かない、読まないという私がここへ来た理由は、ヒロインである美鈴ちゃんを追いかけてきたことにある。
放課後、千香ちゃんから職員室に用事があるからどこかで待っていてと言われた。
とりあえず教室で待っていたのだが、廊下を美鈴ちゃんが横切るのが見えたのだ。
ここはストーキングするしかない!と思い至り、後を付けて来て図書室へ誘われたわけだ。
そして、今。
私はドキドキワクワクしながら状況を楽しんでいる。
図書室に入ってすぐ右手にある貸出カウンターにいるのは、やや眠たげな男子生徒。
攻略対象の一人、図書委員の少年である。
名前?
そんなものは知らない。男子の名前なんて覚えてるはずがないでしょうが。
フワフワした柔らかそうな髪で、カウンターに伏せっていて今にも寝そうな少年の前には、美鈴ちゃんが選んできた本を抱えて立っている。
学園に入ってから初の攻略対象との絡みですよ!
「あのう、貸出お願いしたいんですけど」
美鈴ちゃんが申し訳なさそうに声をかけると、少年は眠たそうに目を擦りながら体を起こし、本を受け取る。
「ん、この本」
「え?」
「面白いよね」
受け取った本を見て手を止めてから、美鈴ちゃんに向けてへにゃりと笑った。
さっきまで寝る寸前だったのに、今は美鈴ちゃんに本の感想の同意を求めるなんてマイペースすぎるでしょう。
さらに、普通の人よりもややゆっくりとした話し方がのんびりとした印象を与える。
一方の美鈴ちゃんは困ったように小さく微笑んだ。
「この作品は読んだことなくって……。でもこの作家さんの他のお話は好きですよ」
「なら、この話も好きだと思う。この人のこと知ってるなんて珍しいね、君」
男子生徒の顔からは先ほどまでの眠そうな様子は消え、柔らかな笑顔が浮かんでいる。
つられたように美鈴ちゃんも笑った。
「あなたも、ですよ。私の周りにこの作家さんの話を読んだことある人いなかったんで、知っている人に会えて嬉しいです」
「僕も嬉しいよ。もし良かったらさ他にも読んだことある本とか、お勧めの本について教えて」
「えっと――」
いきなりで戸惑ったような美鈴ちゃんを見て。
「今じゃなくていいよ。僕、二年の楠 緑士。結構な頻度でここにいるから、いつでもいいから来て教えて?あと、その本の感想も知りたいな」
「はい。私は一年生の愛咲美鈴です。よろしくお願いします、楠先輩」
「緑士でいいよ」
「え、それは」
さすがに上級生で初対面の先輩を名前呼びするのは、と躊躇している美鈴ちゃん。
けれど、そんなことを気にも留めずに本の貸出処理を終えた緑士。カウンター内から少し屈んで美鈴ちゃんと同じ目線の高さに合わせ、顔を近づける。
「りょくしせんぱい、はい、くり返して」
「りょ、くし先輩」
顔の近さに照れているのか、顔を赤らめながら囁くように答えると、
「よくできました」
笑って本を渡しながら、緑士が褒めた。
軽くお辞儀をして、美鈴ちゃんが図書室を出ていく。
緑士は、カウンターで伏せって再び眠そうにしている。
す、すげー!!
主人公が魔法少女に変身して必殺技を使って悪の敵を倒したぞ!
なんの話だ、って?
漫画の話ですよ。マ、ン、ガ!
図書室に入って少しの所、カウンターの横に漫画コーナーがあったから、読んでたのだ。
もちろん、さっきの美鈴ちゃんと緑士のやり取りも見ていたけど、漫画も読んでいた。
ここの図書室に置いてある漫画は、面白そうなものがたくさんある。
最高です!また、来て続きを読みます!
私は図書室には無縁だと思っていたけど、攻略対象との絡みと漫画を楽しみに今後も通おうと思います。
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